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コーチングの哲学――Zホールディングスのエグゼクティブコーチが大切にしていること

こんにちは、bizlogueです。

前回に続き、Zホールディングス株式会社(以下ZHD)でエグゼクティブコーチングを務める熊澤真さんを迎えての対談企画第2弾をお送りします。

今回のテーマは、Zホールディングス代表取締役会長の川邊健太郎さんをはじめ数々の企業トップのコーチを担当してきた熊澤さんが確立してきた「コーチとして大切にしているもの」、そして「コーチングの哲学」とは――?

bizlogueのメンバーで『ヤフーの1on1』『1on1ミーティング』の著者である本間浩輔が、熊澤さんのコーチングの哲学についてたっぷりと聞きました。


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コーチングの形よりも、対話の“今この瞬間”を大事にしたい

本間 僕はたぶん、数十人のビジネスコーチをしておりまして、また僕自身がクライアントとしてコーチングを受けた経験もあります。その中で熊澤さんというコーチはダントツなんですよ。それはケミストリーが合うということもあるかと思いますが、やっぱり外部から引っ張ってきてまで一緒に仕事をしたいなと思った人なんですよね。その流れで、熊澤さんは他のコーチの人とは何が違うのかという話をしたいと思います。僕が知る限り、一人のクライアントを受けると長いですよね。

熊澤 ええ、長いですね。

本間 それは1回の時間が長いのではなくて、5年、10年とずっと、ビジネスコーチなのかライフキャリアコーチなのかもうよく分からないくらいになることもあるかと思います。また、熊澤さんはいわゆるコーチングというスキルをクライアントに分かるようには使わない。僕はこれまでに3、4人の超一流と言われている人たちのコーチングをクライアントとして受けたことがありますが、「この人はここを大切にしているな」とか「この理論を大切にしているんだな」ということは分かるんです。でも、熊澤さんはそうしたスキルを使っているんだろうけれど、全く感じないところがあるんですよね。

熊澤 感じませんか(笑)

本間 ほら、よく“形(かた)無しと型破り”と言うじゃないですか。形が無ければ型破りもできないという、これは歌舞伎ですかね、そういう意味合いの言葉があったと思います。ちゃんと形を学ぶことが重要で、形も無く自由にやっちゃうのは“形無し”であり、形がありながら目的に向かうために時にはそれを超えるのが型破りだと。それで言いますと、熊澤さんは型破りなんですよね。熊澤さんがコーチをしたり、あるいは色々なエグゼクティブコーチをしながら確立してきた、今日時点で大切にしていること、形よりも型破りしてもいいと思っている熊澤さんの奥底にあるものは何でしょうか?

熊澤 そもそも私は自由人でして、形を守り続けるのはどちらかと言うとあまり好きではないんです。

本間 でも、熊澤さんは形を勉強していると思いますし、その形をやれと言われればできるんですよね?

熊澤 それは、はい、トレーニングもやっていましたから。ですが、逆に自分がコーチングを受けた時に「あ、これは形だな」「お決まりのヤツね」と思った瞬間、僕はちょっと冷めてしまうんですよね。対話ってエキサイティングで、今まさに起きているこの状態を扱いたいと僕は思っています。“今起きていること”というのは、おそらく現場の部下の方、メンバーの方、上司の方にも起きているんだろうという、“今この瞬間”のネタをそのまま対話したいんですよ。なので、自分が形というものと交信しながら会話してしまうと、目の前のクライアントの“今この瞬間”をキャッチできないと思っているので、セッションする前はフラットにするためにちょっと瞑想したりとかしていますね。それで心がザワザワしていない素の状態に保ち、その感覚を研ぎ澄ませて会話をスタートするように意識しています。

本間 それは勉強しているコーチとは何が違うんですかね?

熊澤 なんでしょうねぇ……僕も勉強はたくさんして、研究もしてきましたが、全てやってきたものをいったん捨てて、“今ここ”にいようとしている感じですかねぇ。“今この瞬間”ですね。

合う・合わない、クライアントとコーチの相性

本間 なるほど。“今この瞬間”はすごく大事ですよね。あと、僕が熊澤さんに対して思うのは、よくプロフェッショナルコーチやカウンセラーって、その場ではちゃんと寄り添うんだけど、コーチングやカウンセリングが終わった瞬間にクライアントに対してちょっと“症状”のようなものをつけると言いますか、例えば「あの人は自己客観視できない」とか、あの人はこうですとか、そういう傾向ありませんか?

熊澤 あ~、あるかもしれないですね。

本間 症状をつけることによって重くなって大騒ぎするというのが僕は大嫌いなんですよ。勉強すればするほど理論と結び付けて「あなたにはこういう課題がある」というようなことを言うコーチが多くて、それは仕事だからいいのかなと思いつつ、何か違和感を感じるんです。熊澤さんはそうしたことはおそらく1回もないですよね。

熊澤 そうですね。僕もそれは嫌いと言いますか、その症状というものもその人の一部だと思っています。それが良い・悪いではなく、この事象に向き合ったときにAという症状を出すのか出さないのかはその人が選べるものなので、Aという要素が出たからこそ「あの人はAですね」ではなくて、「あなたがAというものを使うのか、使わないのかはあなた次第です」と思っています。ですから、レッテルを貼ることもしたくないですし、そのもの自体を大切にしたいと思っていますね。

本間 それって深い話になっていくんですけど、日本の場合は例えばコーチングやカウンセリングのコースを受講すると、正直、まじめにやっていれば資格を取れてしまう。ところが、資格を持っている人はコーチングやカウンセリングが必ず上手かと言いますと、運転免許みたいなもので無いよりは有った方がいいけれど、免許を持っている人が必ず運転が上手いかと言うと、そうではない場合もありますよね。運転に向いていない人もいる。だから、コーチングやカウンセリングも本当はもう一歩進んだ方が良くて、やっぱり向いている人・向いていない人っていると思いますか?

熊澤 それはいると思いますが、その学んだものをそれこそ型通りに使うというコーチもその人のスタイルだと、僕は思っているんです。

本間 そうか、なるほど。

熊澤 そう、そのスタイルのコーチと合うクライアントもいるのではないかと思っています。だから、コーチングはこういうものですよとは言いたくないですし、みんなそれぞれのスタイルがあっていいじゃん、みたいに思っていますね。何か業界的に「ウチはこのスタイルだ!」というふうに派が分かれているような気もしますが、僕にとっては全然一緒ですし、一緒だからこそ「この人にはあのスタイルのコーチをつけた方がいいんじゃない?」というように、そこは僕たちがマッチングするというくらいの感覚でいますので、どっちかを取り上げて「これが正しいものだ」とはしたくないという思いもありますね。

本間 2015年くらいのことですが、執行役員クラスにコーチをつけるとなったときに、「この人はこのコーチに合う・合わない」という議論を同じbizlogueのメンバーでもある吉澤さんと僕の間でも散々やりましたね。また僕自身、スキー、テニスに続く50代のスポーツ手習い第3弾としてゴルフをやろうと思っているんですけど、ある人に「僕に合うコーチってどんな人かな?」と聞いたら、「それは相性なんですよね」って、ひと言返ってきたことを思い出しました。どうしても僕なんかは技術を全面に押し出すコーチはちょっと引いてしまうし、1on1でも何かこうカウンセリングのスキルのようなものをどんどん使うコーチはちょっと……と思ってしまうのですが、熊澤さんのおっしゃる通り、それは合う・合わないなんでしょうね。

熊澤 そうですね。だから、僕の方からお断りしたケースもありますね。

学習よりも行動、「do」「have」「be」の3つを問いかける

本間 そうなんですね。でも、その中で熊澤さんのコーチングの特徴というのは「学習よりも行動」ですよね。

熊澤 もちろん学習も大事なのですが、行動してトライして、上手く行かなかったら何が学習テーマだったんだろうねと考えて、もう1回行動しようと働きかける――このサイクルですね。

本間 それは意識的・無意識的に僕もとても影響を受けていて、やっぱり1on1というのは最後に必ず行動計画で終わるものです。もしかすると10分、15分の会話がどんなものであっても、最後の行動計画がスパンと決まればそれでいいと言ってきましたし、その行動が上長側から見て「あれ?」と思うことであっても、短期間でやってみて失敗してということを繰り返せばいいと思っています。でもこの話をすると、失敗を許容するのかということをよく言われます。一方で、この種の質問は1on1をやり始めた人からではなく、これから会社に導入しようとしているときによく出る質問なんですよね。熊澤さんは、学習も大切だけど最後は行動だというところにとてもこだわっていて、それは僕たちに大きな影響を与えているということも含めて、そのあたりのコーチングの哲学と言いますか、考え方について教えてもらえますか?

熊澤 やっぱり僕は、会社が業績や目標を達成するためにどういう行動をしていくのかが大事だと思っていて、そのために内省も含めての育成があり、その両方はセットだと思っています。なので、業績を高めていくためには行動しないといけないし、その行動が上手くいくためには自分がバージョンアップしていかないといけない。だから、どういう行動をするのかという「do」と、どういう能力を身につけるのかという「have」、そしてどういうリーダーであり続けるかという「be」と、この3つを平行して問いかけるようにしていますね。

本間 エグゼクティブコーチとしてもやっぱり最後は行動になりますか?

熊澤 そうですね。「それで、どういうアクションをするの?」、そして「どう巻き込むの?」と問いかけます。結局、会社のトップや役員の人たちは周囲の人たちを動かしてナンボなので、僕は関係性というものを大事にしていて、それこそ2013年に川邊(健太郎/現Zホールディングス株式会社代表取締役会長)さんと関係する人をホワイトボードに書き出して、この人はどう影響するのか、どう関わるのか、この人たちを動かすためにはどう巻き込むのかという問いかけをたくさんしましたね。それで、巻き込もうとしたけど上手く行かなかったとき、「じゃあ川邊さん、あなたはどう変化する必要があるの?」「どういうバージョンアップをする必要があるの?」という、その連続でしたね。

本間 これも熊澤さんの1on1の特徴ですよね。マネジメントというものは自分でやるのではなくて、誰かの手を通じてやるべきことを成し遂げることだという定義もありますが、特に熊澤さんの面白いところは、エグゼクティブに対して「何をするの?」ではなくて「これに関しては誰と話すの?」、「誰にどう動いてほしいの?」と問いかけること。なんだろう、行動計画に人が入りますよね。

熊澤 やっぱり組織の事業を変えるためには人が動いてナンボなので、その人にどう影響を与えられるか。それで、多くのリーダーは「自分が何をするか」ということに対して「自分がやらないと」というふうに脳みそがセットされているような気がしているんです。他の人に頼っちゃいけないとか、頼ったら負けじゃないかと思っている人もいて……

本間 そういうタイプの人は確かにいそうですね。

熊澤 じゃあ結局、誰に聞けばいいの? 聞いたらすぐに解決するじゃんということが結構ありますよね。みんな誰もが「自分が、自分が」となって、自分がやる行動を考えているんですけど、結局、自分一人では上手く行かない。それならば、じゃあ、誰と事を成すのかということを問いかけていきたい。そういうイメージで取り組んでいますね。

(第3回に続く)

熊澤真×本間浩輔
連載第3回『手応えを感じているZホールディングスの「コーポレートコーチ」、その役割と機能とは?』

連載第1回『エグゼクティブコーチが考える「1on1とコーチングの違い」とは?』


bizlogueではYouTubeでも情報発信を行なっています。

■ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
(著・本間浩輔)

■1on1ミーティング―――「対話の質」が組織の強さを決める
(著・本間浩輔、吉澤幸太)

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