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「すずめの戸締まり」の東京:新海誠は“帝都”をどう描いたか

 ご存知の通り新海誠作品にはあまりにも美しい東京が登場する。現実のそれよりもリアリスティックな都市の細やかな情景がわたしたちを毎度ながら魅了させるわけだが、さて最新作「すずめの戸締まり」では東京はどのように描かれていたか。この際確認しておきたい。

!以下個人的感想という名のネタバレ!

九州から四国、神戸を辿りそこから新幹線に乗って東京にたどり着いた鈴芽はイスになったままの草太に指示されるがままに東京の後ろ戸を探しに行く。

中央線をすぐに御茶ノ水で降りると、お馴染みの聖橋の光景が映し出される。神田川に顔を出す地下鉄丸ノ内線の大手町方トンネル入口からミミズが出てきたのち、その奥こそが東京の後ろ戸であったと明らかになる。さらに最奥部へと進むと、ここが皇居の地下だったとわかる。なんと九段下竹橋間の牛ケ淵に後ろ戸があったなんて驚きだ(多少なじみがあるからより一層)。

ほか都心部のアパートが出てくるなどしたのちに芹澤の乗用車で東京を去り、高速道路で東北方面へ向かうことでこの映画における東京の主要な描写は終了するが、全編のうちで決して長くはない東京パートが、この作品をより印象づけることになっている。

今作では、天皇および神に仕える者としての解釈も一般的ということで、より東京の描写に注目が集まっている。思えば、東京こそが明治以来の帝都であって、よく知っているけれどもよく知らない皇居の、それも地下というふだんまったく立ち入ることが許されないエリアがキーポイントとなっていることもなお象徴的だった。私とて皇居の地下になにがあるのか、いや皇居に地下階が存在するのかもまったく知らないが、もしかすると──という都市伝説的な想像力を煽っているのもおもしろい。

ふだん東京にいながらも、秘められた家業継承という重みを背負って地方を巡る姿は、天皇の動き、とくに戦後のそれとまったく重なるものがあるだろう。いまになってようやく気がついたが、やはりこれは象徴としての天皇の物語だったのだ、と確信する。

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