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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2019年1月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第8話

月の砂漠のかぐや姫 第8話

「そうなんだよ、竹、駱駝だよ。多分、俺が結わえた前足のひもが緩かったんだ。ここらには見当たらないから、あいつ、どこか遠くまで餌でも探しに行ってしまったのかも知れない」

 悔しそうに下を向きながら話す羽の言葉を、大伴が引き継ぎました。

「そうなんです、竹姫。おそらく羽の言う通りどこかに行ってしまったと思いますが、あいつを探すにしても、どこを探したものか手掛かりがないのです。まだ、ここにきたばかり

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月の砂漠のかぐや姫 第7話

月の砂漠のかぐや姫 第7話

 竹姫は大伴の一族と一緒に行動しているので、食事や睡眠なども大伴や羽たちと共にとっていました。
 移動のない時には、陽のあるうちに食事や家畜の世話等も済ませることができるのですが、その日は宿営地を決めて準備を始めたのが遅い時間であったため、水汲みから戻ってきた竹姫や家畜の世話等をしていた羽が、有隣の心づくしの夕食をとることができたのは、もう暗くなり始めた頃でした。
 一番大きな大伴の天幕に集まって

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月の砂漠のかぐや姫 第6話

月の砂漠のかぐや姫 第6話

 ゴビに点在する水場は、ナツメヤシが茂るオアシスであったり、祁連山脈からの伏流水が地上に顔を出している湖であったり、また、深い谷底をわずかに流れる細い細い川であったりと、土地ごとにその様子は異なりますが、この度の宿営地の近くにあった水場は、少し規模の大きなオアシスでした。
 月の民は水場のすぐ近くに宿営地を設けると水場に住む精霊の機嫌を損ねるとして、少し離れた場所に天幕を立てることを習慣としていた

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月の砂漠のかぐや姫 第5話

月の砂漠のかぐや姫 第5話

 やがて、一行が進む赤茶けた台地の上に、ぽつぽつとではありますが下草が見られるようになり、少し先にはナツメヤシの姿を見ることもできるようになってきました。

「よし、お疲れさん。しばらくはここで宿営するぞ、皆準備をしてくれ」

 ようやく一行がナツメヤシが林立する小さなオアシスに辿り着いたところで、大伴が皆に設営の合図を出しました。
 太陽は頂点を過ぎて地に向かい始めていました。夏営地から秋の遊牧

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月の砂漠のかぐや姫 第4話

月の砂漠のかぐや姫 第4話

 幸いなことに、竹姫は、村人みんなに見守られながら、健やかな少女へと成長しました。
 親代わりの翁の目から見ても、その姿の麗しいことは暗い夜の中で草原を照らす満月のよう、その声の清らかなことはオアシスに湧きでる祁連山脈の雪解け水のようでした。
 また、竹姫は、とても人々に愛されていました。竹姫のように「神の子」、「月のお使い」とされる存在は、月の民の他部族にもおりました。でも、一般的にそれらの「巫

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月の砂漠のかぐや姫 第3話

月の砂漠のかぐや姫 第3話

 村の中心にある広場では、大きな篝火が夜を焦がさんばかりに焚かれていました。
 讃岐村に貴霜族の遊牧隊が戻ってきて初めての夜で、村をあげての歓迎の宴が開かれているのでした。
 連れ戻ってきた羊などの家畜は村の外の仮柵に入れられて休息をとっていましたが、遊牧から戻った者たちや村人達は、お酒やご馳走を楽しみながら、大きな声で笑いあったり話し合ったり、また、抱き合ったりして、家族や友人との再会を大いに楽

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月の砂漠のかぐや姫 第2話

月の砂漠のかぐや姫 第2話

 村人から尊敬を込めて翁と呼ばれる老人は、竹林で拾った赤子を白衣に包んで連れ帰り、大切に育てることにしました。
 でも、翁の妻も彼と同じ年頃でしたから、赤子に乳を与えることはできません。そこで、翁は、讃岐の村で最近子供を産んだ女を探し、乳母とすることにしました。見つかったのは、有隣(ユウリ)という名の女性でした。彼女は、讃岐の村が所属する貴霜(クシャン)族の大伴(オオトモ)という若者の妻で、ちょう

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月の砂漠のかぐや姫 第1話

月の砂漠のかぐや姫 第1話

 昔々のその昔。
 遠い遠い国での物語です。
 その頃は、まだ、人と自然は共に在り、神々や精霊は身近に感じられるものでした。
 祁連(キレン)山脈の北側には、ゴビ砂漠、あるいは、単純にゴビと呼ばれる荒れ地が広がっていました。砂漠と言っても、すべての場所が砂に覆いつくされているのではありません。ほとんどの場所には、草がまばらに生えただけの荒れ果てた大地が広がっています。
 ゴビはごくわずかしか雨が降

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月の砂漠のかぐや姫 はじめに

月の砂漠のかぐや姫 はじめに

(note版 はじめに)

 「月の砂漠のかぐや姫」は、僕が2018年4月頃から、はてなブログ等に投稿している、長編物語です。せっかくなので、noteにも投稿しちゃいましょう、ということでございます。年の始まりという、このせっかくの区切りを逃すと、もう二度とこの重い腰を上げる機会は訪れないような気がしますし。(^-^;
 内容は、既に投稿しているものから、基本的には変えません。(明らかな間違いは除

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