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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2023年3月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第263話

月の砂漠のかぐや姫 第263話

 それに呼応するかのように、王柔と羽磋の身体に伝わる理亜の力が増々強くなりました。まるで、理亜とその球体とが、お互いに強く引きあっているかのようでした。
 王柔も羽磋も理亜が飛び出していかないように、彼女を抱く腕に全身の力を籠めていました。
 彼らの腕の中でもがいているのは本当に小さな女の子なのかと疑いたくなるぐらい理亜が発する力は強く、彼女を掴んでいる力が少しでも弱まれば、その瞬間に自分たちを振

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月の砂漠のかぐや姫 第262話

月の砂漠のかぐや姫 第262話

「王柔殿、理亜! 危ない、それから離れてっ!」
 咄嗟に羽磋は、二人に青色の球体から離れるようにと大声を出しました。
 でも、王柔と理亜はその球体の前で抱き合いながらも、逃げ出そうとはしません。どうしてでしょうか。羽磋は視線を奥へやりました。間違いありません。濃い青色の球体の姿はどんどんと大きくなってきています。こちらへ近づいて来ているのです。いまではその球体が発する気が強風の様にこちらへ吹き付け

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月の砂漠のかぐや姫 第261話

月の砂漠のかぐや姫 第261話

「どう、どうすればいいんだ・・・・・・」
 もちろん、羽磋は将来を期待された勇気ある若者でしたから、ずっと恐怖心に捕らわれ続けていたわけではありません。初めて濃青色の球体を見た時の大きな衝撃が通り過ぎた後には、心の底から上がって来ようとする恐怖心を何とか押し戻すことができていて、この場面で自分がどうすれば良いのかを考えようとしていました。でも、そこで彼は止まってしまいました。わからないのです。どう

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月の砂漠のかぐや姫 第260話

月の砂漠のかぐや姫 第260話

 実際には、王柔たちは丘の向こうから聞こえて来た異音の正体を調べるために、ぐるりと丘を回り込むように移動をしましたから、その急斜面を登ってはいません。
 もしも、羽磋と王柔が両手両足を使ってそこを登ろうとしていたら、どうなっていたでしょうか。その斜面を登る前に王柔は肩を脱臼していましたから、羽磋が彼の治療をしたとは言っても、やはり相当の苦労をしていたでしょう。ひょっとしたら、苦労をするどころではな

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