祖母と母から受け継いだコンポスト 生ごみから始まる都会の小さな循環 平希井さん〈前編〉
8/31の放送は、ローカルフードサイクリング株式会社の平希井(たいら・けい)さんをゲストにお迎えしました。同社は、微生物の働きを活用して家庭からでる生ごみを分解させ堆肥(たいひ)にする事業を、福岡県を拠点に展開されています。
生ごみや落ち葉などの有機物を、微生物の働きにより発酵・分解して堆肥をつくること、またそのための容器は「コンポスト」と呼ばれています。前編では、祖母から母、そして娘の平さんへとコンポストの活動が受け継がれ、起業に至った経緯などをうかがいました。
家庭の生ごみを堆肥化する「コンポスト」をもっと手軽に
ローカルフードサイクリング株式会社は、皆さんのご家庭から出る生ごみを土の栄養となる堆肥に変えていく「コンポスト」の製造販売、普及を行っている会社です。本社は福岡にありますが、EC販売なども行っており、全国規模で活動を展開しています。
従来の家庭用コンポストはダンボールタイプのものが有名だったと思いますが、私たちが販売している「LFCコンポスト」はトートバッグ型のコンポストで、都市部に住んでいる方々により手軽に快適に使っていただけるよう開発したものです。
今日、このコンポストを持ってニッポン放送まで電車に乗ってきたのですが、見た目は普通のトートバッグなのでまさか誰もこの中に堆肥が入っているとは思わなかったと思います。
バッグの中の堆肥は既に完成したものです。生ごみ由来なので魚の骨や玉ねぎの皮、卵の殻など皆さんが日々食べているものが栄養になってここにしっかり入っています。
作り方はとても簡単です。バッグの中には基材と呼ばれる微生物の働きを促すものがもともと入っているので、これを床(とこ)にして生ごみを入れてかき混ぜておくと自然に微生物が発生して生ごみを分解してくれます。ベランダなどに置いて使いますが、匂いもとても少ないコンポストなので、マンションのお隣の方にも気づかれずに堆肥を作ることができます。
堆肥が完成するまでの期間は、どれくらいの生ごみを入れるかによって変わってきます。だいたい毎日ボール1杯分の生ごみが出る方だと2か月ほど投入し続けたのち、さらに3週間ほど分解を進めていく熟成期間を設けていただいて完成となるので、約3~4か月ほどになると思います。
半径2kmの生活圏で「食」を循環させるツールに
私がコンポストの普及・啓発に携わるようになったのは、祖母と母の影響です。私の家では子どもの頃から生ごみはにコンポストに入れるのが当たり前だったので、「生ごみを捨てる」という姿を見たことがありませんでした。ですから、大学生になって友達の家で一緒に料理をしていたときに「生ごみ、これに入れてね」とビニール袋を手渡されても、どうすればいいかわからなかったのです。「捨てる」と言うので驚いてしまいましたが、友達の方もビックリして「捨てずにどうするの?」という反応でした。
実は、当時このやりとりをした友達が最近コンポストを始めてくれてとても嬉しかったのですが、手軽に取り組めるツールが認知され、最近都市部を中心に利用者が増えてきています。コンポストはもともと様々なタイプがあり、畑で使うような置き型もあれば、ダンボールでできたものもあります。それぞれ皆さんのライフスタイルに合ったものを選んでいただくのが、続けてもらう上でおそらく一番重要なことだと思います。私たちは都市部に住んでいて自分ではなかなか堆肥の使い道がないという方へのサポートも行っているので、そういった方には非常にフィットするコンポストになっています。
私たちは「半径2km」という生活圏で、地域の人が生ごみを捨てずに循環させる仕組みが理想的だと思っています。なぜ半径2kmかというと、これくらいが「自分ごと」としてものごとを捉えられる距離だと思っていて、イメージとしてはだいたい自転車で回ることができる範囲です。やはり、捨てたごみが収集車で運ばれ、遠く見えないところで埋め立てられるという距離感では自分ごとでなくなってしまいます。
しかし、自分の家のベランダで作った堆肥が近くのコミュニティーガーデンで使われて野菜になり、わが家の食卓にやってくるなら、この循環が自分ごととなり「楽しい」と感じられるのではないでしょうか。私たちの社名である「ローカルフードサイクリング(LFC)」にもその思いを込めています。
祖母、母、娘とつないだ「コンポスト」
ローカルフードサイクリング社は私の母が代表取締役を務めていますが、生ごみ由来の堆肥づくりの普及活動はもともと祖母の代から始まり、三世代で行っている活動です。祖母が堆肥を作るようになったきっかけは、地元福岡で結婚したばかりの頃はお金が無かったため、所有していた痩せた土地をどうにかして栄養豊かな土地にしたいと思ったためでした。当時、農業を行っていた祖母の母、つまり私の曾祖母から有機物を入れれば土が肥えると教わり、それならば日々の生活で出てくる生ごみを畑に戻して堆肥にすればいいと思いついたとか。それからは楽しんで探究しながら堆肥作りに目覚めていったそうです。
私たちがLFCコンポストにたどりつくまでにはやはり試行錯誤がありました。実際、生ごみを直接土に埋めるのが一番原始的で簡単だったのですが、生ごみ=栄養の塊があるとモグラなどの動物が掘りにきてしまうといった問題が発生しました。そこで、やはり何かしらの「容器」が必要だということになり、ダンボールやプラスチックなども試してみたのですが、各家庭でそれぞれが行うだけでは食の現状を変えていく大きな活動にはつながりません。わたしたちは半径2kmの地域で食が循環する仕組みを作りたいと考えて研究開発を進めていきました。
「NPO」から「ソーシャルビジネス」への転換
こういった試行錯誤は、今私が所属するローカルフードサイクリング社の前身となるNPO法人「循環生活研究所」時代に行われました。約20年にわたってコンポストの普及活動を行っていたわけですが、もともと庭をもっている方や畑をやっている方、環境意識の高い方を中心にある程度は広まったものの、そこで頭打ちになり、限界がありました。
また、食や環境のため熱心に活動されている方がいる一方で、都市部の人々は生ごみをたくさん出しながら「マンション住まいだから」「庭がないから」「土の使い道がないから」など、都会特有の理由でなかなか活動できないといったハードルがありました。9割以上の人が生ごみを捨てている現状をどうにかできないかと考えたときに、都市部での参加しやすさを重視する必要があったのです。
そこで、都市部が抱える最大の問題点である「作った堆肥を自分で使い切れない」という問題を解決するため、地域の中で持ち寄る場を作ればいいのではないか、という案が浮上しました。この発想を起点に、持ち運びしやすい取っ手のついたバッグ型コンポスト(LFCコンポスト)のデザインにたどり着いたのです。
このLFCコンポストの完成とともにNPOから会社組織に展開していったのですが、会社化した背景には、より積極的に事業展開していくことで、私たちが思い描く循環生活をもっと広げていきたいという思いがありました。このLFCコンポストは、会社化する際に急に努力して作り上げたわけではありません。それまで20年間行ってきたNPO活動で培ったノウハウが全て詰め込まれて出来上がった商品なので、自信をもって普及活動を行っています。
LFCコンポストをご購入いただいたあとは、私たちが主催する「コンポスト講座」を受けていただくことも可能です。実は、このLFCコンポストを始めようと思ってくださる方の8~9割の方が「初めてコンポストをやります」という方です。取り扱い説明書はもちろんあるのですが、コンポストアドバイザーが行うコンポスト講座を実際に受けていただくことにより「これなら私にもできそう」という気持ちを持っていただけるといいなと思っています。
都会でのコンポスト生活は豊かな時間をもたらす
コンポストを生活に取り入れるにあたって、実際に日々行うことはそんなに難しくありません。バッグ型コンポストの中に入っている基材に穴を開けて生ごみを入れて蓋をする。また混ぜて、穴をあけて生ごみを入れて蓋をするということの繰り返しです。
これを続けていくと、だんだんコンポストの中で微生物が自然発生して生ごみを分解し始めます。途中でホカホカとちょっと温かさを感じることもあると思います。分解の過程はとても面白くて、例えばメロンの皮があみあみの状態で見えてきたり、スイカの皮が3日で消えてしまったりするので、この中で起きる化学反応的な変化を観察するのがとても楽しくなります。また、自分の手で物質を変化させることができた、と実感することも大きな喜びにつながります。
さらに大きな変化として、コンポストを始めると明らかにごみの量が減っていくのです。燃えるごみの中でだいたい3~4割が生ごみと言われているので、その分が実際に減ります。かつ、重さという観点で言うと、家庭で出るごみ全体の半分の重さが生ごみだと言われているので、それも半減します。このように自分でごみを減らすことができたという実感を持てることも重要です。
こうして出来上がった堆肥を使って、自分の家のベランダで家庭菜園を行い、収穫した野菜を食卓に上げることができたなら、これもまた大きな喜びになるでしょう。
最近では、子どもたちが学校でコンポストを学び、家に帰って伝えることで親御さんが初めてコンポストを知り、実際に始めてみたというお話も耳にします。やはり買ってきた土で普通に家庭菜園をやるよりも、自分たちの出した生ごみが巡り巡って野菜になれば、子どもたちにとっても大切な体験となるでしょう。食の循環を実感することは、とても豊かな気持ちをもたらすのです。
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