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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2022年7月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第236話

月の砂漠のかぐや姫 第236話

 羽磋を先頭にした短い隊列は、足早に洞窟の奥へと進んでいきました。
 ザザザシャ・・・・・・。シャササア・・・・・・。
 羽磋たちが歩いている箇所と川との距離は離れる時もあれば近くなる時もあり、水音が小さく聞こえる時もあれば大きく聞こえる時もありましたが、それが全く聞こえなくなることはありませんでした。川が完全に地中に潜ってしまうことはなく、それは常に洞窟と並走しているようでした。
 羽磋は心の奥

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月の砂漠のかぐや姫 第235話

月の砂漠のかぐや姫 第235話

 洞窟の中に風は吹いておらず、音としては川の水が立てるササシャ・・・・・・というものしか耳に入りませんでした。これまでにあまり意識したことはなかったのですが、ゴビの荒地に風が吹かない日はほとんどなかったので、風が肌に当たる感触やそれが起こす音を感じられないことも、羽磋たちの心を荒立たせ疲れさせる要因の一つになっていました。
 洞窟の両側も天井も床も、川の水を除けば全てが冷たい岩で覆われていました。

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月の砂漠のかぐや姫 第234話

月の砂漠のかぐや姫 第234話

 大空間の池の横で野営した時と同じようにこの洞窟の中にも朝日が差し込むことは無かったので、次の日の朝が来たと決めたのは王柔の感覚でした。朝になったと羽磋と理亜を起こす王柔の声は、一人で過ごす時間をようやく終えることができるとの安心感に満ちていました。
 遊牧民族にとって家畜の世話は自分たちの朝の支度よりも優先して行うべきものなのですが、彼らが連れていた駱駝は昨日の騒動でいなくなっていましたから、羽

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