見出し画像

イヤなことがあった日に

7月が終わる。
今月は、いいこともあったが、ものすごくイヤなこともあった。
イヤなことを文字にすると、再び思い出してしまうので、
そのイヤなことをいかにして克服(というのか?)したかを書いておこう。

そのことは、仕事にも生活にも影響する、私にとってはかなり重要なことで、
ショックのあまり、そのときやらなければならなかった仕事に、手がつけられなかった。
ひとりでいると、そのことばかり考えてしまうから、あえてなじみのバルなどへ行って、気をそらせてみたりもした。
だが、ムダだった。店から出ると、結局、また思い出してしまう。

家に着いても、やっぱり思い出して、イラッとしていた。
どうしようかな、と思いながら、なんとなく冷蔵庫を開けた。ふと、買っておいた野菜が目に留まった。
その前日、八百屋で並んでいたいろんな野菜を見かけて、おいしそうだと思って、買っておいたのだった。
そういえば今日、野菜料理をつくろうと思っていたんだった……。

よし、やるか。

冷蔵庫から野菜を取り出した。
きゅうりと大根、みょうが、大葉。
バルに寄ってきたから、お腹は空いていないのに、私は野菜を洗い始めた。
そして、とにかく切る。切ったり、刻んだり、おろしたりする。

まず、きゅうりを乱切りに。
ヘタがついていたポッチの部分を切り落とし、斜めに切って、ちょっと回して、また斜めに切る。

ザクッと切る、くるっと回す、ザクッと、くるっと、ザクッと、くるっと。

細長いきゅうりがだんだん短くなっていく。
切ったきゅうりは、ビニール袋に入れて、少し塩を振り、袋の上から軽く揉む。ビニール袋の口を閉めて、冷蔵庫に入れる。

次に、大根。丸ごと1本の大根を、10センチ程度のいくつかに切り分ける。
そして、おろす。おろし金(といってもプラスチック製だけれど)に、
切った大根の角になった部分を当てて、ぐるぐる回すように動かす。

ぐるぐるぐる、シャリシャリシャリ。ぐるぐるぐる、シャリシャリシャリ。

白い大根おろしが、どんどんできる。できた大根おろしは、密閉容器に入れて、やっぱり冷蔵庫へ。

丸ごと1本分の大根おろしはちょっと多いので、半分は細切りにする。
細切りといっても、包丁を使って切るのではない。私にはそんな技量はない。
こんなときに使うため、細切り用のおろし金(っていうのか?)を買ってある。
大根というよりも、にんじんやごぼうなどのかたい根菜類を細切りにする、便利な器具である。
その器具をボールの上にセットし、大根を歯に当てて、前後に動かす。

シャリシャリシャリ、シャリシャリシャリ、シャリシャリシャリ。

ボールに、細切りになった大根がたまっていく。
シャリシャリシャリ。シャリシャリシャリ。シャリシャリシャリ。
あっという間に、ボールの中が細切り大根でいっぱいになる。ラップをして、冷蔵庫へ。

次に、みょうがである。
きゅうりや大根と違い、みょうがは小さい。パックから取り出して洗い、まず半分に切る。
そして、細切りにする。細切りといっても、針のように細くはできない。私にはそんな技量はない。
なんとなく細ければいいのだ。タテに走るみょうがのスジのようなものを、斜めに切る。

シャクシャク、シャクシャク、シャクシャク、シャクシャク。

切ったみょうがは、小皿1つ分だけ取って、あとはフリーザーバッグに入れ、冷凍庫へ。

そして最後に、大葉である。
軽く洗って、キッチンペーパーで水気を切り、軸の部分をちぎって取る。
まず、葉の部分をタテ半分に切り、重ねて、あとはひたすら細く刻む。大葉は薄いから、切るのに力はいらない。

スッ、スッ、スッ、スッ。スッ、スッ、スッ、スッ。

包丁を入れるたびに、さわやかな香りがする。切った大葉は、さっき冷蔵庫に入れたきゅうりとまぜる。

お腹は空いていなかったはずなのに、勢いで、切った野菜を料理にする。
といっても、和えたり、味付けをしたりするだけだが。

きゅうりは、すでに大葉が香る浅漬けになった。
大根おろしは、冷蔵庫にあったなめこと合わせてなめこおろしに。
細切り大根には、ポン酢をかけて、チューブ入りの梅肉をのせ、大根サラダに。
細切りにしたみょうがには、ツナの缶詰を合わせ、仕上げに黒こしょうをかけた。

「よしっ!できた!」

洗って、切って、おろして、刻んで、そして和えて。
無心になって手を動かしているうちに、いつの間にか、イヤなことを思い出さなくなっていた。

そして、今日。
あのとき、無心になって野菜と格闘していたことを書いていたら、あの感触を思い出した。

ザクザク、シャリシャリ、スッ、スッ、スッ。

今日はまた、野菜をいっぱい買って帰ろう。
イヤなことがあったわけじゃないけれど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?