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【短編読切:文字の風景⑫】猫

大きな毛むくじゃらの華が咲いているようだ。

猫が目の前で、腰を大きく曲げながら肛門を舐めている。左足を大きく上に伸ばし、だらしなく尻尾を伸ばしたシルエットが、まるで大ぶりの華を横から眺めたような形になっている。

その体は、撫でるほど艶が出そうな柔らかい体毛に包まれている。あんこがのったパフェのような、色味の柔らかい三毛猫なので雌だろう。水音を鳴らしながら、目を閉じて懸命に毛づくろいをする姿は愛らしい。比較的体毛は短く、ふかふかした毛の下の肉感と骨ばりを感じる。

一通り舐めて気が済んだのか、ぼてりと足を投げ出して床に寝そべる。陽だまりに包まれてうっすらと開けた瞳はカーキ色だ。瞳の中心にはキトンブルーの名残を感じさせる。まだまだ若い猫のようだが、立ち居振る舞いは大人の余裕を感じさせた。

尻尾を神経質に2,3度ばたばた振ったかと思うと、すすす…と繊細な動きで後ろ足に沿わせ、前足を折って丸くなる。さっき華のようだったシルエットは、今度は大きな瓜のようになった。鼻先はピンク色に染まっていて、暖かさに眠気を誘われている様子だ。猫は声も出さずに、小さな顎を少しずらしてにゃあ、と鳴き、それきり目を閉じてじっとしていた。

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