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ショートショート集

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実話・実話怪談・ちょっと不思議な話、など、創作をまとめました。
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2014年4月の記事一覧

件名:学校火事

それは一月末のある日。三年生は卒業前の午前授業で、一・二年は昼休み、三年生だけが放課後、という時間帯だった。教室には石油ストーブがあり、ストーブ係は灯油を補給しなければならない。他の生徒が帰る中、ストーブ係の男子生徒はあせっていた。早く給油を終えたい。つい、石油のポリタンクをストーブに近づけすぎた。火は消してあるはずだったが、くすぶる火種があった。
女生徒が

「ねぇ、ヤバいんじゃない?」

と、

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プール​


校舎の北にはテニスコート。その隣にプールがあった。

だが、水が張られることはなく、夏にも水泳の授業はなかった、と、森田さんは言う。

「なんかね、プールで事故があって死んだ生徒がいて、そのあと、排水溝にひきずりこまれたり、足をひっぱられて溺れる、なんていう事故が相次いで起こったんで閉鎖されたんだって。」

だが、学校を舞台にしたシンクロのドラマの影響で、彼の代に、「やりたい」という声があがった

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夢の話



私は保険の外交員だ。古びたマンションの階段を、最上階まで上がっていく。その階に訪問先があるのだ。片手には書類ばさみを持っている。契約更新の書類であろう。

ドアを開けると、色とりどりの布きれがたたみにちらかっていて、老女が裁縫をしている。私が行くと「ちょっと待って」と、必要な書類を捜し始めるのだが、見つからないらしく、奥に行く。

やがて、私を手招きして、探すのを手伝ってくれ、と言う。

奥の

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托卵

生まれて最初に「殺し」をやった。

まだ生まれていない卵を全部巣から落としたのだ。そう、私は百舌鳥。

私の親は私を産み捨てた。郭公の巣の中に。私が生きるためには、「殺し」は必要だった。

自分が生んだ仔でもない雛を育てる郭公の愚かさよ。私を育てない百舌鳥の親の薄情さよ。

私は肉親の愛に恵まれない。

やがて、私は巣立った。私もまた、仔を産み捨てるだろう。私の親がそうしたように……。

そして。

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新版・北風と太陽

北風と太陽が、旅人のマントを取る競争をして、太陽が勝った。世間は「さすが太陽だ」とたたえたものだが、中に、

「ばかじゃないの」

と、つぶやくものがいた。

それは野原の小さな草だった。

(どちらが偉いか、なんて、決めようとするのもばかげてるし、それをマント剥ぎ競争で決めるというのもばかばかしい。上に立つものがそんなことでは困るわい)、と続く言葉は飲み込んだものの、草の不遜な発言

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変身?

ある朝目覚めたら男になっていたとか女になっていたとか、巨大な昆虫になっていたとかいう話は聞いたことがあるが、私の場合……、

……餅になっていた。

どういうことだろう?四月の末に「餅」とは。
何だか嫌な気分だ。
暗闇の中、時間だけが流れ去る。そして……、

賞味期限が過ぎた。

あなたの家の台所に、「餅」が残っていませんか?

【完】
・この文章に続きはありません。課金は投げ銭式となっておりま

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墓標の街

突然の病が彼らを襲った。それは多分海外からもたらされたもの。免疫力の高い一族が、運んできたのだ。

彼らは、その病原菌に弱い。感染は、そのまま、死を意味した。あちこちで、仲間が倒れた。

長老が、とうとう、宣言した。

「この街はもうだめだ。生き延びるために、症状の出ていない若い仲間は、他の地域に伝えてくれ。決してこの街に入ってはならぬ、と。感染したものは、すみやかに、ここに来て死すべし、

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悲観主義者

なぜこんな、生きているのか死んでいるのかわからない生き方をしなければならないのかと思います。

生まれたからには、生きているからには、何かわけがあるはずなのに。
そんなことを考え始めると、この肉体を捨ててしまいたくなることもあります。

そんな時は意識を閉じて、眠ってしまうのが知恵というものです。

ささいな環境の変化で衰弱する、この身のひ弱さ。

ストレスで死んでしまう脆弱さ。

今日もこのむな

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お泊り会の夜

昔は、小学校で「お泊まり会」なるものがあった。生徒が集団で校舎に一晩泊まるという行事だ。現在ではほとんど行われていないが……。 

夜中に、Hは目を覚ました。

(トイレに行きたい……)。 

Hが寝ていたのは、教室の一番後ろ、扉の近くだ。教卓のそばで寝ているはずの担任・N先生は遠い。間にはクラスメイトが寝ていて、足元が暗くてよく見えない。

(どうしよう……)。 

その時、廊下に光が見

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開かずの間

松田さんの通っていた学校には、抜け道があるという噂があった。

以前その校舎を屋敷として住んでいた人が、いざというときのための地下通路を作っていたという話だ。その入り口が今の校舎内に残っているということだった。

松田さんは、その噂の真偽を確かめたくて、学校の中を満遍なく見て回り、聞き込みもした。そして、怪しい、と思ったのが「開かずの間」だ。一階廊下、校長室と事務室の向こうのつきあたりである。

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離岸流

離岸流って知ってるか?海は岸から離れていく強い流れがあるんだ。

遊泳禁止の赤旗がかかっているときは、地元の子供は泳ぎゃしないさ。

それをなめてかかる都会の奴が湘南の荒磯で泳いでさ。

わしが子供の頃はよくおぼれているのを見た。

助けになんて行かないさ。こっちが一緒におぼれちまう。

溺れているってのは見りゃわかるよ。こっちに泳いでこれないんだから。相模の海は遠浅で、急にがばっと深く

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