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【 愛犬は飼主に似る】

野良猫だったチョロを飼う前に、
私は犬を飼っていた。
16歳まで生きて、
私の胸に抱かれて
とうとう息絶えてしまった。

その子犬を貰いに行ったときは、元気な雄の子と決めていた。5頭いた子犬の中に、1頭だけ雌がいた。ひと回り小さな弱々しい白い子犬であった。その子と眼と眼が逢った瞬間、閃光が走った。
この子だ!!
この子が私の子だ!
雄の子犬への思いは
吹っ飛んでいた。

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初めて飼うことになった雌犬の子。それが眼に入れても痛くない程に愛した、雑種のリリーであった。

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リリーと私は
いつも一緒だった。
ちょっと、コンビニへ煙草を買いに行こうと、車の鍵を手にしようものなら、どんなにか気持ち良い昼のうたた寝をしていようとも、外が激しい雷雨であろうとも、私の一挙手一投足を見逃さないのだ。

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そして二人は、なかなか帰宅をしなかった。そのまま、湧水の小川へ足を延ばして、冷たい水をはしゃぎながら飲んだり。沢蟹と遊んだりして時は過ぎた。日暮れてようやく帰宅するので、独りぼっちで居た家内は、至極おかんむりであった。寂しさと共に、ひどく遅いので、二人の身を案じていたのだ。

1日の家事

リリーと私と家内の三人暮らしは決して豊とは言えなかったが、満たされた日々であった。

リリーが成年になった頃の春うららな日曜日の昼下がりのこと。近くに住む友人が我が家の庭に遊びに来た。野山で採取した野草を小鉢で育てる仲間である。ひとしきり野草談義をして飽きが来て、家内が出掛けているのを良い事に、庭の軒下で、一杯やることにした。いつもの流れ。その日は友人が球磨の芋焼酎の小瓶を持参していた。適当な器と酒の肴は私が冷蔵庫から適当な物を出した。

マイン

庭で気ままに遊んでいたリリーが、客人の傍に寄って来て愛嬌を振る舞うと、彼はそれに応えて頭をぞんざいに撫でて言った。

「リリー、よしよし!」
「相変らず可愛いなあ!」
「やっぱし女の子だね」

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私は少し怪訝に友人に尋ねた。リリーが成長するにつれて不信に感じていること。それは、飼犬は飼主に似るという定説は事実ではないこと。私は色黒で、どちらかと言えばでかい顔であると内心では思っている。友人は「え~っ」と言って続けた「よう似てるじゃあないか、ご近所の皆さんが口を揃えて言うとる」「嘘ばい」ムキになって言う私に、リリーがすかさず擦り寄りヒュンヒュンと心配そうに泣き、なだめた。友人はニヤッと笑って言った。

リリーちゃんの、その優しさ。色白で細面の顔立ち。そっくりだよ!奥さんに。

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陽が傾き、春の空気が冷えてきて、友人は、楽しかった、また来るけん、と言い、親指を立てて帰って行った。

居間でくつろいでいると、何かを察したリリーが尻尾を振って、玄関へ走って行った。実家で用を済ませた家内が帰って来たのだ。飛びすがって喜ぶリリー。家内が土産のホウレン草をかざして言った。「今日のおかずの主役ですよ。リリーにも好い野菜ですって。ただし、量は控えめにと妹が言ってました」

私はまじまじと両者を見た。何をニコニコしているんですか?家内が怪訝そうに言った。

それはまるで母と娘、
本当に良く似ていた。
 

(完)

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