おつまみと記憶
ふるさとのお土産を持って新年のごあいさつに行ったら、お返しに干し柿をもらった。私にとっては久しぶりの干し柿で、ちょっとうれしかった。
子どものころはそんなに好きじゃなかったはずなのに、好きになったのは何がきっかけだったかな……と思い出してみた。すぐには答えが出なかったので、まぁ、答えが出なくてもいいかと、日本酒を飲みながらぼんやり考えることにした。
「あ、そういえば……」
一生懸命に思い出そうとすると答えが出ないのに、答えが出なくてもいいかと開き直ると、ふっと思い出すことがある。干し柿のことも、そうだった。
私が大人になってから(しかも40代になってから)干し柿を好きになったのは、飲み屋で出てきたおつまみがおいしかったからだ。
その店は日本酒専門の立ち飲みバーで、店長が「ドライフルーツと日本酒を合わせるとおいしいんですよ」と教えてくれた。ドライフルーツ、と言ったものの中に「干し柿」が含まれていたのにはちょっと驚いた。しかも、干し柿単体ではなく、干し柿を薄く切って、その間になにかを挟んでいた。
なんだったかなぁ……と、またぼんやり考えてみた。
こういうとき、ネットで検索すれば出てくるのかもしれないが、そうじゃないのだ。自分の記憶の中にある、あの味を食べたい。あの味を思い出したい。
そう思っても、私のスマホにはあのときの写真は残っていなかった。食べたときは、写真を撮るほどじゃないと思ったらしい。
あのときはそう思ったのかもしれないが、今はあの味を思い出したい。思い出したくても、写真はないし、どんなものだったのかも覚えていない。全くもって、堂々巡りである。
なんだったかなぁ……と思いながら、とりあえず冷蔵庫の扉を開けた。冷蔵庫の1段目に、バターとチーズが並んでおさまっていた。それを見て、急に記憶が呼び起こされた。
あ、これのどっちかだった気がする。そう、たしか乳製品だった……。
薄く切った干し柿に挟んであったのは、バターかチーズか。あのときの味はどっちだっただろう。
こういうとき、家にいてよかったと思うのは、どちらも試せるということだ。早速、干し柿を薄く切り(お店のように薄くは切れなかったが)、一方にはバターを、もう一方にはチーズを挟み、その場で味見した。
うん?うん?う~ん……?
あれ?どっちもおいしいぞ?
バターを挟んだ干し柿と、チーズを挟んだ干し柿。干し柿のねっとりとした甘さが、バターにも合うし、チーズにも合う。
あのとき日本酒と一緒に食べたのは、どっちだったっけ?
しばらく考えたが、やっぱり答えは出なかった。さっきのように、答えが出なくともいいかと開き直ったら思い出すんじゃないかと、ムリして考えないことにした。
そして改めて、干し柿にバターを挟んだものとチーズを挟んだものをつくった。それをつまみながら、日本酒をちびりちびり。
ほろ酔いになったアタマで、ふと思った。
どっちもおいしいんだから、いいんじゃないかな。
ムリしてあのときと同じ味をつくらなくても、いいんじゃないかな。
あのときのおつまみがおいしかったから、干し柿が好きになった。その記憶さえあれば、それでいいんじゃないかな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?