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コンセプトストーリー「嵐の夜の記憶」

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ある物語に沿った作品をまとめています。
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#詩

知ることは少なく、日々

知ることは少なく、日々

海を見に行くことがありますか
まるで
今まで辿ってきた道を思い返すように
白と桃色が混じった空 反射する水面の色
隣に住む男の子はいつも学校の制服を着たまま出かけていた
道ばたで出会ってもあいさつなんてしないのだし
話しかける作法さえも分からない
だから
何か知りたいなんて思わないように すれ違う

ただ過ごしやすい気候が続きますね
そういえば
今晩、姉が卵を届けてくれると言う
わたしなどは とい

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期待

期待

今日も毎日と変わらない一日が過ぎていく
早起きの朝は跳ねる気持ちを持て余して
どうせ転ぶのでしょうと 期待とは真逆の言葉が口をこぼれる
古い教会の廊下の奥を光が跳ね回っている
ほこりがかった空気を反射する陽光
まるで 人の意思など届かない世界の朝もやのように

はらはら
はらはらと 懐かしい祖母の声が舞う

どこからか入り込んだ猫が迷っている
わたしは撫でてやることすらできず
その進む先を目で追っ

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両の手

両の手

夜に限って利き手が震え
手紙を書くことを邪魔する

だから今日も何も伝えられませんでした。

そうあなたに報告する為だけにあるわたしの口と
そこから発せられる言葉
利き手でないほうの手で何ができる
それぞれの手で床の木目に触れてみても
その感触に大した違いは無いというのに

その、不器用なほうの手であなたの手紙を数える
あまりにぎこちないその手つきに笑ってしまう
返事を書けないままでいる手紙を、

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秘密

秘密

秘密を知りたいと思っていた
どんなことでもいい
この世界が隠している本当のこと
自分には少しも関係のない何か
知る必要の無いことを知ることができたなら
その度に少しは大人になれるのだろうと夢想していた

鳥がささやく彼らだけの言葉
虫が這う葉の裏に刻まれた文字
路地裏を吹き抜ける風が運んでくる石の欠片
その欠片は、誰かが意味を持って砕いた、意味の無い一片でしかないのだろう

大人たちはいつも知らな

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火のように伝われ

火のように伝われ

火が燃えている
まるでそう感じるような
ただまばゆい夜明けの夢だった
寝床から這い出て耳をすますと
人々の声
ああ、声が……
ひとつひとつ聞き分けることなどできない
一人ひとりが何かを伝えているはずの声、声
きっと そのはじけるような音の群れが
わたしにあんな夢を見させたに違いない
人々が伝えようとする思いは混ざり合い火のように
いつものわたしの心に焦げ跡を残す
どうして人々の声は無関係な者にも気

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記憶、波の奥底の

記憶、波の奥底の

だんだんと思い出は暗さを増していくものだ
過去を思えば思うほど
織り重なった薄幕の奥へ歩み入るように
幾重もの波の底に沈みたゆたうように

光は
遠ざかる

ある夜、何かを告げる鐘の音が風の隙間から聞こえてきて
それが何だったのか知ることはなく夜は明けた
知らなくてもよかったことなんだよ。
と、友達は言うけれど
きみもただ何も知らなかっただけなのだろう

「知らなくてもよかったことなんだよ。
 知

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