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【読書】作者の術中にワザとはまってみると、ただ気持ちがいい

平野啓一郎『空白を満たしなさい』

文庫上下巻で長かったが、夜中にようやく読み切った。

釈然としないところがあって、何度も読み直したが、読み終えてみてすっきりしている。

絶対あり得ない設定で色々あり得ないのだけど、途中で、「はいはい、もういいよ」とはならない平野啓一郎の創造力にまたも引きこまれた。

登場人物に思いをはせる、共感するという小説っぽさではなく、「ああ、なるほどね。そういうことか」という指南書。

本作はだいたい暗い。明るい場面でも間接照明でかなり落としたくらいであす。
それがちょうどよくて、やけにリアル。

「個人」と「分人」がまぎれもなく主題なのだろうけど、それをそこに至る前工程はまるで違う作品。
それだけに、主題が引き立つ。

本当にこの人の作品は読後感が異様です。(良い意味で)

平野啓一郎という作者について

1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。

1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。

以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在した。

美術、音楽にも造詣が深く、日本経済新聞の「アートレビュー」欄を担当(2009年~2016年)するなど、幅広いジャンルで批評を執筆。2014年には、国立西洋美術館のゲスト・キュレーターとして「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」展を開催した。同年、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

また、各ジャンルのアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。

著書に、小説『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ドーン』、『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、『マチネの終わりに』、『ある男』等、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』、『考える葦』、『「カッコいい」とは何か』等がある。

2019年に映画化された『マチネの終わりに』は、現在、累計58万部超のロングセラーとなっている。

2021年5月26日、長編小説『本心』(文藝春秋社)刊行。

Amazon作品ページより

原田マハ同様、美術の描写が品が良いのも、毎度読むたびにハマって抜けられなくなる要因かもしれない。

家族愛だの死生観だのに小細工はいらない。1枚の絵画を見るがごとく、ただ感じたままに、まっすぐに書かれているかのようだ。
(作者の手のひらで踊らされている読者という自覚あり。)

平野作品に向き合うわたしの分人は、「穏やかでありながら、野心的」なのだ。

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