2023年4月の記事一覧
月の砂漠のかぐや姫 第267話
母親は村を出ることを決意しました。
娘の病が良くなったわけではありません。むしろ、その逆です。娘の熱は一向に下がらず、このままでは、その小さな体が耐えきれなくなりそうでした。
では、どうして母親はそのような状態の娘を残して、村を出ることを決めたのでしょうか。そして、彼女はどこへ、何をするために、行こうというのでしょうか。
それは、彼女が「どうか娘を助けて下さい」と懇願するために何度目かに長
月の砂漠のかぐや姫 第266話
彼女が祈りを中断した時と言えば、長老に会いに行く時ぐらいしかありませんでした。遊牧民族は代々の知恵を口伝えで後代に託していくのですが、それを一番多く知っている者が長老なのです。長老の前に出た彼女は文字通り地に伏して、この病気を治すにはどうしたら良いか、どうにかして娘の命を助けていただけないかと、涙ながらに尋ね、また、すがるのでした。
もちろん、長老は村の指導者でもありましたから、母親に問われる
月の砂漠のかぐや姫 第265話
「なんだ、これはっ!」
「ええっ?」
羽磋と王柔は、同時に驚きの声を上げました。彼らの心の中に、まるで複数の語り部から同時に昔話を聞かされているかのように、いくつもの場面が一斉に浮かび上がってきたのです。それらは、生じた順番などには全く関係なく、無秩序に浮かんでは消えていきました。でも、青い空気が胸をいっぱいに膨らませているせいでしょうか、彼らはそれそれの場面が何を意味するものかを、はっきりと認
月の砂漠のかぐや姫 第264話
ゴフウウ、ゴオオオオン!
ヒュウウ、ウウウウウウウ・・・・・・・。
三人の身体は濃青色の球体の外殻を通り抜け、その内部でグルグルと渦巻いている雲の中にズボンと入り込みました。
遠くの空間に浮かんでいる時から、球体は人が何十人も入れるような広い天幕程の大きさがあるように見えていましたし、それが丘に近づくにつれてそれ以上の大きさがあることがわかってきていました。ですから、理亜や羽磋たちがそこへ