紙一重の先入観【コナミスポーツクラブ 目黒青葉台Ⅳ＠中目黒駅】（1/2）

　僕は他人が考えていることをおおよそ当てることができる。表情のちょっとした変化や仕草、語気の強弱や息遣いなどから、相手の心の声が聞こえてくるのだ。もちろん100％わかるわけではないけれど、これまでの経験上、当たっていることのほうが圧倒的に多いように思う。
　その能力が異常に高いためか、会話をしていても相手の発言をちょっと聞いただけで話の先が読めてしまうことが多い。先日も知人と話をしていて魚料理の話題になった時に「魚を焼く時に……」と相手が話し始めたところで「フライパンに敷く焼き魚用のシートって便利だよね」と反射的に言ってしまったのだけれど、「なんで（今から言おうとしたことが）わかるの？」驚かれてしまった。だが、僕にとってはそのようなコミュニケーションは日常的に起こりうるのだ。

　なぜ僕がここまで相手の心の中を読めるようになってしまったのかというと、物心がついた時から自分の予想が的中することに喜びを感じる性格だったためだろう。
　僕はあらゆることに対して仮説を立てて検証する一連の作業が好きで、そのため昔から推理小説や最後にどんでん返しが起きるような伏線回収系の映画を好む傾向があった。そういった作品は結末に近づくまでの過程でヒントとなる情報が散りばめられていて、それらの整合性に矛盾が生じないように組み立てていくことで、ある程度の結末を予想することができるためだ。その予想通りの結末を迎えた瞬間の喜びがたまらなく、もしも予想が外れたとしても自分の頭の中で新たな視点を持つことができるようになるので嬉しいのである。
　このほかにも、普段生活をしていて道端ですれ違う人の頭の中が読めてしまうこともあるし、仕事においては相手の本音を察した上でコミュニケーションを取れるために円滑に進めることができる場合もある。

　ただ、この能力は役に立つこともあるけれど、同じくらい損をすることも多かった。「予測能力」と「思い込み」は表裏一体なのである。特に、なにか新しいことにチャレンジしようとする時には人一倍慎重になって先のことを計算してしまい、動き出す前に失敗する結末が見えてしまうと結局なにも行動せずに終えてしまうようなこともザラにあった。もしかしたらうまくいくかもしれないにも関わらず、である。
　だからこそ、僕は自分の背中を押してくれるような存在を大切にしたいと思うし、行動力のある人のことを尊敬している。

　そのような性格だから、サウナを新規開拓するのも実は一苦労なのだ。その店舗の設備やセッティングについては事前に公式サイト等で確認することができるものの、僕が最も重要視している要素である客層や混雑状況についてはタイミングや運によるところも大きいため、それらのポイントで店舗選びに失敗する可能性があるのであれば、普段から通い慣れているサウナに行ったほうがいいのではないかと考えることも多いのである。

　そんなある日、僕は道端で立ち止まって悩んでいた。たまたまサウナの写真が目に留まったためだ。それは大型ジム施設の中にある設備のひとつであって、あくまで僕の目の前にあるのはサウナ施設ではなくジム施設なのだが、だからこそ全く中身を予想することができずに思考を巡らせていたのである。
　その写真に近づいてみると「スパ施設のみでもご利用いただけます」と書いてあった。しかも平日990円、休日でも1,100円と妥当な金額だ。しかし、ジム施設のサウナは過去に利用した経験がなく、良くも悪くも未知数で、期待と同じくらい不安も大きくなっていった。
　だが、冷静に自分の本音と向き合ってみると、すでに結論は導き出されていたのだった。

ーーここまで悩んだのなら、利用しないのはもったいないか。

　そして、それから数日経った2021年9月30日(木)、Web上であらかじめ入会金の1,100円を支払って登録手続きを済ませていた僕は、準備を済ませて自宅を出たのだった。

ーー後編に続く

（written by ナオト：@bocci_naoto)

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