ばれ☆おど!⑭
第14話 卑怯者に送るレイクエム
西氷は目覚めると、自分の車の運転席に座っていることに気づいた。
全身の痛みに顔をしかめる。
痛みと共にあの時の恐怖がよみがえる。
自然にフロントガラスに目がいく。
そこには、車内から何かメモのようなものが張り付けられている。
それを乱暴に剥がし手にとる。
これに懲りたら、二度と悪さをしないことだ。
我々がお前を監視していることを忘れるな。
――雀ケ谷南高校動物愛護部――
西氷は全身の痛みに呻きながら、叫んだ。
「あのクソガキども! あいつら絶対に許さねぇ!」
◇ ◇ ◇
それから、一週間後の放課後のことだ。
部活が終わり、帰宅中のカン太は見覚えのある奴と出くわした。
「ひさしぶりだな! 景気はどうだ?」
「お、お前は! あの時の!」
「覚えていてくれて光栄だよ」
「誘拐犯の親玉、いやスペクターさんでしたっけ?」
「……ほう。どこで俺のコードネームを知った?」
「さあな」
スペクターと呼ばれるその男は驚きを隠せない。
「まあ、いい。ちょっと、そこで話をしようぜ」
そう言うと、彼はあごをしゃくって路地の奥を示した。
「何の罠があるかわからないのに、簡単に行くわけないだろ!」
「じゃあ、そこでお前の〝いとしの委員長さん〟が痛い目にあいそうだと言ったら?」
「吾川くん! ダメ! 来ないで!」
麻里奈の声が聞こえる。
「わかった。いくよ。その代わり彼女を放してくれ」
「ああ、約束する」
カン太は薄暗い路地の奥に入っていった。
すると突然、背後から衝撃を受け、カン太は気を失った。
「バカめ。これは合成音声だ! ハハハハハ……」
◇ ◇ ◇
翌日。
動物愛護部のラインアカウントにメッセージが入った。
《動物愛護部の諸君! 相変わらず元気そうで何よりだ。ところで、先日、我々の重要なデータ提供者から応援要請があった。お前たちが我々の仕事の邪魔になっているのでなんとかして欲しいとのことだ。お前らの部員をひとり預かっている。コイツの命が惜しければ、誰にも知らせずにお前たちだけで旧◯産ディーゼル雀ヶ谷工場跡地に来い。今夜十時だ!》
添付画像にはカン太が猿ぐつわをかまされて、インシュロックのようなもので拘束されている様子が映し出されている。
源二がまず口を開いた。
「データ提供者だと?」
「おそらく、西氷のことよ」
うるみはそう言うと、涼やかな眼差しが一瞬にして鋭い目つきに変わる。
「漆原君。それはどういうことなんだ?」
「組織の収入源の一つに、動物に対する残虐映像の裏取引があるの」
「だが、そんなもの欲しがる奴がいるのか?」
「いくらお金を積んででも、自分たちの愉悦を満たそうとするマニアっているものよ」
「人間の皮をかぶった悪魔め!」
「もう! そんなことどうでもいい! カン太を早く助けないと!」
緑子が興奮気味に声を上げる。
「緑子君。その通りだ。アカンの救出が最優先だ。だが、孫子曰く、敵を知り己を知らば百戦あやうからず。だ。つまり、情報収集が大切だということだ」
そこへシータが的を得た発言をする。
「ここは、例の特殊なドローンの活躍の場ではないかと思われます」
「おお! そうだった。あのドローンか。すっかり忘れていた」
「さっそく、ドローンを飛ばして敵の動きと吾川様の居場所を探りましょう」
特殊なドローン――〝ランドサット〟と命名されている源二の発明品の一つ。偵察用。親機が偵察地に降り立つと、『昆虫型の複数の子機』が親機の体内から出てくる。そしてあらゆる場所に侵入し、情報を収集するという仕組みである。親機は偵察地の上空で待機。子機からの微弱な電波を増幅して送信する。――という優れものなのである。
旧◯産ディーゼル雀ヶ谷工場跡地にさっそく偵察に向かったドローンであるランドサットから映像と音声と位置情報が送られてくる。
敵の人数、配置。装備。カン太の現在地と状態――。
すべての情報はそろった。
源二が作戦説明をする。
「諸君! この前と同じだ。まず、配電盤を制圧する。ここは敵も警戒して三人の見張りを立てている。装備はサブマシンガンとノクトビジョン(暗視装置)だ。つまり、ここを全力で死守するつもりらしい。ここには別動隊として漆原君に行ってもらう」
「はい。わかりました」
「正面からは私と緑子君とシータで向かう」
「わかったわ」
「了解しました。源二兄様」
詳細な作戦内容を伝え終えた源二は叫ぶ。
――内に秘めた闘志があふれんばかりに。
「では時間だ。出発する!」
◇ ◇ ◇
夜十時。
旧○産ディーゼル雀ヶ谷工場跡地。
廃工場になっているが、よく見ると薄く明かりが灯ってる場所がある。
敵が指定した場所は正門からまっすぐに入ったところの正面エントリーだ。
そこにカン太はいるというが、デタラメなのは承知している。
正面エントリーに向かったのは源二、緑子、シータだ。もっともシータは緑子が抱きかかえている。
彼らが到着すると、待ち受けていたのはあの西氷だった。
もちろん、黒ずくめの男たちがその後ろに控えている。
装備はオートマチックのハンドガンのようだ。
「ハハハハハ……お前ら、この前はずいぶん世話になったな! 今度はお前たちの番だ!」
西氷は余裕の表情で迎え撃つ。
源二はやれやれといった様子で、西氷に問う。
「人質はどうした? 約束が違うぞ」
「バカめ。そんなの知るか!」
「この外道が!」
源二はそう言って西氷を鋭い目つきで睨んだ。
◇ ◇ ◇
別行動のうるみは作戦通り、配電盤のある倉庫の裏側に到着している。
「そこ、どいてくれるかしら?」
すると、見張りの三人はいっせいにうるみの方を向き銃を構えた。
「おまえ! いつの間に」
「はやくどいてくださらない?」
「どけだと? 無理な相談だな。そんなことより。これから俺たちと遊ぼうぜ」
そういうと三人とも下卑た笑いを浮かべながらうるみを捕まえようとする。
ところが、一人がうるみの腕をつかもうとしたとき、一陣の風が吹き抜けた。そして気づいた時にはうるみの姿は消えていた。
「どこを見ているの? こっちよ」
「この! お遊びはおしまいだ。やっちまえ」
男たちはサブマシンガンをうるみに向けて撃ちまくる――。
ところが、その放たれた無数の弾丸はうるみにカスルことさえない。
うるみは銃弾の雨の中を、まるで風に舞う燕のように流麗にかわしている。
その鮮やかな舞に魅せられながら、黒づくめの男たちは、一人、また一人と倒れていく。
最後の一人が大きく瞼を開いて、つぶやくように話す。
「お、おまえ、まさか、お前は、あの疾風のプリ……」
最後まで言い終わらないうちに、うるみの手刀を首にくらい、その男は気を失った。
「これね」
うるみは配電盤のスイッチに手をのばした。
(つづく)
ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです