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〜鳥取は夢にあふれた場所〜名優川口覚が岩美町で培った世界に通用する感性とは



鳥取県岩美町。
鳥取県の最東北端に位置し豊かな海・山に包まれた人口約1万人の町です。

広大な自然に触れられる一方で、劇場や映画館といった娯楽施設が身近にない場所であることも事実。

川口覚さんは、生まれてから高校までを岩美町で過ごし、幼少期から胸に秘めていた「俳優」になるという夢を抱え、なるすべも分からぬまま東京へ上京。

今では、朝ドラ、大河ドラマ、インド映画をはじめとした映像作品、舞台では蜷川幸雄さんの愛弟子として蜷川の代表作である「ハムレット」の主演も演じるなど、その存在感あふれる演技で業界内問わず多くの方の心を掴んできた俳優となった方です。

海を眺めたり自然の中にいることが好きだったと語る鳥取時代。
川口さんからお話しを聞いてみると、俳優としての活躍の裏には“鳥取”でのご経験があったことが浮きぼりになってきました。
鳥取での時間をどのように過ごし、何を得たからこそ今に至るのか。
川口覚さんの鳥取のルーツに迫りました。

川口さんの地元、岩美町でインタビューを行いました!



Be:comeとは

『鳥取を上機嫌に』をテーマに鳥取の最新情報をお届けするローカルメディア「鳥取マガジン」が送る鳥取から大きく羽ばたいた先輩たちと、鳥取出身だからこそできる夢の叶え方を見つける鳥取マガジンの新規連載企画。

その名も「Be:come」。

アーティストから実業家に至るまで、鳥取出身だからこそできる夢の叶え方を見つけていきます。


川口 覚さんプロフィール

2004年撮影 吉田修一原作・監督映画「Water」で主演デビュー。2009年より蜷川幸雄主宰「さいたまネクスト・シアター」に第1期生として参加、2014年春まで在籍。2012年蜷川幸雄演出のもと7代目ハムレットを演じる。2017年Vishal Bhardwaj監督のインド映画「Rangoon」が全世界公開される。近年、映画「あゝ、荒野」(岸義幸監督)「十年 Ten Years Japan」(早川千絵監督)(是枝裕和監修)舞台「神の子どもたちはみな踊る」(倉持裕演出/村上春樹原作)等話題作に数多く出演の他、映画・テレビドラマ・舞台等で活躍中。



みんなで帰るよりも一人で冒険しながら帰っていた幼少期


ーー今回は高校生に向けたインタビューをさせていただきます。

高校生に向けてだもんなー。
高校の時に周りのことなんか考えたことある?
進路選択の時にこの選択をしたらお父さんはどう思うんだろうとか。


ーー  …。全く考えていなかったですね…。

そうだよね、僕も考えてなかったんだよね。
鳥取にいた頃は夢や希望があふれるほどあった反面、どこか違和感も感じながら過ごしていたし。


ーー違和感というのは…?

みんなが空気に合わせて動いてしまっているように感じてて。
多数決取ったら僕だけ一人になることがよくあって、子供の時からなんでだろって思ってたんだよね
小学生ながらに全員が右に行ってても、自分が左って思ったら絶対左に行くみたいなプライドがある子供だったし。


ーー幼い頃から自分の心の声にまっすぐ動いていたんですね。

小学校からの帰り道に真っ青なカエルを見たんだよね。
当時はそんな色のカエルを見たこともないし、調べようもなかったからこの色のカエルを見たことあるのは僕だけだ!って、好奇心のままに「どこからきたの?」ってカエルの言葉を思い浮かべながら話しかけたりしてたの

岩美町は豊かな自然にあふれた場所だったから、みんなで下校するよりも、一人で枝を持って冒険をしているかのように帰るのが楽しかったんだよなー


カエルと会話をしていた幼少期の川口さん


ーーカエルとの会話が俳優につながるルーツの一つなんですかね。

その時は俳優がどんな存在なのかも分かっていなかったんだけど、俳優の仕事は楽しいってことだけは分かってたの。
ドラゴンボールを見た後に、僕も悟空みたいに練習したらかめはめ波撃てるんだって本気で信じて練習してたし(笑)
悟空は一つの例だけど、色んなものになるっていうのが当時から楽しかった。


ーーさっきも通りすがりの子供と全力で遊んでいたりと、その純粋さは今のお姿からも感じます(笑)。

その純粋さだけは当時から変わらないかも(笑)。
特に子供の頃は変化を求め続けていた気がする
頭の中はなりたい姿でいっぱいだったから、自分ってなんで何もできないんだろうとか、どうして子供に見られるんだろうとか、どうして大人は理解してくれないんだろうとか、色んなことに疑問も抱いてた。


今でも変わらぬ純粋さがあふれています。



起死回生!? 3000人から選ばれ川口覚の運命を変えたまっすぐな回答とは


ーーそんな幼少期を経て俳優になりたいって思ったきっかけは何だったんですか。

映画だね。


ーーちなみにどんな経緯で映画にハマっていったんでしょう。

映画を意識し始めたのは小学校高学年の頃で、父親が好きだったジャッキー・チェンやトム・クルーズの映画を見た時に、なんだこのとんでもない世界は…って思ったのが最初だった。
中学校に入ってからは邦画にハマって、17歳の時に大島渚監督の「御法度」に出会うんだけど、「御法度」が僕の人生を変えたって言っても過言ではなくて…。


ーーどこに感動したんですか。

まず設定が面白い。
大島渚監督を知って初めて社会派の作品と出会い、自分の知っていた世界が広がったんだよね。
それにほぼ同じ年の松田龍平が出演していたのが何より衝撃だった。


ーーどうして松田龍平さんに衝撃を受けたんですか。

自分と同じ年代なのにこんなカッコいい表現をすることができるんだって…。
もちろん周りにそんな人いなかったし、同じ世界にいるとも思ってもいなかったんだよね。


ーー年齢の近い活躍している役者を知ったことが俳優を志したタイミングだったんですね。

同年代ができるんだったら自分でもできる!って思ったんだよね。
松田龍平の親父さんが優作さんだなんてことは当時は知らずに(笑)。


ーー俳優になるという夢はできてもなかなか行動に移すのは難しいのではと思います。川口さんは俳優という夢ができた後はどういう行動を取ったんでしょうか。

もちろん当時は俳優になるための方法は何も知らなかった。
でも、当時の僕は色々な環境で自分がどう変化していくかを知りたいって思いが強くて、色々な経験を経た先に自分のなるべき姿があると思っていたから、海外に出たかったんだよね
でも、父親にそのことを伝えたら、「海外に行ってもいいけど、日本人としてのアイデンティティを聞かれるぞ」って言われて、まずは日本のことを勉強するために東京に出ることを決めたの


映画にハマっていた頃の川口さん。写真当時は是枝監督の「ワンダフルライフ」にハマっていた。


ーー日本を知ることが上京の理由だったんですね。

だから東京に出て約一年くらいはお金貯めては日本各地を回ってを繰り返してたな。
今振り返っても行った土地を肌で感じて、現地の人たちと交流することが一番の財産だったなって思ってる。


ーー日本を知っていく過程で俳優活動もスタートしたんですかね。

日本各地を回っていたら色んな人とのつながりが生まれて、当時素敵だなって思ってた俳優が所属してる事務所のオーディションが開催されることを知ったの。
鼻息荒く応募したんだけど一年位は何の連絡もなく…。
そしたらある日、いきなり電話がかかってきたのね。


ーー応募した事務所からのですか…?

そう、初めはいたずら電話だと思ったんだけど、よく話を聞いてみると本当にオーディンションに進めることになったんだよ。
でもオーディション参加者は約3000人。
そんな数の人、見たことも聞いたこともなかったから、最初は面食らっちゃって…。

でもここまできたら、下手でもいいから今のベストを尽くそうって臨んだら最終オーディションの10人に残ったの
ただ、他の参加者の質疑応答を聞いていると、僕以外は全員経験者だし上手い返しするしでこれはもう落ちたなって思った時に、最終面接の最後に「嫌いなものはなんですか?」って聞かれたの。


ーーなんと回答したんですか…?

「大人です」って答えた


ーー …。 すごく尖ってる(笑)。

つい心の声が出ちゃったんだよね(笑)。
流石に落ちたなって思ったんだけど、オーディションを受けるきっかけにもなった俳優のマネージャーさんがその回答を聞いて僕のことを気に入ってくれたみたいで…(笑)。
その方以外は満場一致で反対してたみたいだけど、結局そのマネージャーさんが僕の面倒見るからって言ってくれて受かっちゃったの。


ーーなんというミラクル…。

ご縁によるものが大きいけど、鳥取にいた頃から自分が信じたことを貫く生き方をしてきた中で、初めてその意志が実ったとも言える体験だったな


嫌いなものを大人と答えていなかったらこうした俳優としての活躍は見られなかったかも…?



自分を信じて飛び込んでみる。東京での躍進につながった両親の教え


ーー鳥取県って自分の好き嫌いをはっきり伝えづらい環境だなと感じることがよくあるんですね。覚さんが小さい頃から自分の意見をはっきり伝えられたのはどうしてでしょうか。

覚悟かな。
小学校の頃から、周りがどうであろうと自分の意見を伝えていたけど、少なからずストレスを感じていたんだよね。
自分の思いを曲げてでも、みんなが同じ意見で過ごしやすいコミュニティを作ることが求められるような気がして。

その考え方をくつ返してやりたいっていう思いがあったのかもしれないな。


ーー周囲とは違う選択肢を取り続けることで、社会に対して自分を貫いて生きていく覚悟を養っていたんですね。

特に東京に出たばかりの時は目に映るもの全てが敵に見えていたしね(笑)。


上京当初の川口さん。あらゆるところから川口さんの意志が垣間見えます。


ーーでも、自分を貫く意志があっても周りと同じ選択をする方向に進む方が生きやすい時は多々あったと思うんですね。どうしてそんな中でも自分を貫き続けることができたんですかね。

そこは両親の存在があったからなんだよね。
当時は何かトラブルがあって教師が家にお詫びに来たとしたら、親はうちの子が悪いんでって自分の息子に責任を投げかけることが多かったと思うんだよね。
だけど、うちの母親はいつも僕の味方でいてくれたし、父親はお前のやりたいようにやれって背中を押してくれた


ーー行動の裏にはご両親の教えがあったんですね。

両親とも一度鳥取の外に出て働いた上で鳥取に戻って結婚してるんだよね。
両親自体が多角的な視点を持っていたから、規律に従い過ぎずあなたのやりたいようにやったらいいよって言い続けてくれてたのかもしれない。


ーーただ、どれだけ強い心の支えがあっても東京に最初出た時って何も知らなかったわけじゃないですか。これからどうなるんだろ…っていう怖さはなかったんですか。

めちゃくちゃ怖かった(笑)
何も分からないまま、何かしたいなって思いが漠然とあってしばらくはうつうつとしてた。


ーーそんな不安が大きい状況の中、どんな行動を取ったんですか。

直感を信じて飛び込むこと


ーー直感…?

一つ自分にとって大きかったエピソードだと、原宿を歩いていたらカレーの匂いがしたのね。


ーーはい…。

匂いの方向を見たら昔のレゲエとかを流してるレトロな雰囲気のカレー屋があって一目惚れしちゃったんだよ。
勢いのままお店に入るやいなや「ここで働かせてください!」ってお願いしたんだけど、カレーを食べたこともなかったから追い返されて…。
でも、どうしてもそこで働きたかったから、もし何か困ったことがあったらこの電話番号に電話かけてください!って伝えて店を出たんだけど、その1週間後位に電話かかってきたの。
その店主に色んなつながりを作ってもらって、東京で生きていけるようになったんだ。


ーー少年マンガみたいな出会い方だ…。

人やお店への飛び込みは数えきれないくらいやったな
自分を信じて行動しているから、自分がカッコいいと思うものなら何かあっても悔いはないなって思えてたんだよね。
俳優の時も飛び込んでよかったなって思う時が何度もあって、その積み重ねが今の僕を作ってる。


ーー「自分のやりたいようにやれ」と送り出したお父さんのお言葉など、そこでもご両親の存在が背中を押していたのかもしれないですね。

そう考えると両親には今もずっと支えられているのかもね


世界的演出家の蜷川幸雄さん(左)からも絶大な信頼を置かれていた川口さん



今も昔も変わらない。鳥取県がくれた宝物。


ーー俳優生活の中で鳥取県岩美町出身だからこそできたって経験はあったりしますか。

めちゃくちゃあります!
岩美で生まれ育ったからこそ、芝居を作る上で大切な感性が豊かになった。


ーー例えばどういった場面で感じられたんでしょう。

蜷川幸雄さんの下で演じた「ハムレット」にしても、デンマークの孤独な王子様のハムレットをイメージする時に最初に出てくるのは岩美の景色なの
岩美の景色に勉強した当時のデンマークの街並みや文化を塗り足していくと、気づけば豊かな彩りが心の中を満たしていて、僕にしか創れない僕だけの役が出来上がっている

他にもインド映画に出た時は、第二次世界大戦中の日本兵の役だったんだけど、僕が一人で歌を歌うシーンがあるのね。
その歌を決める打ち合わせにインドの監督に30曲くらい日本の曲を持っていったんだけど、インドの監督がこれ!って言ったのが鳥取市出身の作曲家岡野貞一さんが作った「朧月夜」だったんだよ。

鳥取で培った感性は国境を超えて人の心を響かせられるんだって実感したんだよね


ーーすごい…。役作りのベースはいつも岩美なんですね。

そうです!間違いない。


ーーそれは朝ドラ「エール」に出演されていた時の役作りも反映されていたんですかね。

反映されてるね。
あの作品は福島が舞台ではあるけど、イメージする街並みは鳥取なんだよね
特に舞台が田舎だと、その地域を勉強すればするほど鳥取が思い浮かんでいい役作りができる。


インド映画撮影時の川口さん。


ーーまさかそんなに鳥取が俳優活動に生きているとは。

だから鳥取がいつになっても、どこにいても大好きで離れられないんです。
東京に出た当初は鳥取を捨ててやる!って思ってたのにね(笑)。
東京にいた頃も隙あれば鳥取の自慢ばかりしてた。


ーー川口さんにとって鳥取はどんな場所なんでしょう。

新しい何かが生まれる場所であり、夢や希望にあふれる自分の原点に立ち返らせてくれる場所かな

鳥取はアーティストとしての力を解放してくれるんだよね。
ゴッホにしてもダリにしてもアーティストの多くは田舎から生まれていると言われてるんだけど、田舎って何もないからこそ想像がどんどん広がっていく

今取材を受けている海辺だと波や虫の音が重なって最高の音楽が作り出されているし、自然が生みだした環境でクリエイティブなことを想像するってこれ以上ない贅沢だと思うんだよね。


ーー俳優になってからと高校の時に感じていた鳥取の景色は違うものなのでしょうか。

根底は同じだけど違って感じる。
でも、その違いがまた僕にエネルギーを与えてくれるんです。


ーーどんな違いを感じているんですか。

10代の頃に見ていた鳥取の岩美の景色は、夢や希望にあふれていた
だからずっとワクワクしていられた。
一方で俳優を始めてからの景色は、心が落ち着く穏やかなものになったんだよね
心が平穏な状態で今の役作りは間違っていないかなとか、もっと色んな可能性ないかなとか。
鳥取はいつも新しい視点を与えてくれる。


ーーまさに創作のためのエネルギーに満ちあふれた場所なんですね。

一番大きいのは10代の頃に夢や希望を持っていた場所だったこと。
心に焼き付いている景色と感情は変わらないから、戻ってきた時には夢や希望を感じていたあの時の気持ちに戻れるんだよね。


ーー最後に今後、夢にあふれた場所“鳥取”から羽ばたいていく若者に向けて一言いただけますか。

後悔はせず、反省をたくさんして欲しいです
少しの興味は自分の想像もしない未来を生み出す可能性に満ちていると思います。
ダメだったらダメで反省すれば成長につながる。
だから自分を信じてまずは一歩踏み出してみて欲しいです。
帰ってきたら僕たちをはじめとした鳥取県民があなたを全力で支えるので。


川口さんからのメッセージ!


ーー編集後記ーー

インタビュー中、川口さんの目は少年のようにずっと輝いていました。

川口さんの人生は、ご自身が幼い頃に頃に変身していたというドラゴンクエストの勇者の冒険そのもののように感じました。
自分を信じて挑戦しダメなら反省しパワーアップ。
気持ちを入れ替えもう一度挑戦し、どんどん世界を広げていく。

自分を信じて人生を切り拓いてきたからこそ、そしてその過程でいつもワクワクされていたからこそ、目に揺るぎない強い輝きがあり続けているんだと思います。

川口さんと話していると自分自身も鳥取から広がる未来にワクワクが広がっていく、そんなとても素敵な時間でした。

エンドウレイ



川口覚さん最新情報

▼出演番組▼

📺日本海テレビ「ネタタン!」 毎週(水)21:54〜
山陰地域を主な舞台にさまざまなネタ探しに奔走する新進気鋭の推理小説家・風田逃兎(ふうだ にと)を主人公に、一風変わった地域の『ネタ』をお届けする令和執筆的・情報バラエティー!
🎥https://netatan.jp
TikTokアカウント
🔗https://www.tiktok.com/@magicplus.netatansns?_t=8hAHqNKcr21&_r=1

📺日本海テレビ「おびわんっ!」(月)〜(金)16:20〜
金曜レギュラーのコメンテーターとして出演中。
🎥https://www.nkt-tv.co.jp/sp/obiwan/
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川口覚 公式Instagram
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インタビュー・編集:エンドウレイ
デザイン:KENPI
写真提供:川口 覚さん
運営:鳥取マガジン



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