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【短編読切:文字の風景⑪】窓

大きな窓だ。2m程度の高さで、マンションのベランダに繋がっている。

銀色の窓枠とサッシの、いたってシンプルな作り。ガラスには今日の豪雨で、少しだけ水跡が付いている。

ほんの少し窓を開けて、網戸越しに風が入るようにしている。

風に吹かれて、白い透かし素材のカーテンが穏やかに揺れている。いくつもひだを成す山の部分が、部屋の明かりに照らされて暖色に染まっている。よく見ると平織の縦糸と横糸が、絣のような模様を形作っている。光が当たった糸は、反射してキラキラと輝いている。

少し開いた窓から見える外は、夜に沈もうとしている。

19時を回っても日の光を感じる夏の夕暮れ。今日は満月だが、曇っているのできっと星すら見えないだろう。

ベランダは大きな道路に面しているので、コンクリート造りのマンションや商業施設が並んでいる。4階のこの部屋から見えるマンションは3つ。左から背の順に並んでいて、真ん中のマンションはいつも最上階の部屋の明かりがカーテンの隙間から漏れている。温かみを感じる、暖色の照明。

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