見出し画像

小学校高学年女子との奮闘記

思春期の女子は難しい。

自分の意見を素直に言えなかったり、周りの様子を気にし出したり、褒められてもあえて嬉しくなさそうにしたり、みんな同じで揃えることに価値があったりと、男性教師には理解し難いことがたくさんある。特に若い男性教師に対しては、反発する気持ちを強く抱いていることもこの時期の女子にありがちだ。

それでも、教室の半分は女子だし、少なくとも自分のクラスの女子くらいは指導していかなければならない。

「高学年女子指導」に特化して具体的に場面例を載せている教育書もあり、以前は何度も読み返したが、最近は読まない。なぜなら、それは自分の「観」をつくる上では役立つけれど、そっくりそのまま対応してもその場しのぎにしかならないと感じたからだ。

どんな子も認めてほしいと無意識に願っている。だから、どの子にも存在そのものを承認し、行動を承認し、言葉を承認し、思いを承認し、感謝の気持ちをもつ。
それは、クラスをかき回すような子に対しても同じだ。基本的に、悪いことばかりする子なんていない。もしいるとしたら、「この子は悪いことばかりする」と思い込んでいる大人がいるだけだ。



出会い

5年生でKを受けもった時、彼女は担任である僕のことを無視していた。だるそうに返事するだけだった。
個別に話しかけても、「はぁ。そうですけど何か?」みたいな返事ばかり。そのくせ、女子同士で話す時には笑って喋るし、その女子集団と僕とで喋る時にも笑っていた。でも、それ以外の場面では、普段から斜に構えた様子だった。僕にはKがわからなかった。

腹が立たないと言ったら嘘になるし、無視されて心が折れそうになることもあった。
それでも、この子の今の発達段階に腹を立てたところで仕方ないし、これも自分の役割なのだから、ここで折れてもいいことはないと思い、毎日話しかけた。
否定的な反応も一生分くらいもらった。


変化

変化が見られたのは、5年生の秋頃。
友達関係で悩んでいたKは、違う先生に相談し、担任である僕に助けを求めるようアドバイスされて、相談してきた。
その時、初めてKの気持ちを聞いた。そして、これからどうしたいか、そのためにどうするかを話した。Kは泣いていた。

その翌日から、少しずつだがKとの関係は変わっていった。
改善されたり、また元に戻ったり。でも、事務的なことなら向こうから会話してくるようになった。

それと、これまでKは、家に帰ってから学校でのことをほとんど話さなかったそうだが、この頃から学校の話を聞くようになったとお母さんが言っていた。


進級

6年生になった頃、何がきっかけだったのかはわからないが、笑顔で自分のことを教えてくれるようになった。最後の半年は、会話のほとんどがK発信だった。普段の笑顔も増えて、5年生の最初とは別人になったようだった。

保護者面談で聞いた話だが、Kは私立受験をした際に、面接官から「あなたのクラスのいいところを教えてください。」と言われ、次のように答えたそうだ。

「始めはみんなバラバラで、本音を隠すまとまりのないクラスでした。でも、今はみんながみんなのちがいを理解できるようになって、自分の意見をぶつけることができるようになってきました。先生もそうなるように努力してくれていて、私は今のクラスが好きです。」

直接聞いたわけではないが、Kとの関わりの中で一番嬉しい言葉だった。お母さんも、その場で驚嘆の声が出たらしい。

Kは、5年生になる時のクラス替えによって友達と離れ、新しい友達との関係も思うようにいかず、クラスのやんちゃな男子にも腹を立て、その矛先が担任に向いていたのだと思う。最初の学級の様子はKの言葉の通りだった。じゃあ卒業する時は、ドラマのような素晴らしいクラスになったかと問われれば、正直、胸を張ってそうなったとは言えない。もっとできたことがあるんじゃないかって今でも思う。
それでも、担任としてクラスを良くしていこうという思いはもち続けていたし、少なからず行動し続けた。もしかすると、僕が奮闘する様子を一番見ていたのは、Kだったのかもしれない。
5年生の時の関わりが、こんな形で生きているとは思ってもみなかった。
卒業式の後に、仲良しグループで学校に来て、担任の卒業式までしてくれたことは一生忘れないと思う。


教師の覚悟

「高学年女子だから、仕方ない」で済ませるのは簡単だし、職員室でも通用する論理になっている。

でも、それはどこか大人の保身のための言葉に聞こえるし、負けているのに白旗をあげていないので、余計にカッコ悪い。

本当に困っているのは、大人を困らせる子ども自身に他ならない。


その子をどうしたいのか本気で考えて本気で行動したら、きっと関係性は変わっていくのだということを、この二年間を通して学んだ。

大人の見栄もプライドも捨てて、本気で行動し続ける覚悟と姿勢を子どもに示すことが一番大切なんだと思う。

その姿勢をこれからも忘れずに実行していきたい。



8年後に使えるビール券


ちなみに、僕のクラスでは、クラス内で使える学級通貨がある。学習や当番活動、係活動など、頑張りに応じてクラス内で使えるお金をゲットできる仕組みになっている。

貯まったお金で、宿題なしカードを買ったり、おかわり優先カードを買ったりできるちょっと面白いシステムで好評だ。

Kは、ほとんどそれに興味を示さなかった。でも、卒業間近に買ったカードがある。



「先生、私ビール券買うわ。」

それは、大人になったら先生がビールおごるよ!っていう券。僕は教師7年目だから、まだ教え子と飲んだことはない。

あのKが、最も買いそうにないカードだけを買って卒業していった。僕はびっくりしたが、一方で、そんなKやこの学年の教え子たちと、いつか乾杯できたらとひそかに期待している。



この記事が参加している募集

子どもに教えられたこと

小学校教師、パパとしての立場から発信し続けていきます!これからもよろしくお願いします!