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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2019年3月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第24話

月の砂漠のかぐや姫 第24話

 やがて、渓谷中に広がった、月を間近で見るかのごときその強い光は、少しずつ少しづつ力を弱めていきました。
 でも、最後にその光が収まった先は、元の竜の玉ではありませんでした。今、柔らかな白黄色の光を放っているもの、それは、竜の玉を前に座っている、白い羽衣を身にまとった弱竹姫の実体でした。
 弱竹姫の意識体が見守る中で、弱竹姫の実体はか細い声で唄を歌い始めました。それは、弱竹姫が意識したものではあり

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月の砂漠のかぐや姫 第23話

月の砂漠のかぐや姫 第23話

「姫っ」

「弱竹姫っ」

 阿部と大伴は、祭壇の弱竹姫に声をかけました。いえ、声をかけずにはいられなかったのです。計画は阿部が立てたものですし、大伴もその内容を知っていました。ですから、弱竹姫が行う儀式が、目的を達成するための大事な儀式であることを、彼らは理解していました。
 でも、その儀式を司る秋田に、彼らは信用を置けなかったのです。「秋田は何かを隠している」、その思いが彼らの内に、この儀式に

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月の砂漠のかぐや姫 第22話

月の砂漠のかぐや姫 第22話

 
                   ◆

 ゴオオオッ! シゥウウッ!

 膝をつかせた二頭の駱駝の間で、少しでも砂と風から輝夜姫を守ろうとして、羽は彼女に覆いかぶさっていました。
 周囲を窺うために耳を傍立てる羽でしたが、砂嵐が立てる音とは明らかに違う音が近づいてきていることに、気が付きました。
 高く鋭い音。そして、猛々しく無慈悲な音。

 シュウウウオオオオオオ‥‥‥! ヒュウヒュウッ

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月の砂漠のかぐや姫 第21話

月の砂漠のかぐや姫 第21話

「おお、阿部殿」

 弱竹(ナヨタケ)姫の後を追いかけてきた大伴も、阿部と弱竹姫の会話に加わりましたが、二人は大伴をではなく、別のところを眺めていました。大伴は、二人が見つめる先に何があるのかと不思議に思い、二人の視線を追いました。そして、苦々しく顔をしかめました。どうやら、大伴も秋田と呼ばれる男を快く思ってはいないようでした。
 三人から投げかけられた視線に気が付いたのか、頭巾をかぶった男は軽く

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月の砂漠のかぐや姫 第20話

月の砂漠のかぐや姫 第20話

                 ◆

「もう一度お聞きますが、宜しいのですね、弱竹(ナヨタケ)姫」

 真剣な面持ちで、男は女に確認をしました。ただ、その言葉には、単なる確認以上の複雑な感情が込められているようで、聞く者によっては「断りの返事」を求めているようにさえ聞こえるのでした。

「ええ、私がどうなるかわからないことは、十分に承知しています。でも、この事によって皆の血が流れることが少なくな

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月の砂漠のかぐや姫 第19話

月の砂漠のかぐや姫 第19話

「そうだ、輝夜。俺だよ、羽だ。もう大丈夫だよ、だから、痛いところをちょっと見せてくれ」

 なんとか少しでも輝夜姫を安心させたいと思い、羽は自分でも思ってもいない言葉を口にしました。
 大丈夫? とんでもない、もう俺たちはハブブに呑み込まれてしまった。この暗さと、風の強さと、砂の勢いはどうだ。大丈夫だと? よく言うぜ、俺。だけど、輝夜は何も悪くない。俺の言葉通りに行動してくれただけだ。せめて、この

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月の砂漠のかぐや姫 第18話

月の砂漠のかぐや姫 第18話

                    ◆

「うう・・・」
「どうしました、姫、・・・・・・姫」

 暗闇の中で、誰かが自分を呼ぶ声がしました。誰でしょうか、この、とても温かい声の持ち主は。
 彼女は、ゆっくりと瞼を開きました。
 まず、視界に入ったのは、夜空全体に広がって輝く無数の星々。今日は月が出ていないのでしょうか、星々はその存在を、いつもよりも声高く主張しています。視界の隅で夜空の両端を

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月の砂漠のかぐや姫 第17話

月の砂漠のかぐや姫 第17話

 羽が出した合図は、「駆けだせ」の合図ではなく、「できるだけ速く歩け」の合図でした。
 ここまでバダインジャラン砂漠を歩いてきた羽には、砂漠には平らなところがほとんどないことが、身に染みてよくわかっていました。
 砂漠では常に強い風が吹いている上に、その風向きは一定ではありません。また、足元の砂は水のように滑らかで、風の力によって風紋と呼ばれる形を浮き上がらせるほどです。
 これらの条件が合わさっ

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