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2019年10月の記事一覧
月の砂漠のかぐや姫 第72話
どうして、王柔はこれほどまでに奴隷の少女を、気に掛けるのでしょう。
白い頭布を巻いて月の民の男としてふるまってはいますが、実は、王柔は月の民の者ではありませんでした。彼は月の民の勢力圏の直ぐ西で遊牧を行っている、烏孫(ウソン)族の者でした。烏孫と月の民は、その遊牧を中心とした生活様式や、身体の特徴もよく似ていました。その上、言葉も通じますから、彼のように堂々と月の民を名乗り、自分の後ろ盾となる
月の砂漠のかぐや姫 第71話
奴隷たちの言うことから、寒山にもおおよその状況が掴めてきました。
どうやら、奴隷の少女が体調を崩して歩けなくなってしまったようでした。それを護衛隊の男が何とか歩かせようと槍の尻で小突いたりするのを、王柔がやめさせようと割って入ってきたところから、激しい言い争いに発展してしまったようでした。
「確かにあの奴隷の子は、少し前から調子が悪そうにしていたな。おおそうだ、王柔とかいう案内人が、旅の始め
月の砂漠のかぐや姫 第70話
「あれは、先導役の王花の盗賊団の男だ。どうして、後ろに向かって走っていくのだろうか」
王柔の姿は、山脈のように連なっている駱駝の背の影から見え隠れしながら、遠ざかっていきました。それを目で追いながら、寒山は、腹の中で不安という黒い塊が、ずしっと存在を主張し始めたのを感じました。
「何事もなければ良いが・・・・・・」
自分を落ち着かせるためなのか、また無意識のうちに髭をなでながら、寒山はつ
月の砂漠のかぐや姫 第68話
遊牧と共に交易を主な生業とする阿部たち肸頓族にとって、ヤルダンに複数の盗賊団が出没して、そこが安全な交易路でなくなることが、一番困ります。
本来は、民から税を徴収して、その代わりに安全を保障するのは「国」の仕事なのですが、月の民という「国」は、複数の遊牧民族の緩やかな集合体であり、政治の中央に位置する人々の指示が国の隅々にまで届くような制度は、存在していないのでした。
ましてや、遊牧民族は、
月の砂漠のかぐや姫 第67話
「あ、あそこ、何か動きませんでした? 大丈夫ですかね。大丈夫ですかね・・・・・・」
「おい、おい、お前が言うなよ。案内人はお前だろうが。大丈夫かどうかは、こっちの台詞だぜ?」
「あ、すみません、すみません。もちろん、大丈夫です、大丈夫ですとも。道は、ばっちり覚えていますし、何よりも僕がいる限り、盗賊に襲われる心配はありません。それは、保証いたします。でも・・・・・・。なにか、変な影が見えませんでし
月の砂漠のかぐや姫 第66話
ここで、物語は、時間を少し前に遡ります。
それは、羽磋たちが、一つ目のオアシスに近づいて歓声を上げたときから、一月ほど前の出来事でした。
彼らとは別の交易隊が、西から東へ、土光(ドコウ)村を目指して進んでいました。
この交易隊が辿っている交易路は、土光村と吐露(トロ)村を結んでいる交易路で、吐露村からさらに西側は、月の民とは別の遊牧民族、烏孫(ウソン)の勢力圏の中にまで、続いていました。