都築郷夫(つゞき·くにを)の詩と歌と句 act 27 by Tsudsuki, Kunio 附・詩人の為のワードローブ集
それは見るだに気味の悪い死人の肖像画だった。大道絵師が蛇や龍の絵を描くような筆づかいで描かれ、どことなく線香臭く、田舎の葬連の暗い匂いが滲みついていた。生きた人を目の前にしながら、その人の死顔を透かし視ながら描いたのではないかと思われるような絵である。(車谷長吉「なんまんだあ絵」より)
【詩①】
寺山修司に。
詩が書けて困つたことはないが
詩を書くと言ふのに喉が詰まつたことなら
何度でも。
嘗て「詩人が見るやうな眼で
俺を見るな」と歌つた者があつた -
ほんと、私自身さう思ふ時もあるくらゐだ。
何事もうがつた眼をして見れば
なまなかな詩なら作れる
だが..そんなもので自信を
揺るがせにするのは
良くない。
見るとなれば 徹底的に見るのだ、
例へば乳房の大きな女性を
描きたいなら
痴漢と間違へられるやうな
覚悟で -
さう云ふ詩人に 私はなりたい。
©都築郷夫
【雑詠・前】
錐揉み状に墜ちる何だろ熾天使か
(©都築郷夫)川柳 senryu
父親のどうしやうもなさは置いても老母となりぬ人の酒かな
(©都築郷夫)短歌 tanka
エネルギー補給さバタ匂ふクッキー
(©都築郷夫)川柳 senryu
厠暑し私は今日も考へる人のポーズだ九月九月九
(©都築郷夫)短歌 tanka
はつあきのトマトのまだ柔き朝メシ
(©都築郷夫)俳句 kigo
また渇く要素発見我が暑終はらず
(©都築郷夫)俳句 kigo
【詩②】
あれやこれや。
どうにも言葉が見つからず
胃の腑の腐つたやうな
おくびを
茫然と
嗅いでゐる -
簡単に手に入るカネなんてないぞ
だけど己は一番
際どいやり方に
己れを
置く。
リズムは死んでゐて結構だ、
音楽的なるもの
とは異なる
思考が
あつたとさ!
胃の腑の腐つたやうな
(女の腐つた、とは女には言へず)
あんたは
己の
財宝、さ。
©都築郷夫
【雑詠・後】
ガスパチョや父の五百円玉貯金
(©都築郷夫)川柳 senryu
詩に使ふ脳ならたぶん発酵済み
(©都築郷夫)川柳 senryu
珈琲は穢(ケ)の飲み物か秋の朝
(©都築郷夫)俳句 kigo
新涼など気づいてみればアタマのコダマ
(©都築郷夫)俳句 kigo
小綺麗と小汚ないの小の違ひかな
(©都築郷夫)川柳 senryu
秋彼岸まで待つてくれおつかさん稼ぎの道筋薄くは見えた
(©都築郷夫)短歌 tanka
【虚言箴言】
処女の聖性を護る一角獸と言ふ生き物がゐるが、童貞はハルピュイアイに今にも襲はれさうではないか!- ラ=ロシュフコオ(大嘘)
ユニコーンとハーピー、どちらも想像上の動物(?)だが、こゝでラ公が嘆いてゐるやうに、害益、と言ふか及ぼす力は善悪まるで逆である。
【つぶやき】
久しぶりに自販機でミネラルウォーターを買つて飲んだのだが、痛感したのは、水道水に比べて断然胃にかゝる負担が軽いこと。水買ふなんてゼータクの極みだと思つてゐたが、再考の余地はあるなあ。
今回、巻頭の引用が長いのだが、亡くなられた車谷先生の素晴らしい文章をいろいろな人に知つて貰ひたく、押してさうした。もう少し長く生きて頂きたかつた作家である。老耄のヨイヨイになつてからも、何かしでかして(失敬!)下さるやうな氣がした。
時間が差し迫つてゐたので、ろくに校正してゐない。ご指摘あらばどうぞ。都築拝。また。
この暑さ夏逝きし後とまづ分かる
(©都築郷夫)俳句 kigo オマケ
んぢやチャオ!
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