【本棚のある生活+α】2024年6月に読んで面白かった本
昨年(2023年度)から、思い付きで始めた月イチペースで、面白かった本と見応えがあった映画を、ご紹介してきました。
コンプルテンセ大学などの研究に依ると、
「ひとりで読むと、人間の言語処理はよりアルゴリズム的になる。
言い換えれば、より自動化され、制限されるようになる。」
そうです(^^;
ひとりで読むと、どうしても、決まったルールにしたがって文章を読解するため、わりと内容を文字どおりに解釈してしまうのだとか。
但し、他人と読むことによって、ルールから外れた読み方をするため、創造的で全体の解釈が深まる読み方になるので、以下の点に注意の上、
①ひとりで読む行為はより詳細かつシステマチックな処理につながる
②他人と読む行為はより創造的で統合的な理解につながる
自身の読書目的を明確にしてから、読書の環境を選んでいただくといいかもしれませんね(^^♪
いずれにせよ、少なくとも、周りにひとりの人がいるだけで、脳の活動が変わる点は、おもしろい知見ではないでしょうか。
【参考記事】
ということで、2024年6月に読めた本の中から、特に面白かった本(1冊)のご紹介です。
【特に面白かった本】
「忘却の効用 「忘れること」で脳は何を得るのか」スコット・A・スモール(著)寺町朋子(訳)
忘却というと、記憶を阻害するものとして悪いイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし、2012年に、東京大学大学院教育学研究科の平島雅也助教と野崎大地教授は、運動を学習する場合、その記憶を、
「少しずつ忘れる」
ことは、むしろ、運動制御の指令を最適化する効果があることを初めて理論的に証明しました。
また、本書に依れば、
「脳は記憶を消したがる」(Forest2545Shinsyo)前野隆司(著)
「忘却=幸福」とは、単に、
「イヤなことは忘れちゃおう!」といった話ではなくて、記憶のメカニズムにもとづいた話になっており、以下の通りです。
①記憶は生きる技術を学ぶためにある
②生きる技術は無意識に使えるようになって初めて意味を持つ
③人の「悩み」とは、技術が無意識化されていない状態である
④つまり、無意識化=記憶を忘れれば「悩み」は消える
⑤幸福になる!
但し、本書は、実用書ではないため、
「じゃあどうやってイヤな記憶を忘れればいいの?」
って点に関しての説明は薄めだったことから、「忘却の効用 「忘れること」で脳は何を得るのか」を手に取ってみました。
本書は、忘れることが、ただの記憶の欠如ではなく、脳の健康において欠かせないプロセスである事実を、神経科学のレベルで掘り下げてくれています。
それじゃ、どうして、人間には、忘却が必要なのかと言いうと、本書に依れば、以下の通りです。
適切な忘却は、脳が重要な情報を効率的に保持するのに役立つ!
①忘却によって、生物は柔軟な行動ができるようになる!
②忘れるからこそ、抽象的な概念を理解しやすくなる!
③忘却のおかげで、過去の嫌な感情から逃れて現在を生きられる!
④物事を忘れないと、いつも同じような行動しかできなくなる!
個人的に、忘却と抽象的な理解の関係が参考になり、私が忘れっぽいのは、具象を抽象に落とし込んでいるからなのかも(^^;
また、自閉症者は、忘却が苦手であり、そのせいで、特定の行動へのこだわりが強くなるって指摘も、興味深い視点でした。
因みに、忘却の力をうまく使って感情的な負担を軽減する方法として、マインドフルネスやセルフコンパッションの技術も推奨されていましたが、例えば、論理療法とかで使われる
「イヤなことがあったら、その出来事と感情を詳細にノートに記録して点数をつけろ!」
の様な方法もオススメだと感じます。
これも、ある意味において、生きる技術の無意識化に近いテクニックではないでしょうか。
【二言三言】
忘れる事ばかり気にかけているけど、自分は、ちゃんと記憶しているのだろうか?
そこで、「記憶力とはなにか?」について、簡潔にまとめておくと、記憶とは、過去のことではなく、現在と未来のこと。
というのも、大半の人は、
「“記憶”とは物事を覚えておくためにある」
と考えるのですが、実際の機能は、異なっているそうです。
記憶の神経システムは、過去の出来事を思い出すために生まれたものではなく、私たちの脳が、不確実で、変化し続ける世界の中から、役立つ情報を抽出するプロセスのことを意味しています。
私たちは、記憶を、推論し、計画し、想像し、コミュニケーションし、アイデンティティを形成し、時間と空間を認識するために使っています。
大半の人は、
「私の記憶力はひどい」
と嘆きがちだけど、そもそも、記憶は、過去のためにあるのではないのだから、
■人の名前を思い出せなかったり
■鍵をどこに置いたかわからなくなったり
■数分前に話していたことがわからなくなったり
しても、落ち込む必要はないんだよね( 一一)
記憶の研究で明らかなのは、私たちは、過去のほとんどを忘れ去る運命にあり、日常的な忘却に対して、不満や心配を抱いても意味がないということなんだそうですよ。
記憶を思い出すとき、私たちは、過去を再現するのではなく、過去が、どのようなものだったかを想像します。
画家が、自分の解釈を反映させて、絵を描くように、私たちの脳は、 自分の信念、目標、視点によって記憶を形作ろうとするそうです。
こうやって、記憶を再構築するたびに、脳は、記憶をいじくり回し、データを修正し続けていきます。
つまり、私たちの脳は、 間違った記憶を持ちやすいように設計されているんですね。
しかし、これは、必ずしも欠陥ではなく、私たちを取り巻く世界は、常に変化しているので、その変化を反映させるために行われる処理の結果なんです。
そうであれば、脳が、記憶を改ざんしやすいのは、大問題のようですが、一方では、トラウマや不快な感情をともなう経験を、後から修正できるという意味にもなってきますよね。
つまり、新しい視点を取り入れられれば、その記憶に対する気持ちを再構築でき、私たちは、自らメンタルを改善し、将来への貴重な教訓として 生かすことができるのだという気づきが得られます(^^)
【補足情報】
ピアソラ「オブリヴィオン(忘却)」
映画『エンリコ四世』は、
『マルコ・ベロッキオ特集』映画オリジナル予告編
落馬事故で頭を打ったショックで記憶を失い、自分が皇帝エンリコ四世だと思い込んで古城で暮らす男を主人公にした一風変わったストーリー。
もともとは、戯曲だったものを映画化した作品です。
マルチェロ・マストロヤンニ主演、音楽をピアソラが担当という、今思えば、とても豪華な作品でしたが、当時は、日本未公開で、近年まで、なかなか映像を見ることができませんでした。
「オブリビオン=忘却」というタイトルが物語るように、甘美なメロディながら、どこかはかないこの曲は、狂気と正気の交錯するような、この映画の雰囲気にも合っています。
「はたして彼は本当に記憶を失っているのか?」
それは、この映画を、ご覧になって、確かめてみてください(^^)
<参考記事>
ピアソラ :忘却
誰かを待つ時間、みなさんは、どんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり。
そのあとの時間に思いを馳せたり。
あるいは、メールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな、
「待つ時間」
に、そっと寄り添う音楽を♪
宇多田ヒカル「忘却 featuring KOHH」
<おまけ>
現代人への皮肉とユーモアを、ポップサウンドに乗せて。
ゴージャスでシニカルな、フランス産エレクトロ。
『ドメスティケイティド』/セバスチャン・テリエ
甘美さと不快さを併せ持つサウンドに惹き込まれる。
次世代のUKロックを担う、男女ユニットがデビュー。
『925』/ソーリー
ニューヨークの歌姫が、幻の花をテーマに贈る新作。
稀代の才媛が生み出した、鋭角的なポップワールド。
『ワンダーブルーム』/ベッカ・スティーヴンス
【リストアップした書籍】
「恐るべき緑」(エクス・リブリス)ベンハミン・ラバトゥッツ(著)松本健二(訳)
「忘却の効用 「忘れること」で脳は何を得るのか」スコット・A・スモール(著)寺町朋子(訳)
「穴持たずども」(ロシア語文学のミノタウロスたち)ユーリー・マムレーエフ(著)松下隆志(訳)
「マーリ・アルメイダの七つの月 上」 シェハン・カルナティラカ(著)山北めぐみ(訳)
「マーリ・アルメイダの七つの月 下」 シェハン・カルナティラカ(著)山北めぐみ(訳)
「ステラ・マリス」コーマック・マッカーシー(著)黒原敏行(訳)
「アウター・ダーク―外の闇」コーマック・マッカーシー(著)山口和彦(訳)
「崇高と美の起源」(平凡社ライブラリー)エドマンド・バーク(著)大河内昌(訳)
「種村季弘コレクション 驚異の函」(ちくま学芸文庫)種村季弘(著)諏訪哲史(編)
「鷲か太陽か?」オクタビオ・パス(著)野谷文昭(訳)
「意識と目的の科学哲学」(慶應義塾大学三田哲学会叢書)田中泉吏/鈴木大地/太田紘史(著)
「チェヴェングール」アンドレイ・プラトーノフ(著)工藤順/石井優貴(訳)古川哲(解説)
「闇の中をどこまで高く」(海外文学セレクション)セコイア・ナガマツ(著)金子浩(訳)
「わからない」 岸本佐知子(著)
「滅ぼす 上」ミシェル・ウエルベック(著)野崎歓/齋藤可津子/木内尭(訳)
「滅ぼす 下」ミシェル・ウエルベック(著)野崎歓/齋藤可津子/木内尭(訳)
「反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」ナシーム・ニコラス・タレブ(著)望月衛/千葉敏生(訳)
「反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」ナシーム・ニコラス・タレブ(著)望月衛/千葉敏生(訳)
「アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション」 岸本佐知子/柴田元幸(編訳)
「兎の島」エルビラ・ナバロ(著)宮﨑真紀(訳)
「プラヴィエクとそのほかの時代」(東欧の想像力)オルガ・トカルチュク(著)小椋彩(訳)
「トークの教室 「面白いトーク」はどのように生まれるのか」(河出新書)藤井青銅(著)
「夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす」池谷裕二(著)
「ハルムスの世界」(白水Uブックス)ダニイル・ハルムス(著)増本浩子/ヴァレリー・グレチュコ(訳)
「マッカラーズ短篇集」(ちくま文庫)カーソン・マッカラーズ(著)ハーン小路恭子/西田実(訳)
「人類の深奥に秘められた記憶」モアメド・ムブガル・サール(著)野崎歓(訳)
「脳科学で解く心の病 うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで」 エリック・R・カンデル(著)大岩(須田)ゆり(訳)須田年生(監修)
「その昔、N市では」マリー・ルイーゼ・カシュニッツ(著)酒寄進一(訳)
「身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質」ナシーム・ニコラス・タレブ(著)望月衛/千葉敏生(訳)
「寝煙草の危険」マリアーナ・エンリケス(著)宮﨑真紀(訳)
「失敗ゼロからの脱却 レジリエンスエンジニアリングのすすめ」芳賀繁(著)
「本屋、地元に生きる」栗澤順一(著)
「イギリス人の患者」(創元文芸文庫)マイケル・オンダーチェ(著)土屋政雄(訳)
「ルポ書店危機」山内貴範(著)
「トラウマとレジリエンス 「乗り越えた人たち」は何をしたのか」ジョージ・A・ボナーノ(著)高橋由紀子(訳)
「Invention and Innovation 歴史に学ぶ「未来」のつくり方」バ-ツラフ・シュミル(著)栗木さつき(翻訳)
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