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ばれ☆おど!⑳


 第20話 危険な潜入取材


潜入取材とは――取材対象の内部に忍び込んで証拠などの収集を伴う取材方法のこと。マスコミによる(不正や違法行為などの)実態を暴くために使われる手法。テレビ番組や週刊誌などでこの語をタイトルに使用すると、若干視聴率や売り上げがあがる効果が見込める。その成果によっては、警察などの国家機関が動き出すきっかけを作る場合がある。

 

 彼らを乗せたクルーザーは東京湾に再び出て、海ほたるを横目に眺めながら東京湾を抜けていく。
 さらに二時間ほどかけて、房総半島を大きく回り込み、太平洋上にある目的の無人島まで、あと五キロの海上にようやく到達した。


 源二は告げた。
「ここからは、敵に見つからないようにゴムボートを漕いで島に上陸する」
「もちろん、漕ぎ手はオレですよね! はい。わかってます!」
 カン太がやや不機嫌にそう言うと、『意外な返事』が返ってきた。

「いや、作戦上、できるだけ早く着かないと、敵に発見される確率が高くなる」
「それじゃあ!」
「ここには男が三人もいる。交代で力を合わせて全力で島に向かう!」



 ◇ ◇ ◇


 1時間以上かけて、ようやく目的の島に到達した。
「もうヘトヘトですよ。ちょっと休憩させてください」
 カン太が肩で息をしながら訴えた。

「アカンよ。お前は何を言ってる?」
 源二はカン太を睨む。

「あ、いや。そ、そういう気分なだけです」
「そうか。では作戦に入る!」

 とは言うものの、交代しながらとはいえ、全力で漕げばかなりの体力を消耗するのも事実。源二はそこまで計算していた。

「では、まずランドサット(源二が発明した偵察用ドローン)を飛ばして敵の状況を把握してから行動に移る。シータ頼む」

「はい。源二兄さま」

 シータの操作でランドサットを飛ばして島内を事前探索する。もちろんランドサットの体内に内蔵された子機(超小型マイクロドローン)をあちこちにばら撒く。しばらくするとシータが結果を報告する。

「最新の情報です。捕らわれた動物たちがこの十日間で十五匹ほど増えています。施設の見張りの人員は、正面の入り口に一人。一階に三人。地階に三人います。爆発物が仕掛けられていました。発見されたものはすべてドローンの子機で起爆剤を無効化しました。施設に隣接した船着き場にはクルーザーが一隻。屋上のヘリポートにはヘリコプターが一機。また施設の拡張工事が進められています。重機が複数放置されていますが、現在中断されているのか、作業員は一人もいません」

「シータよ。ご苦労。爆発物が気になるが、すべて排除できたのか?」
「引き続き子機で探索と無効化を行いますが、100%は保証できません。未発見のモノがあるかもしれないので覚悟が必要です」

「どうする? ミス相沢。この取材、命がけになるぞ」

 源二が金髪ツインテールの小柄な新聞部部長、相沢アイリに、決意を試すかのような口調で問う。
 するとアイリは目を閉じる。
 
 再び開いた目には決意の色が浮かんでいた。
「危険は承知の上だ。大福! お前はどうだ。嫌ならここで待ってろ」

 副部長の藤原大福丸は何の迷いもなく即答する。
「私はどこまでも部長についていきます! たとえそれが地獄の底でも」

 源二は深くうなずくと、動物愛護部のメンバーである、うるみ、緑子、カン太をそれぞれ見る。
 すると、全員黙って首を縦にゆっくりと動かした。

「これより潜入取材をおこなう」
 源二は静かに作戦開始を告げた。



 ◇ ◇ ◇



 施設の入り口には偵察通り見張りが一人いた。
 退屈なのか、大きなあくびを繰り返している。
 源二は愛銃"アンサー"を構えるとスコープをそっとのぞき込む。そして慎重にトリガーを引いた。

 プスン

 一瞬の鈍い炸裂音の後、超ヘヴィウェイトのBB弾が銃口から飛び出した。
 まっすぐに見張りの黒服に向かっていく。
 そして、大あくびをした、その口にBB弾が飛び込んだ。その場で静かに崩れるようにして黒服は倒れた。


 施設の入ると、すぐに地下へ向かう階段がある。源二は小声で、ややゆっくりと話す。
「ここからは二手に分かれよう。事前調査の情報によれば、地下には不法な密猟品や違法な捕獲をされた動物。この一階の奥には捕らえられたペットたちがいる。相沢氏の護衛にはアカンと緑子君。藤原氏の護衛には漆原君と私でいく」

 すると、アイリはひそひそ話をするように答える。
「わかった。じゃあ、私はペットたちの方にいくよ。大福は地下を撮りまくれ!」


 シータを抱いたカン太と緑子はアイリを護衛しながら一階の奥の部屋の方に消えていった。

 歩きながら、アイリは小声で少し俯いて話す。
「実はね。私が可愛がっていたペットがいたの。ビーグル犬でグリムっていう名前。もしかしたらここにいるかもしれない……」

 カン太は笑顔を作り、一段と声を低めて答えた。
「そうだったんだ……。ここにいるといいね!」

 緑子は、銀色のツインテールを揺らしながら、ささやくように言う。
「見て! あそこに敵がいるわ!」

 一番奥の部屋の入り口のドアの前に見張りの黒服が一人いる。右手にハンドガンを握っていた。
 緑子は一段と声をひそめ黒服を指さしてささやいた。
「きっと、あそこに捕まったペットたちがいるのよ!」

 そう言うと緑子は、ボウガンを構えた。そして不敵な微笑みを浮かべながら黒服に宣戦布告する。

「おい! そこの悪党! 今から成敗してあげるわ!」

「お、おまえ、ど、どこから現れた!!」
 信じられないという表情で、目を大きく見開いた黒服は銃を構え、緑子に向けて発砲した。

 ――いや、発砲しようとしたのだが、一瞬早く、緑子の放った矢が、銃口に滑り込んでいたのだ。銃は暴発し、銃身が砕け、黒服はその衝撃で気を失った。


 カン太は倒れた黒服をドアの脇へ転がし、インシュロックで後ろ手にキツめに縛り上げる。そしてそーっとドアを少しだけ開けてみる。

 三人はわずかに開いたドアの隙間から中の様子をうかがった。
 ――暗い部屋の中にはかなりの数の檻があり、よく目を凝らしてみると動物たちがその中にいる。奥の方では机を挟んで黒服二人がトランプか何かで博打に興じているようだった。

「あなたたちは、そこで待ってて。あの二人を倒せばおしまいよ。あとは楽勝だから」
 緑子はそう言うとバタンとドアを開けて中に堂々と入っていった。

 緑子の出現に気づき、いっせいに動物たちが騒ぎ始める。
 二人の黒服は驚いて、立ち上がり銃を構えて発砲しようする。それぞれが銃のトリガーに指をかけた瞬間、緑子の放った矢が、銃口めがけて飛び込んだ。

 バン

 バン

 どちらの銃も鈍い音をたてて暴発した。一人は意識を失い。もう一人は意識はあるものの完全に沈黙している。カン太が二人を後ろ手で縛り上げる。

「グリム! グリム! 会いたかった……」

 カン太と緑子はアイリの方に振りかえる。
 ――そこには檻を抱きかかえるようにして泣き崩れるアイリの姿があった。小柄な体を震わせてむせび泣いている。金色のツインテールの先が檻の中のビーグル犬に届いていた。だが、その犬はかなり衰弱しているらしく、わずかに首をアイリに向けるだけであった。

「このままじゃ、死んじゃうよー! どうしよう? ねえ! どうしよう?」
 アイリの悲痛な叫びが室内にこだましている。


 カン太は何かを決意をしたかのような表情で、アイリに語りかけようとした。
 その瞬間に、それは起こった。



(つづく)

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ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです