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記憶、波の奥底の

だんだんと思い出は暗さを増していくものだ
過去を思えば思うほど
織り重なった薄幕の奥へ歩み入るように
幾重もの波の底に沈みたゆたうように

光は
遠ざかる

ある夜、何かを告げる鐘の音が風の隙間から聞こえてきて
それが何だったのか知ることはなく夜は明けた
知らなくてもよかったことなんだよ。
と、友達は言うけれど
きみもただ何も知らなかっただけなのだろう

「知らなくてもよかったことなんだよ。
 知れば、それは思い出に変わってしまうから」

わたしはきみのことを思い出にしてしまったけどなって思う

雪の降る朝、いつもの景色を歩きながら海を見た
ほんの一歩だけ足早に反射するきらめきをつかまえようと駆けだしたきみ
後ろ姿がきれいだったよ
その一時を失うことが怖いわけではないのだ
ただ、どうしたって思い出は深みに置いておくものだから
きみのことも、暗闇の中で思い出させてね

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