午前5時のコーヒー
私は早起きが苦手だ。
しかしこのところ、週に何度か、午前5時前にコーヒーを淹れている。
理由は、早朝のアルバイトを始めたからである。
当初は、ライターとしての仕事が減ってしまったために、少しでも収入を補おうとアルバイトを探していた。ライターを辞めるつもりは毛頭ないから、できるだけ本業に影響がない時間帯がいいだろうと、早朝出勤のアルバイトに決めたのだった。
早朝アルバイトに初めて出勤するときは、緊張していた。といっても、アルバイトの仕事そのものは学生時代にやったことがあったので、仕事をすることに対して緊張していたわけではない。私が緊張していたのは、前日の夜である。
明日の朝、起きられるんだろうか……。
起きた時間がすでに出勤時間だったら、どうしよう……。
早起きが苦手な私は、それが心配で心配で、眠れなくなった。不安なときは、眠気というのがやってこないものである。
しかし、眠らなければ早朝のアルバイトなどできるわけがない。安心して眠れるように、翌日の準備をしっかりした。翌朝着る洋服も、指定された持ち物が入ったバッグも枕元に置き、はいていく靴も玄関に用意した。
これでもし、起きた時間が出発時間であっても、ダッシュで駅まで走ればなんとかなる。
そう思って、ベッドに横になった。もちろん、スマホの目覚まし時計は午前4時30分から5分おきに5時までセットし、普段は使わないリアル目覚まし時計も4時30分にセットしてある。
そして、翌朝。
早起きが苦手な私が、なんと、目覚まし時計が鳴る前に起きたのである。
これには自分でもびっくりした。よほど緊張していたのだろう、と思ったが、緊張したまま眠ったときのような疲れがない。むしろスッキリと目覚めて、さわやかな朝であった。
なんでだろう……。まぁ、ちゃんと起きられたからいいのだけれど。
そう思いながら、コーヒーを淹れた。コーヒーを淹れるのは、早朝出勤のときだけではなく、毎朝のことである。
やかんでお湯を沸かし、カップにドリッパーをセットして、コーヒー豆を入れる。お湯が沸いたら、豆に少しずつお湯を注ぎ、こげ茶色の液体がカップに落ちるのを待つ。香ばしいかおりを嗅ぎながら。
そうやって手を動かし、鼻からコーヒーのかおりが入ると、頭の中がより一層ハッキリとしてきた。
なんだ、いつもの朝じゃないか。
違うのは時間帯だけで、やっていることは普段の朝と何も変わりがなかった。顔を洗って歯を磨いて、身支度を整え、コーヒーを淹れて、朝ごはんを食べる。
その後、ライターの仕事をするときは、そのまま自宅にいてパソコンに向かうのだが、アルバイトのときはバッグを持って靴をはいて外へ出る。それだけの違いだ。
なんだ、それだけか。いつもと同じだ。
そう思ったら、なんだか緊張がどこかへいってしまった。
私、早起きできるじゃん。
「早起きが苦手」なんて、自分で勝手に思い込んでいただけなのかも。
午前5時にコーヒーを飲みながら、自分の苦手意識をひとつ、克服できた気がした。
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