彼女はリリー。She is Lily.

 私の好きな作家の一人が谷崎潤一郎です。『細雪』の絢爛豪華なドロドロも素晴らしいですが、今回は猫を主人公にした小説を紹介します。タイトルは『猫と庄造と二人のをんな』です。中公文庫版は「をんな」表記ですが、新潮文庫版は「おんな」表記です。新潮版は中公版を底本にしているそうですから、中公版で充分かもしれませんね。中公版の良いところは「ドリス」という作品も同時収録されているところです。この未完の小品も素敵です。
 さて『猫と庄造と二人のをんな』ですが、そのタイトルが示すように、猫(雌猫のリリー)と男(庄造)と女(前妻の品子)と女(現妻の福子)が、谷崎お馴染みの「痴態」を演じます。この痴態ぶりが、上質なフランス映画のようで、クスリと笑えてお洒落です。現代版の実写版で短編映画を製作して、ミニシアター系で上映したら、猫好きの素敵な男女から「いいね!」を集めそうです(この小説を原作にして、過去に3回映像化されているそうです。映画は1956年、TVドラマは1964年と1996年。何と、映画版の庄造は、森繁久彌! ぜひ観たい!)。
 谷崎小説といえば変態性を外せませんが、最も変態なのは、やはり庄造ですね。「人の雌より猫の雌が良いな」という気持ちは、私も、よおくわかります。さらに谷崎小説に欠かせない悪魔的な女の存在。それは、もちろん雌猫(リリーという名前も意味深)です。
 猫が好きな人はもちろん、猫好きの気持ちを知りたい人、猫が好きな彼氏や旦那さんに辟易している彼女や奥さんも、ぜひご一読を。いやあ! 猫って本当にいいもんですね!

追伸

 関西在住の人はもちろん、関西の地理に興味がある人は、ぜひ地図を片手に熟読を。歩き回る庄造の健脚ぶりに驚きます。
 作家の村上春樹さんがどこかで書いていましたが、春樹少年は芦屋の辺りで行われた森繁映画のロケを目撃したそうです。
 猫文学と言えば夏目漱石の『吾輩は猫である』ですが、時空を超えて、吾輩とリリーの会話を聞いてみたいような気がします。


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