料理と計画
クリスマスを過ぎると、一気に年末である。年末になると我が家では、毎年、野菜を煮込んだものをつくる。まぁ、我が家といっても、私はひとり暮らしなのだが。
なぜ、野菜の煮込みをつくるのか。それは、年末年始のごちそうに向けて、冷蔵庫をカラにしたいからである。
野菜をたっぷり使った煮込み料理ということで、例年、カレーかシチューということが多い。そして、ひとり暮らしなのでそれを2~3日続けて食べる……というのが、恒例であった。
よし、今年はちょっと工夫しよう、と思った。
そもそも、こんなに年末ギリギリになる前に「今年は工夫しよう」と気づいて、計画を立てて買い物をすれば、「野菜を使い切らなければならない」という余計なことは考えなくともいいのである。
だが、人生において「計画」ということと無縁で生きてきた私は、今年もやはり、年末の冷蔵庫をカラにするために、野菜をたっぷり使った料理をつくらなければならなかった。
だから、ここまではいつもの年と同じだ。
では、何を「工夫しよう」と思ったのか。それは、野菜を使った料理の味つけである。
前述のように私は、毎年、カレーかシチューをつくり、それを2~3日続けて食べる……ということを繰り返してきた。
まぁ、ひとり暮らしの割には(いや、ひとり暮らしだからか?)、カレーでもシチューでもそれなりにおいしくできるので、それでも困ることはなかった。
だがしかし、今年の私は違う。ちょっとだけ、計画的になった。
最初からカレーかシチューをつくるのではなく、最初は素材の味を生かした薄味の料理にして、それから徐々に濃い味にすればいいのではないかと考えたのである。
いわゆる「味変」というヤツだ。
はじめに、野菜をたっぷり使った塩味ベースの料理にする。それから味噌味または醬油味、最後にカレー味にすれば、3日間、まったく違う味の煮込み料理が食べられるではないか。
我ながら、アタマいい~!と思った。
早速、冷蔵庫にある野菜を思い浮かべた。ジャガイモ、ニンジン、玉ネギ、白菜。あ、そういえば、豚肉も買ってある。
よし。これだけあれば、私の「味変計画」はカンペキに実行できる。
まず、鍋で豚肉を塩こしょうで炒めてから、食べやすく切ったジャガイモ、ニンジン、玉ネギを加え、料理酒をふった。
はて?塩ベースの味にするのはいいが、和風にするか、洋風にするか。ちょっと迷う。今回は洋風にしようと決めて、顆粒のコンソメをふり、ひたひたになるまで水を入れ、フタをする。コンロの火は中火から弱火にしておく。
根菜類を火にかけつつ、白菜を食べやすく切る。グツグツいいはじめた鍋に、白菜の芯の方から入れて、最後に葉っぱの方を入れて、再びフタをする。
タイマーを10分にセットして、焼酎のお湯割りをつくる。年末年始のごちそうに向けて、カラにしなければならないのは冷蔵庫の中だけではない。我が家の食料庫に中途半端に残っている「乾きもの」たちも、年内にカラにしておきたい。野菜の煮込みができるまでの間に、そのミッションも進めておく。
乾きものをつまみつつ、焼酎のお湯割りを飲みつつ、音楽を聴きながら本など読んでいると、10分はあっという間である。
……というか、このときに読んでいた本がおもしろくて、タイマーが鳴ってもすぐには鍋のフタを開けなかった。多少、長く火にかけていても大丈夫どころか、むしろその方がいいのが、煮込み料理のいいところである。本のキリのいいところまで読んでから、ゆっくりと鍋に近づいた。
フタを開ける。いや、フタを開ける前から、すでにいい匂いがする。フタを開けたら、言わずもがなである。
いちばん最後に入れた白菜の葉っぱの部分が、クタッとなっている。それを押しのけるようにして、そ~っと下からかき混ぜると、玉ネギが半透明になっているのが見えた。箸を1本、ジャガイモにさしてみる。うん、いい感じだ。
お玉にスープを取り、味見をする。おおっ!思ったよりもおいしいじゃないか。十分においしいと思ったけれど、少し塩を加えて味をととのえる。
よしっ!できた!さて、盛り付けだ。
例年どおりにカレーやシチューなら、いろんな具をグルグルにまぜて盛り付けるのだが、今年はそうではない。なにしろ、いつもと違う塩ベースなのである。素材の色がそのままなので、素材別に盛り付けることにした。
白菜は白菜、ジャガイモはジャガイモ、ニンジンはニンジン、そして豚肉は豚肉。それぞれ同じ素材同士を近づけて、お皿に盛り付ける。盛り付けながら、ちょっとずつ味見をする。
味見をしながら「ん~、なにか辛味があった方がいいかな?」と思った。そしてなぜか、ふと、鍋料理のときに使っている柚子こしょうを思い出した。
野菜と肉を盛り付けたお皿の端っこに、柚子こしょうを添えた。
今、思えば、これが間違いのモトであった。
アツアツの煮込みが入ったお皿を、いそいそと食卓へ運んだ。無論、さっきまで飲んでいた焼酎のお湯割りも一緒である。
「いただきま~す」
煮込み料理とお湯割りの両方の湯気から立ちのぼる、あたたかな匂いを吸い込みながら、両手を合わせる。コンソメを使った洋風の煮込みだが、箸を使って食べることにした。
「どれどれ……」
まずは、白菜。さっき、盛り付けるときにノーマルなものは味見したので、早速、柚子こしょうをつけてみる。とろりとやわらかくなった白菜の芯に、深緑色の柚子こしょう。
「ん、んまい~!」
煮込まれて甘くなった白菜に、ピリッとした辛味と、柚子の香り。なんというハーモニー。そして、そこへ登場するのが、焼酎のお湯割りである。
「いや~、んまいねぇ!」
考えてみれば、柚子こしょうも焼酎も九州のものである。合わないわけがない。ああ、料理もお酒もすすむ。すすみすぎる。
自分でつくったクセに、うまいうまいを連発しながら、おかわりした。何杯おかわりしても止める人がいないのが、ひとり暮らしのキケンなところである。
気がつけば、鍋の中身は4分の1ほどになっていた。
あれ?たしか私、鍋いっぱいにつくったはずなのに。
今年は、いつもの年よりも計画的に食べるはずだったから、塩ベースにしたのに。これから味噌味とかカレー味にするはずだったのに。
こうして私の「味変計画」は、計画倒れに終わった。
いや、いいんだけど。おいしかったから、いいんだけど。
だけど、なんだかなぁ……。
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