ピザと行動力
その日も私は、原稿を書いていた。
夕方、小腹が空いたのに気がついて、ちょっと休憩することにした。
コーヒーを淹れようと、パソコンを置いてある部屋からキッチンへ移動した。やかんに水を注いで火にかけ、お湯が沸く間に、なにかつまむものを探す。
とりあえず、冷蔵庫を開けると、目が合ったのは「餃子の皮」であった。
ああ、そういえば……。
いつぞや、なにかのレシピを検索したときに「餃子の皮でピザをつくる」というのを見かけた。とても簡単そうだったので、自分でもつくってみようと、餃子の皮を買っておいたのだった。
完全に、忘れていた。
まぁ、せっかく思い出したのだからと、餃子の皮ピザをつくることにした。空いている小腹を満たすにはちょうどよさそうだったし、コーヒーにも合いそうだった。
小さな袋に入った餃子の皮を取り出してみると、思いのほか薄かった。この薄さにチーズやらハムやらのせても大丈夫なのだろうかと、不安になるほどだった。そこで、餃子の皮は2枚を1組で使うことにした。
クッキングシートの上に、餃子の皮を3組並べ、その上に小さく切ったスライスハムととろけるチーズ、冷凍庫で保存してあったパセリの葉っぱをパラパラのせた。
シートごとオーブントースターに入れて、スイッチを回す。一体、何分くらいでできあがるのか見当もつかなかったが、焦げたら困るので、とりあえず3分くらいにする。
そうこうしているうちに、やかんが「ピーッ」と鳴きはじめた。私はあわててコンロの火を消し、コーヒーを淹れる。
わが家のコーヒーは、ハンドドリップである。といえば聞こえはいいが、キッチンが狭くてコーヒーメーカーを置くスペースがないから買っていないだけである。最初のうちは「ハンドドリップってめんどくさい……」などと思っていたが、人間、慣れるものなのだ。
さて、ちょうどコーヒーが入ったころ、「チーン」と音がした。オーブントースターの中で、ピザが焼き上がっているはずだ。まぁ、餃子の皮なんだけど。
オーブントースターの扉を少し開けて確認する。
う~ん……。もうちょっとかな。
あと1分だけ焼くことにした。立ったままコーヒーをすすりながら、1分間待った。また「チーン」と鳴った。
どれどれ……。おお、いい感じ、いい感じ。
さっきまであんなに薄くて頼りなかった餃子の皮は、茶色に焼き色がついてパリッとしていた。もう餃子の皮ではない。小さいけれど、れっきとしたピザである。
小さなピザを3枚ともお皿にのせると、コーヒーと一緒に食卓へ運んだ。
「いただきます」
ピザがのったお皿の前で手を合わせて、早速、1枚を手に取る。ひとくちサイズ、と思ったが、2口くらいはありそうだ。
パクッ、パリッ。そこまでは予想ができた。しかしそのあと、ビロ~ンもあった。
アチチチチ……。
思った以上にチーズが熱かったし、思った以上にビロ~ンとのびた。のびたチーズがアゴにかかって、うぉっ!となった。
しかも思った以上に、餃子の皮ピザはおいしかった。ソースは使っていないのに、ハムとチーズの塩気がちょうどよく、パセリの香りもいいアクセントになっていた。
「うまいじゃん!」
自分でつくった簡単すぎるピザを食べて、自画自賛である。予想外においしかったために、私の想像はふくらんだ。
これなら、ハムだけじゃなくて、ツナをのせてもおいしいな。そういえば、冷蔵庫につくりおきの肉そぼろもあるなぁ。ちりめんじゃことか焼きのりとかをのせて和風にしてもいいかも。ああ、りんごのコンポートもあるから、デザートピザにしてもいいなぁ……。
思いついたらやってみたくなるのが、人間というものである。
想像していたピザを、次々につくった。つくった、といっても、餃子の皮に具をのせてオーブントースターで焼くだけである。
いろんな味のピザを試すうちに、コーヒーだったはずの飲みものは、いつの間にかビールになっていた。
そして、気がつけば、25枚入りの餃子の皮 1袋がカラになっていた。
一体、何種類のピザを試したのであろうか。数えてはいなかったが、とにかくいろいろ試した。トライアンドエラーという言葉があるが、エラーはなかった。どれもおいしかった。
この湧き出るような発想力と行動力を、仕事中の私にもわけてあげたい。そう思いながら、書きかけの原稿をそっと閉じた。
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