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【アングラ小説】二元論──善意・衝動・混沌、すべてが本当の私[中編]

※少し過激かもしれません。ご注意ください。

<あらすじ>
児童養護施設の聖堂でクロスの前にぬかづく女。彼女は20代でこの施設を立ち上げ、以来10年、多くの傷ついた子どもたちを愛情豊かにケアしてきた。
近年、運営が厳しくなっていたところに、ある全国ネットのテレビ局から取材の話が舞い込み、寄付が増えればと話を受けた。
女には、もう1つの顔があった。女は、男が好きだった。特に手荒く犯されるのが好きだった。たくさんの男たちに犯されてきた。
女は美しかった。放送をきっかけに、女の運命は大きく狂うのだった。

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取材後、夕方の情報番組に数分間取り上げられた。
すると、反響が大きかったようで、夜のニュース番組の特集で取り上げさせて欲しいと頼まれた。

正直、怖かったが、資金は欲しい。「施設の紹介、子どもたちの様子メインで、私の登場が短ければ」と引き受けた。

様々な児童虐待の事件が大きな社会的関心を集める昨今。
日本の児童養護施設における養護の貧困(必ずしもそんなことはないのだが)が指摘され、施設における虐待のニュースもたびたび報道されている。
日本の児童福祉の現場に対する世間の目は、厳しい。

そんななか、福祉先進国イギリスのバーナードスで本場のケアを学んだ独身のアラフォー女が、理想的な家庭的養護を目ざして児童養護施設を運営している。これは、マスコミの恰好かっこうの餌食だったかもしれない。

最初に取材に来た50がらみの男のディレクターが私を見て、品のない声で「すごくおきれいですね!」と言ったとき、嫌な予感はしていたのだ。ほんの一瞬、変わったアイツの目の色が、気持ち悪かった。

夕方の情報番組のときも、施設にそこそこの反響はあったが、夜のニュースの放送後はけた違いだった。

応援のお手紙を多くいただき、贈り物も増えた。
何より寄付の申し込みが増えたのがうれしかった。県内だけでなく、全国の個人・企業からお申し込みをいただいた。
定期スポンサーというお話も、数社の大企業からいただいて、驚いた。

これで、みんなに新しい学用品を買ってあげられる。
古い筆箱、手製の巾着きんちゃく袋、恥ずかしいよね。
給食当番のかっぽう着も、黄ばんでるし。


体操服のサイズが合わなくて恥ずかしいと言っていたもえに、新しいものを買ってあげられる。

奏斗かなと壮介そうすけにNintendo Switchも買ってあげられる。ゲームないと、友だちと話し合わないもんね。
真人まさとに自転車買ってあげられる。やっと友だちとお出かけできるね。

瑠偉るい凛音りんねにスマホを買ってあげられる。中古だけど。ごめんね、LINEできない中3女子なんて、あり得なかったよね。

わたるに、遠い県立高校、受験していいよって、言えるかも。
航、頭、いいんだもん。イケメンだしw 
あ、いけない、分け隔てはよくないね。
でも、航には絶対、大学まで行かせてあげたい。


今度は、取材テープを別番組に使わせてほしいという話があった。

逡巡したけど、スタッフを増やしたかった。頑張ってくれている今のスタッフのみんなに、手当てを出したかった。

子どもたちに、もっといい暮らしをさせたかった。君たちは悪くない。親ガチャ批判なんて、くそくらえ。現実みてみろよ、何でこの子たちがこんなに苦しむ。バカな親のせいで。

一度、放送されているしと思って、承諾した。


すると使われたのはバラエティ番組だった。「天使すぎる美女たち」という特別コーナーで、海外派遣の女医、公園での炊き出しボランティアの女性と一緒のくくりで放送された。

放送内容は編集で大きく変わっていて、ニュースのときよりもずっと、私自身にフォーカスされたものになっていた。出身地、学歴、留学先、帰国後の就職先まで紹介された。

すごく後悔した。

しばらく控えようと思った。

私は、人前に出てはいけない人間だ。

*   *   *

高校時代から、私は誰とでも寝る人だった。
2年生の冬に彼氏と初エッチをしてから、私は開花されてしまった。
同級生、先輩、後輩、バイト先の店長、バイト仲間。求められれば誰にでも体を開いた。

ギャルという訳ではない。むしろ清楚系だろう。
クリスチャン系の中高一貫校らしい格好をしていた。派手にしたいとは思わなかった。もちろん、黒髪だ。
遊びたいんじゃなくて、ただ犯されたかった。多くの男にもてあそばれたかった。

私はどうやら、美人らしい。
男たちの多くは最初驚き、そして、笑ってしまうくらい喜んだ。
なかには、さとしたり、退いたりする男たちもいたけれど。

あ、ボランティア先の特別支援学校の人たちとは寝なかった。寝ることで変わる人間関係が、子どもたちに影響するのが怖かった。私の、福祉にかける情熱は本物だ。


なぜかって? そんなの分からない。原体験なんかない。

これも本当の私。昔から、困っている人を放っておけなかった。強いて言えば、小学校3年生のときに読んだ『ヘレン・ケラー物語』にすごく感化されたことくらい。

大学で東京に来てから、私の性行動はますますエスカレートした。
ナイトスポット、出会いカフェ、フェティッシュバー、ハプニングバー、東京には何でもあった。途中からは、SNSや相席バーも加わった。

最初、好きだったのは、クラブかバーに数人で来ている男をひっかけて、自由にさせることだった。途中からはラバーでの拘束にもはまった。道具のように自由に使って欲しかった。ハプバーで、何人もの男に輪姦されている姿を、常連さんに見せるのも好きだった。

その後、はまったのが、SNSや酒場で互いに知らない男を数人ひっかけて、好きに使わせることだった。最初、躊躇ちゅうちょしていた男たちが、相互作用でたかぶり始め、ついには私を責め立てるのを見るのが好きだった。

イギリスでの話は、やめておこう。
今から考えれば、よく無事で日本に帰って来れたと思う。

ちなみに、私は性病には人一倍気をつけている。
HIV、B型肝炎、梅毒、その他、主要な性病は定期的にチェックしている。

長く遊び続けたいと思うから。

私が生きるには、それが必要だから──。


中編のエンディング曲、ビル・エヴァンスの「Gloria’s Step」。これも定番中の定番。ビル・エヴァンス最盛期のトリオ時代。スコット・ラファロがいた時代。彼を失った後のビル・エヴァンスに、すごく好きな曲はない。グロリアは、スコット・ラファロの恋人。確か、まだご存命。

※2番目の写真は「知る・見る・支える ソーシャルインクルージョン」より、3番目の若い女性の写真は「しらべぇ」より、4番目のクラブの写真は「東京ルッチ」より。


ネットで検索したら「ネット乞食」という言葉に出くわしました。酷いこと言う人、いるなー。でも、歴史とたどれば、あらゆる「芸」は元々「乞食」と同根でした。サーカス、演芸、文芸、画芸しかりです。つまり、クリエイトとは……、あ、字数が! 皆様のお心付け……ください(笑) 活動のさらなる飛