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#14 バレンタインデー:プロポーズの日

恋人達が愛を語り合うバレンタインデーの日、私は自分が受け持つタウン雑誌の3月号の取材原稿をかき集め、朝からバタバタと忙しくしていた。

この週、日本のある有名野球選手がサンフランシスコジャイアンツに入団した事もあり、寝ない日もあるくらい忙しかった。恋人同士にとって大切なバレンタインデーの日、約束のレストランに着替えと化粧道具を持ち込みで汗だくで駆け込んだ。それでも30分も遅刻してしまった。


それでも普段待ち合わせ時間にうるさい彼が、なぜか何も言わず私に暖かく接してくれた。「あれ、怒られない?」 私も髪の毛を振り乱しながらもこの日は“何か”を予感していたのかもしれない。高級レストランに遅れて登場し、レストランのトイレで化粧を直し、ドレスに着替え、更に時間をかけている。支度を終え彼の待つテーブルへ向かった。彼はいつもよりニコニコしていて、スーツを格好よくキメていた。


そしてその時は来た。コース料理も終わり頃でデザートにさしかかった時、彼は目をキラキラさせながら、ダウンニーで「君が欲しい。君だけを見て生きて行きたい。Will you marry me?」と言い、私にダイヤモンドの指輪を差し出した。「これこそ、今までアメリカ映画に出てきたシーンだ。それが今、私の人生で現実になっている」。

私はこみ上げてくる涙を抑えながら、「Yes」と言った。もう心の準備はとっくに出来ていた。この瞬間こそ、女の幸せを感じたことはない。何よりも女性は愛されて幸せになるんだ。左指に光るダイヤの輝きを毎日見てはニヤニヤしていた。


「私達は家族になるんだ」という喜びは日々私の精神状態を落ち着かせていた。そして私の家族にも挨拶をしようと私達は初めていっしょに日本に行く計画を立て、その年の桜が咲くであろう4月1日に日本へと旅立った。


私のクライアントの計らいでビジネスクラスをとってもらい、機内でお祝いのシャンペーンをサービスされた私たちの幸せ度は最高潮に達していた。初めての日本訪問に彼の半端ない高揚感もしっかり伝わってきた。



こんな破天荒な私が突然アメリカ人の婚約者を連れてきても、両親は暖かく迎えてくれた。温泉旅行にも連れて行ってくれ、彼をもてなしてくれた。自分が生まれた国を好きな人に案内できる、これほど嬉しいことはない。

どこを見せても私の誇れる国の情景や郷土料理や世界先端の料理など一緒に体験しながら、彼が私の国を好きで楽しんでくれることに心から喜びを感じた。彼はどこに行っても私の家族や親族、友達からキングのようにもてはやされ、上機嫌だった。


初めての日本の景色は彼にどう映ったのだろう。彼の夢だった日本訪問はこうして生涯の思い出となった。


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