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手応えを感じているZホールディングスの「コーポレートコーチ」、その役割と機能とは?

こんにちは、bizlogueです。

前々回前回に続き、Zホールディングス株式会社(以下ZHD)でエグゼクティブコーチングを務める熊澤真さんを迎えての対談企画第3弾をお送りします。

今回のテーマは「コーポレートコーチ」について。なんだか聞きなれない言葉だなぁと思った人もいる一方で、ビジネス界隈では「コーポレートコーチ」という言葉が様々な意味で用いられているという話も聞きます。

ですが、ここで取り上げるのは、bizlogueのメンバーであり『ヤフーの1on1』『1on1ミーティング』の著者である本間浩輔と熊澤さんらがZHDで立ち上げた「コーポレートコーチ室」および「コーポレートコーチ」のことになります。ZHDにおけるコーポレートコーチの役割や機能、そして企業にもたらす効果などについて、熊澤さんと本間が意見を交わしました。


エグゼクティブコーチって何なんだ?

本間 今回はですね、そもそもエグゼクティブコーチって何なんだ?というところから始めましょう。僕たちはよく、スポーツのコーチ、ビジネスの現場のコーチ、エグゼクティブコーチを分けがちだけど、一方でそれぞれが言葉としてありますよね。つまりエグゼクティブコーチというのは、それはそれで一つの商品名のようなものでもあるわけです。熊澤さんはこのあたり、どう考えていますか?

熊澤 僕の主観と経験の感覚で言いますと、これは同僚であれ新入社員であれ学生であれ経営層の人であれ、僕が問いかけているコーチングのスタンスは同じだと思っています。

本間 ああ、同じなんですね?

熊澤 はい、僕は同じですね。それでエグゼクティブコーチというものについてですが、例えば同僚の人には普通にコーチができるのだけど、本当に上場企業の社長さんが目の前にいたときに同僚に対してと同じようにコーチができるのかどうか、ということの方が大事だと僕は思っています。

本間 うーん、普通はできないですよね。

熊澤 ええ。どうも人は、目の前にいる人が「すごい人だ!」と思うとどっちかに行ってしまうんです。迎合するか、マウントを取りに行くか。つまり、「そんなんだからダメなんじゃないですか」という感じでコミュニケーションを武器にしてマウントを取りに行くか、「おっしゃる通りでございます」という感じで迎合してしまうか、どっちかの構造で対話をしようとしてしまう。ですが、同僚の人に対してと同じようなスタンスで「今、話してもらったことが僕には全然伝わってこないです」というようなことをそのまま素で言えるかどうかが、僕は大事だと思っています。なので、相手の人がどのような人であれ、自分がそのままでいることができたらエグゼクティブコーチができるのではないかなと思います。

本間 なるほどね。でもやっぱり、これは日本人特有のことだと思いますが、その人のポジションで下手に出てしまうこともあると思いますし、逆に何とか相手と競って「いや、こうじゃないか」と言いたくなる人もいると思います。でも、あえてそうではないと。そして、だからこそ前回の対談2回目で熊澤さんが話してくれたように“無心”で臨むことが重要だというわけですね。

熊澤 そうですね、自分がそのままの素でいられるかどうか。「今、あなたが言っていることが僕にはちょっと理解できないのですけど、もう1回教えていただけますか?」というような感じで、ちゃんと“分からない”と言えるかどうかが大事だと思いますね。

コーポレートコーチ室はなぜ作られたのか?

本間 “素”か……うん、やっぱりそうなのかもしれないですね。では、次に話したいのは熊澤さんと僕が今取り組んでいる『コーポレートコーチ』というものについて。これは専門用語というわけではなく、僕と熊澤さんによる造語ですよね。

熊澤 はい、そうです。

本間 また、僕たちとは別にコーポレートコーチという言葉をたくさん使っている人もいます。それで僕がイメージしていたのは、主に2、3ありまして、1つは熊澤さんとの経験でコーチングはとても有効だなと思っていました。それは1on1でもコーチングでもどっちでもいいのですが、特にある意味キャリアの転機と言いますか、ポジションが上がる、大きな組織を見る、役員になるといったときに定期的に話をするだけで成長の速度が変わってくるなということがありました。そういうことでコーチングを使っていましたが、同時に2つくらいの問題があるなとも思っていたんです。

1つは、これはコーチングの良いところでもあるのですが、相手のことを“知らない”んですよ。この“知らない”というのは、コーチは会話の中だけで判断しているので、相手の人が組織において今どんな課題を抱えていて、他の人からどう見られているかということがやっぱりコーチには伝わらない。また、そのあたりの守秘義務とか倫理規定みたいなものがあってなかなか上手く行かない。とすると、その前提をなくすためには社員の近くにいてもらった方がいい。やっぱり、ある程度知っているという前提の中でやれるコーチングが会社の中にあってもいいのではないかと思ったのが、コーポレートコーチ室を立ち上げた理由の1つです。

もう1つは、金銭的な問題ですよね。外部からコーチを呼ぶとお金が相当かかります。

熊澤 そうですよねぇ。

本間 コーチングとエグゼクティブコーチングって、かかる費用が3倍くらい違いますよね。

熊澤 もっと違うかもしれません。

本間 そうか、もっと違うんだ。でも、おそらくコーチに支払われている金額はたぶん一緒だけど、“エグゼクティブコーチ”という名前がついた瞬間にコストが上がってしまう。このコストを社内で持った方がいいだろうと思いました。関連してもう一つ理由があるとすると、ヤフーがZHDになったことでZOZOとかアスクルとかに対してもサービスを提供できるようになる。となると、それはコーポレートコーチ室というものを作った方がいいのではないか。それで、比較的に社内とかグループ会社のことを知っていた僕と熊澤さん、同じbizlogueの仲間である吉澤さんなどが集まって、コーポレートコーチ室を作っていったわけですよね。

熊澤 はい。

人と人をつないでいくことも重要な役割

本間 やっていく中で、これは結構イケるなとか、ここが問題だなとか、僕たちは色々な議論を散々してきたわけです。それで、世の中には『コーポレートコーチ』という言葉が様々な意味でたくさん使われていると思いますが、僕と熊澤さんがイメージしていた『コーポレートコーチ』というものが実際にできたのはたぶんZHDが初めてで、これはイケるなと僕たちは感覚的に思っていますよね。一方で、熊澤さんはこの『コーポレートコーチ』に対してどう思い、どのように評価していますか?

熊澤 僕が持っている『コーポレートコーチ』のイメージは、トップの経営層の方たちのコーチをしている、そして色々なグループ会社のキーパーソンの方たちのコーチもしている、そうしていくことでコーチをしている人たちは会社の状況が分かってくる――もちろん、守秘義務を守りながらなんですけど、コーチをしていくとその事業の現状が分かってくるので、今ここにこういう課題があるんじゃないかということに対しても、これももちろん同意を得てからのことですが、この課題に対して会社の色々な外部ベンダーと連動しながらケアできるだろうと思っています。あと、コーポレートコーチの方々が色々な人のコーチをしていく中で、「この人とこの人をくっつけるといいんじゃない?」とか、「この人をつなげると化学反応が起きるんじゃないか」とか、特にLINEとヤフーのキーパーソン同士をつないで1回合同セッションをしたら合併が上手く進むんじゃないかとか、そういうふうにしてコーポレートコーチ室が関わった色々な人たち同士をつなぎ、そして組織の課題について全体で共有して、そこに向けて手を打っていく。こんなことができたらなと思っています。

本間 確かに「つなごう」ということを言ってきましたし、これは誤解が無きように言いますが、熊澤さんはコーチなので守秘義務がすごく強くて、いくら僕が熊澤さんの評価者であったとしても守秘義務に触れることは絶対に言わない。だけど、最近コーチングしている人の中でこういう話題が増えてきたとか、この情報に対してこれが足りないみたいなことを教えてもらえるから、それに対して僕が社長なり組織に働きかけるということをやってきましたよね。

熊澤 そうですね。それで必要に応じて「このテーマは川邊(健太郎/Zホールディングス株式会社代表取締役会長)さんと話した方がいいんじゃないですか」ということで合同セッションをしたりとかしていましたね。なんだろう、僕が伝書鳩になるのではなくて、本当に対話が必要な時には本間さんを活用してその場を設定する。そうやって対話を促進させていくことがコーポレートコーチの肝なのではないかなと思っていますね。そして、社外のベンダーとも連動しながらコーポレートコーチ室が色々な組織に働きかけると、すごく機能していくのではないかなと思っています。

本間 なるほど。

熊澤 1つ、思い出したことがあるのですが、ある取締役の方に「社内の人だとどんな人であれ、この人にこう言ったらこう伝わっちゃうだろうな、この人と話す場合にはこういう表現がいいかなと、必ず脳が動いてしまう。一方で、熊澤さんも社内の至る情報をたぶん知っているし、人間関係も分かっていますよね。だけど、コーチって本当に守秘義務が守られているから、熊澤さんのようなコーチには自由に話すことができる。だから、熊澤さんと話すこの場がかけがえのない時間です」と言ってもらえたことがあったんです。これはすごく嬉しかったですね。これってコーポレートコーチの醍醐味だなと、その言葉で実感した思い出があります。

本間 それは良い話ですね。会社の構成要素は人・金・物・情報だとみんなが口では言っていますが、案外、情報がどう流れるのかということはデザインしていないし、意識していない。かつてヤフーの社長を務めていた宮坂学さんが僕によく言っていたのは「レポートラインから上がってくる情報というものはなかなか大変だ」と。やっぱり、ちょっとずつ情報が丸まっていくから、宮坂さんのところに上がってきた瞬間には半分くらいになってしまうんですよね。だから当時、僕はヤフーの人事の責任者だったのですが、宮坂さんからは「あなたのポジションを利用して現場に行ってくれ」と。それで、特に言われていたのが「マイノリティの意見をできるだけ聞いてほしい」ということ。それはマイノリティというのは自分たちの意見を言いたいのではなくて、会社のことを案外冷静に見ているから、ということでした。一方で、熊澤さんは違う形ですが、情報を上手く流すとか、そういう情報流通オフィサー的な役割もあったかもしれないですよね。

熊澤 そうですね。だから、そこで僕に話すんだったら相手にそのことを直接話そうよという、その投げかけをしてきました。そして、その会話がスタートすると、第1回目の対談でも例に挙げたパイプの中のヘドロが出て、水が流れるようになるんです。

本間 ジャバ、ね。

熊澤 ええ、ジャバされるので、グーっと前に進むなぁという感覚がありますね。

本間 確かに僕らの議論の中で「AさんとBさんをつなごう」とかいう話をして、共通のセッションを組んだら、その後は熊澤さんが入らなくても2人で定期的な1on1をやっているということもありました。だから、そうしたことがあってからですよね、コーポレートコーチ室がイケそうだなと思ったのは。

熊澤 そうですね。また、コーポレートコーチという概念で言いますと、社外の人ともつなげるということもありましたよね。会社の中のキーパーソンに対して、この人はあの会社のあのリーダーと会話をすることで化学反応が起きるかもしれないなというふうに、人と人をつなぐということも意識していますね。

会社の中でもっと対話が促進していくことを働きかけていきたい

本間 一方で誤解があったのは、川邊さんと熊澤さんとのコーチングの関係が長かったので、熊澤さんに何か言うとそのまま川邊さんの耳に入ってしまうんじゃないか、ということ。川邊さんは川邊さんでそういうことは一切聞きたがらないですし、熊澤さん自身も川邊さんには何も言っていない。僕の認識する限りでは、僕が川邊さんに直接言うよりも熊澤さんは川邊さんに何も言っていないはずです。そのあたり、最初は結構誤解を受けてつらかったですよね。

熊澤 はい。やっぱり、川邊さんからの回し者?って言われたこともありましたね。

本間 それでちょっと落ち込んでいたこともありましたよね?

熊澤 (笑)。でも、その前に僕は一休の社長の榊淳さん、ZOZOの社長の澤田宏太郎さんのコーチをしていたのですが、グループ会社の社長と、その親会社の社長である川邊さんのコーチを平行してやっていたんですね。でも、3人ともずっと継続してやってくれている。これがクレジットになったんですよ。別に親会社の社長に告げ口しない、と。

本間 そうか。

熊澤 それで統合が上手くいったポイントは僕がコーチをしていたから、なんて全くそんな気はないのですが、でも、統合が上手く進んでいる感覚を一緒に歩んでいるという、そうした感覚はあったんですよね。そして同じグループ会社でありながら、それでも僕のコーチを受けてくれている3人がいたから、どうも熊澤は告げ口する感じではないなというクレジットになったという背景が実はありました。

本間 なるほど。今の話を聞いても、これからこのコーポレートコーチという機能は僕らとしても上手くいきそうだなという感覚がありますよね。

熊澤 そうですね。一休、ZOZOが上手くいったということも合わせて、会社の中でもっともっと対話が促進していくことを働きかけていきたいですね。

本間 もちろん、僕たちもまだまだの段階ですけど、これから頑張ってやっていきたいなと思います。では、ここまで3回にわたって熊澤さんには色々な話をしていただいて、本当にありがとうございました。また、これで終わりではなく、またどこかで登場していただければ嬉しいですし、ご意見いただければと思います。

熊澤 はい、こちらこそありがとうございました。

熊澤真×本間浩輔
連載第1回『エグゼクティブコーチが考える「1on1とコーチングの違い」とは?』

連載第2回『コーチングの哲学――Zホールディングスのエグゼクティブコーチが大切にしていること』


bizlogueではYouTubeでも情報発信を行なっています。

■ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
(著・本間浩輔)

■1on1ミーティング―――「対話の質」が組織の強さを決める
(著・本間浩輔、吉澤幸太)

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