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わたしは、なぜ書くのか。『書くことについて』スティーヴン・キング

子どもの頃、わたしは小説家になりたかった。

本を読むことが好きで、学校の図書室に足しげく通っては、常に何かを読んでいた。学校で、希望の本をまとめて注文してくれるときがあって、その注文用紙が配られる時がものすごく楽しみだったし、図書室にあった『マチルダは小さな大天才』という本が特に好きで、何度も借りていたことを覚えている。

そんなふうに本が好きだったので、「自分も本の作者になりたい」と思うのはごく自然な流れだったように思う。いつしか、わたしの将来の夢は「小説家」になっていた。


小学4年生くらいの頃から、自分でお話を書いていた。といっても完全なオリジナル作品ではなく、当時もっていた『スーパーピッキートーク グルタンの森』という女児向け電子手帳のキャラクターを使ってオリジナルのストーリーを書くという、いわゆる二次創作的なことをやっていた。当時はPC黎明期で、子どもが自由に触れるPCなんて家にはなかったので、キャンパスのノートにひたすら手書きで自分の思いついたストーリーを書きつづっていた。それはすごく楽しかったし、小説家になる夢もそう遠くないぞと密かに心の中で思っていたりもした。


中学生になったころ、親から使わなくなったワープロを譲り受けた。わたしがお話を書いているのを親は知っていたので、今度はワープロ使って書いてみたら?というわけでわたしに譲ってくれたのだ。ワープロがもらえたら今度は完全なオリジナル小説を書いてみようと思っていたわたしは、喜び勇んでワープロの電源を入れてフロッピーディスクを差し込んだ。
けど、全然書けなかった。


キャラクターがあらかじめ用意されていたときにはあんなにすらすら書けていたのに。1から全部自分で作ろうと思ったら全然指が動かなくて。才能あるかも、なんてちょっとでも思っていた自分が恥ずかしくなった。


その後部活のほうが楽しくなって、書くことはぴたりとやめてしまった。結局、せっかくもらったワープロはほとんど活躍することなく、フロッピーにデータが書き込まれることもなく、わたしの執筆活動はそこで一旦終了した。


けど、わたしは根本的に書くことが好きなんだと思う。小説こそ書いていないけれど、高校生の頃にブログが流行ったときに自分もブログを書き始め、何度か移転や再開を繰り返しながら、今に至るまでなにかしらの形で書き続けている。

才能がないと思った。自分は書くことに向いてないのかもしれないと思った。書くことをやめたこともある。けど、やっぱり諦められなかった。


つい最近も、しばらくやめていた書くことに改めて向き合い始めたばかりだ。今度は、というか今度こそは、書くことを諦めない、諦めたくないという気持ちで向き合っている。

書くことをもっと知りたい、書くこととちゃんとわかり合いたいという思いで、何冊かの本を買った。そのなかの一冊が、スティーヴン・キング著『書くことについて』だ。


この本は、主に小説の書き方やコツについて、著者の自伝を交えながら書かれている。かといって単なるハウツー本ではない。著者の考える「書くこと」との向き合い方や、どうやってその知識を手に入れてきたのか、という経過についても触れられていて、数々の作品を生み出してきた小説家の人生や頭のなかを、まさにのぞき見しているような内容となっている。


小説を書くにあたっての作法が書かれた本ではあるが、小説だけでなく全ての書くことに共通する大事な言葉が、作中にはいくつも登場する。

ものを書くときの動機は人さまざまで、それは焦燥でもいいし、興奮でも希望でもいい。あるいは、心のうちにあるもののすべてを表白することはできないという絶望的な思いであってもいい。拳を固め、目を細め、誰かをこてんぱんにやっつけるためでもいい。結婚したいからでもいいし、世界を変えたいからでもいい。動機は問わない。だが、いい加減な気持ちで書くことだけは許されない。繰り返す。いい加減な気持ちで原稿用紙に向かってはならない。
作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ。私の知る限り、そのかわりになるものはないし、近道もない。

気が付いたら、本がふせんとラインでいっぱいになっていた。書くときのテクニックうんぬんよりも大事なことを、この本からたくさん教えてもらったように思う。


わたしは、なぜ書くのか

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本を読み終えて、自分自身を振り返ってみたくなった。
わたしはなぜ書くのだろう。わたしが書く動機はなんなんだろう。


わたし自身、これまでの人生のなかで何度も、誰かの書いた文章で何かに気づかされたり、ひとり激しく共感したり、自分の気持ちを分かってくれている人がいると勇気づけられたりしてきた。

だから、自分も誰かのそういう存在になれたらいいと思っている。誰かの心を動かし、少しでも何かを変えるきっかけになればいいと思って書いている。
いろいろなことに思い悩み、立ち止まっている誰かの背中をほんのちょっとだけ押すことができたら、と思っている。

文章を書くことで、あなたはひとりじゃないと伝えられたらいいと思うし、文章で誰かとつながりたいという自分自身のエゴもある。


今まで何度も書くことを諦めようとしてきたけど、やっぱり諦められなかった。それはやっぱり文章を書くことが楽しいからだ。言いたいことを上手く表現できなくてモヤモヤすることもあるし、書きたいことがまとまらなくて全然書けないこともあるけど、それでもやっぱり諦められないのだ。

先ほど本のなかから引用したように、たくさん読み、たくさん書くことを続けていこうと思う。それしか道はないと、スティーヴン・キングも言っているから。


小説を書くことはだいぶ前に諦めてしまったけれど、この本を読んでもう一度チャレンジしてみたくなった。実は書きたいネタだけはずっと集めていたので、ストックはたくさんあるのだ。


この本は、わたしにとって、書くことへの執念の着火剤のような本だった。書く人として生きていきたいという気持ちを再認識させてくれた、大事な本になった。

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