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孤独を忘れた7時間【かるまる池袋@池袋駅】

 人間は、基本的に外向型か内向型かの2タイプに分かれるらしい。詳細についてはマーティ・O・レイニー著『内向型を強みにする』に体系的にまとまっているので割愛するけれど、それぞれの最も顕著な特徴としては、外向型の人は生きるための精神的なエネルギーを外部からの刺激によって生み出す傾向があるのに対して、内向型はそのエネルギーを自分自身の思考力によって生み出す傾向があるそうだ。別の表現をすると、受け取った情報を感情的に処理するか論理的に処理するかの違いとも言えるのかもしれない。
 そして、そのそれぞれの特徴は先天的な気質によるもので、そもそも脳の構造が生まれながらにして若干異なるらしい。つまり、努力だけでは変えられないものもあるということだ。

 僕自身はどちらなのかというと、典型的な内向型人間である。これを自覚したのは、会社員だった頃に価値観の合わない同僚たちと同じ空間で同じ時間を過ごさなければならないことに強烈なストレスを感じて、どうすればうまく人付き合いができるかを知るためにさまざまな書籍を読み漁ったことがきっかけだった。ここで初めて「内向型」という単語に出会ったのである。

 僕は昔から友達付き合いが苦手だった。誰とでも分け隔てなく打ち解けられるタイプの人間ではなく、自分と相性の良い相手としかコミュニケーションを取ろうとしないし、チームでなにかに取り組む場合もストレスを感じることのほうが多かった気がする。明らかに内向型の性格だったのだ。
 さらに、親しくない人たちの中に混ざると頭痛がしてくることもあって、異業種交流会や5人以上の飲み会には特別な理由が無い限り参加しないようにもなった。実は、無理をしてそのような場に参加をしていた時のほうが、むしろ孤独を感じてしまうことが多かったのだ。逆に、一人でいる時間のほうが心が満たされ、寂しさを感じず、ストレスを抱くこともない。
 僕にとって一人でいることは、必ずしも孤独であるとは限らないのだった。

 しかし、そんな僕からすると、一人の時間に没頭して非日常感や癒しを享受できる「サウナ」という場所は、ある意味で諸刃の剣のような存在なのである。サウナには不特定多数のお客さんが集まっており、ごく稀にマナーがよろしくないお客さんと居合わせることもある。僕はこの時、心の安らぎを求めにサウナを利用しに来たはずにも関わらず、むしろ強烈なストレスを感じてしまうことがある。
 だからこそ、僕はサウナに行きたくなった時、場所と時間帯を慎重に選ばなければならないのだった。

 そんな僕の元に、ある朗報が飛び込んできた。それは池袋にある「かるまる」が発表した「おひとり様徹底期間」のお知らせである。

 これを受けて、Twitterにはサウナ愛好家たちの喜びの声が溢れたのだった。というのも、僕は基本的には温浴施設に関するネガティブな意見を取り上げたくはないのだけれど、「かるまる」の客層がよろしくないことについてはサウナ愛好家の間では周知の事実であり、そのために足が遠のいていた人も一定数いたためだ。

 今だから言えることではあるけれど、かくいう僕もその一人だった。ただでさえ周囲の環境に敏感な気質である僕が、このようなお客さんが集まりやすい店舗で癒しを得ようとすれば、余計に神経質にならざるを得なくなったのだ。その結果、施設自体の満足度は非常に高いにも関わらず、周囲にいるお客さんのマナーが気になるあまり、徐々に通う頻度が減っていったのだった。
 だからこそ、この「おひとり様徹底期間」の発表は僕にとって朗報以外のなにものでもなかった。そして来たる1月18日(月)、僕は「かるまる」に数ヶ月ぶりに伺うことを決めたのであった。

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 池袋駅に到着したのは正午ごろ。そこから徒歩5分ほどで、見慣れた建物と看板が現れた。

「ご無沙汰しております」

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 2020年4月の緊急事態宣言が発出される前の2ヶ月間ほどは毎週のように通っていた「かるまる」。当時は「ホームサウナ」と呼んでいたこともあって、生まれ故郷に帰ってきたような懐かしささえ感じた。

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 以前に動画で紹介したこともあったけれど、ここで簡単におさらいしておくと、「かるまる」とは10階建てのビルの3〜10階を占める、宿泊機能も備えた大規模サウナ施設だ。
 受付とロッカーは6階にあり、3〜5階が「宿泊エリア」、7階がリクライニングチェアや豊富な漫画が揃っている「休憩エリア」、8階が「レストランエリア」、そして9〜10階がメゾネットタイプの大浴場となっていて、ここに4種類のサウナ室と4種類の水風呂がそれぞれの個性を発揮している。

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(かるまる池袋公式サイト: https://karumaru.jp/ikebukuro/guidance.html )

 僕はさっそく受付がある6階までエレベーターで移動し、下駄箱に靴を預けて受付(誓約書記入)を済ませ、ロッカールームで館内着に着替えた。

「では、行きますか」

 僕は浴場フロアと7階の休憩エリアを往復することを想定して、館内バッグの中にパソコンや充電機器、サウナハットなどを入れ、浴場がある9階へと移動した。そこにある脱衣所で館内着と荷物をロッカーにしまい、山積みになっているタオルから1枚を手に取って、いよいよ浴室への自動ドアを通り抜ける。

「空いてる……!!!(歓喜)」

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(池袋に爆誕したサウナの楽園「かるまる」が良すぎて一生家に帰れないかもしれない: https://travel.spot-app.jp/karumaru_yoppy/ )

 さすが「おひとり様徹底期間」かつ平日お昼の時間帯。サウナのテーマパークと化していた、あの「かるまる」がガラガラだ。しかも、本当にグループ客が見当たらない。すなわち、おしゃべりをする人もいないわけである。こんなに贅沢なことがあって良いのだろうか。

 僕は興奮を抑えながら、まずは身を清めてから炭酸泉でコンディションを整えることにした。温度は38℃。広々としたお風呂をほぼ独り占めだった。

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(かるまる公式サイト: https://karumaru.jp/ikebukuro/spa.html#section-bath )

 体が少し温まったところで、さっそくメインの「岩サウナ」へと向かったのだが、ドアのガラス越しに中を覗くとほぼ満席状態だった。

「なるほど、お客さんはここに集まっていたのか」

 岩サウナが空くのを待っている時間がもったいなかったので、僕はすぐ隣にある「ケロサウナ」に入ることにした。ドアを開けてみると、以前に増して神聖な空気が漂っていた。

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(東カレジャーナル: https://tokyo-calendar.jp/article/17189 )

「では、本日1セット目をいただきますか」

 僕は入り口のそばに積まれているサウナマットを手に取り、空いているスペースに腰をかけた。少し温度が低そうな気がしたが、温度計を見たところ案の定80℃を指している。「ケロサウナってこんなに柔らかい温度だっただろうか?」と少し物足りなさを感じてしまったものの、湿度が適度に維持されているので徐々に熱を感じてきた。
 すると、僕が蒸され始めてから3分ほどが経過した頃、近くにいた方がラドルを手にしてロウリュをしてくれた。そう、ケロサウナではセルフロウリュが可能なのだ。
 しかし、いざアロマ水をサウナストーンの上に落としていっても、蒸発する音は一切聞こえない。

ーーそうか、まだセッティングが完璧な状態ではないのかもしれない。

 珍しい光景を目にして少し動揺してしまったものの、とはいえじんわりと、確実に僕の体は蒸されていく。

 ここで気付いたことがある。異様なくらい静かなのだ。そういえば、サウナストーブを囲む柵のところには「会話厳禁」と大きく書かれたプレートが設置されていて、そこにいるお客さん全員がそのルールに従っている。なるほど、やはり今回の「おひとり様徹底期間」の施策が功を奏しているのだ。僕自身ももちろん一人で来ているけれど、ここにいる人たちも基本的には「おひとり様」のようだった。
 知らない者同士で蒸されているのであれば、結果的に会話も生まれにくい。そもそも、ここには「かるまる」が新たに提示した厳しいルールに納得したお客さんしか来ていないはずである。ということは、今ここで僕と一緒に蒸されているお客さんたちは、それぞれが個人で来ているものの、同じ目的を達成するために、同じ時間に同じ空間を共有していることになる。これを”同志”と言わずなんと言おうか。
 過去に何度か参加した異業種交流会と同じように他人同士で共に過ごしているはずなのに、あの時に抱いた孤独感や疎外感など、この場所には存在していなかった。むしろ非常に居心地が良く、思わず笑みがこぼれてしまった。
 それから蒸されること約10分。サウナ室の温度は柔らかかったものの、さすがにそれだけの時間を滞在すれば僕の体温も自然と上昇してきて、心臓の動きが激しくなっていくのを感じていた。

「そろそろ出ますか」

 僕はサウナ室を出てすぐ隣にあるシャワーで頭から汗を流し、水風呂に浸かった。温度は25℃。水風呂にしては少しぬるいほうではあるけれど、今日のような日はそれが逆に心地よい。「やすらぎ」という名の通りだ。

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(かるまる池袋公式サイト: https://karumaru.jp/ikebukuro/spa.html#section-sauna )

 深呼吸をしながらぼーっと周囲を眺めていると、心臓の動きも徐々に落ち着いてきた。僕はゆっくり立ち上がり、そのまま同じフロアにある外気浴スペースに移動して、”ととのい椅子” に腰をかけた。

「はぁ〜……最高だ」

 こんなに居心地が良いのであれば、このままずっと「おひとり様徹底期間」を続けていただけないものだろうか。僕の心は満たされ、都心の風を受けながら一呼吸おいたあと、ほかのお風呂やサウナ室、7階の休憩エリアなども利用させていただきつつ、この日は19時過ぎに退館した。

 滞在時間は約7時間。この間、一時的に若干お客さんの数が増えたものの、持っていった耳栓の出番もなく、浴場では終始快適に過ごすことができたのだった。これはお客さん一人一人がマナーを守っていたからだけではなく、なによりスタッフの方々の尽力の賜物でもある。僕はこのような、時流に乗った取り組みを行う温浴施設さんを、今後も応援し続けたいと思う。

 一人でいることは、決して孤独であるとは限らない。こんな時代だからこそ、「おひとり様」の時間を味わうことができるサウナ愛好家が一人でも多く増えることを願っている。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ


①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます