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エッセイを書きます

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最近の記事

コット、はじまりの夏

 久しぶりに映画館で映画を見た。ミニシアター系の映画館に来るのは久しぶり過ぎて、でもなんだか旧知の友人のようで、待合ロビーは親密感に溢れていた。  観たのは「コット、はじまりの夏」  あらすじは割愛する。映画を観た前提で話していくのでネタバレは躊躇しない。  とにかく、この映画を見てからずっとコットのこれからの人生についてぐるぐると考えてしまったのだった。  コットはアイルランド語を話す寡黙な少女であり、大人が話しかけても少しばかりの間が入ったのち、ポツポツと話す。しかしそ

    • 2023 下半期 音楽リスト

       もう2024年がスタートしてしまった。  2023年の下半期は10月の半ばで仕事を辞め、1日往復2時間半という狂気の通勤時間がなくなったせいで音楽を聴く時間がめっきり減ってしまった。それはそれで寂しい。  私が音楽を聴くスタイルは半強制的に何かをしなくてはいけない時(歩いている時、移動している時)に救いのように聴いていたのでそういう日常のタスクが消えたことはやや侘しい気もする。  とはいえ何も聴いていなかったわけではないので「いいな」と思ったものを書いてゆく。  ちなみに歌

      • 冬の日のこと

         風が通る音がする。  遠くから風がやってきて、田んぼの上、木々の隙間から強く吹き抜ける音だ。広い間隔で家が建っているせいで風の勢いが弱らない。その風らは家の壁にぶつかり、金属製のシャッターをガタガタ揺らす。  2ヶ月ぶりに実家に帰ったときのことだ。  私の実家は築30年を越えていて、建てた当時は新しく画期的だったシャッターも今は古く重く、強い風が吹くとガタガタと揺れて大きく鳴る。  結婚するまで実家に住んでいた私は久しぶりに聞くこのシャッターの揺れの音に敏感になり、よく眠

        • 君の名前で僕を呼んで

           夏の午睡のような映画だった。  ちょうど見た時間も15時からという太陽が西に傾きはじめる夏の空で、見終わったときは映画と同じように翳る部屋の中だった。これ以上に素晴らしい条件はないだろうというくらいのコンディションだった。  ティモシー・シャラメの美しさをただただひたすらに享受する映画なのか? と冗談めかしていたが、そう思ってもいいくらいティモシーは美しかった。撮影当時は21か22くらいだったようだが、あの体の薄っぺらさは映画の中のエリオそのまま17歳のようだった。  不

        コット、はじまりの夏

          ギズモはカワイイ、しかし不憫だ

           私にはヘビロテしている服がある。  2015年にUNIQLO UT から発売された映画グレムリンのキャラクター、ギズモのTシャツだ。(※見出し画像のそれである。)  夏のある日街を歩いているとこのTシャツを着た女性とすれ違い、私は天啓を受けた。  人生ときたまビビビ(松田聖子)とくる瞬間がある。それは人生で時々しか起こり得ないことだから大切にしなくてはならない。  なんだ、あのカワイイTシャツは!!!! 絶対に欲しい!!!!!!  私はすぐにiPhoneを取り出し”ギズ

          ギズモはカワイイ、しかし不憫だ

          特別面白くない日々のこと

           梅雨が明け、湿度が去りからりとした風が吹く。  通勤のために家から駅1キロ、駅から職場1キロを歩くので朝からへとへとである。汗をぬぐいながら柱にヤモリがくっ付いているなとよく見たらペンキが剥げているだけだった。遮光性100%だかなんだかの素晴らしい日傘を持っているので直射は避けているがどうにもこうにも暑い。  この日傘、とにかく高いがしっかり日陰を作ってくれるので値段なだけある。いい買い物をした。  そういえば、先日うまれてはじめてかき氷を店で食べた。たかが凍らせた水だろう

          特別面白くない日々のこと

          音楽はあの頃の私を簡単に連れてくる

           AppleMUSICすごすぎ。  たった月1,000円未満で、こんな聴き放題っていいの? ちょっと心配になるよ。  だってもうTSUTAYAに行ってCDレンタルしなくてもいいし、CD買う必要もないんだ。そういえば最近、まったくCD買ってない気がする。  高校生のころ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの新譜が出たらシングルでも買って中村佑介のジャケットイラストを熱心に模写していた私は懐かしくなった。  ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ソルフ

          音楽はあの頃の私を簡単に連れてくる

          2023 上半期 音楽リスト

           もう今年も半分終わったのか。早い。  私は結構移動する時間が長く、音楽は必須なのです。今年リリースされたフレッシュな曲だけでなく、今までリリースされた中から今年上半期よく聞いた曲をおすすめしていきます。  (時間が経ってから自分で読み返し、懐かしさに耽るためにも。) Laura day romance/roman candles|憧憬蝋燭  意味が分からないくらいに、いい。  これはとある音楽ブロガーさんにおける2022よかったアルバムリスト上位にあり、なるほどと思いプ

          2023 上半期 音楽リスト

          輝かしい日々よ

           束の間の休息である。  カレンダー通りの私は最大連休は5日であり、あっという間の日々であった。しかし天候に恵まれ、光の粒が通り過ぎるような美しく輝く日々はまさにゴールデンウィークにふさわしく、目を細めながら幸福を噛み締めていた。 1日目/5月3日  私の地元に帰り家族と食事。  幼い頃から通う町中華である。上品な味で美味しく、家族全員が好きだ。普段アルコールを飲まないのでグラスだけでふわふわとした気分になる。  姉夫婦も来ており、姪の成長した姿を見るのも楽しい。夫は柔和な

          輝かしい日々よ

          あなたは二階堂奥歯をご存じですか

           今日は2023年4月26日です。  ちょうど20年前、まだ朝が来る前に二階堂奥歯はこの世から旅立ちました。それからもう20年も経ったことになります。  二階堂奥歯さんを知ったのは最近のことです。  南条あや系なのかな? とはじめは思いました。  南条あやさんのことはわりと昔から名前だけは知っていました。  ”精神的に弱く、だけども愛嬌と文才があり人々を魅了したけれど儚く自ら散ったひと”  その方面には明るくなく、あまり触れないでおこうと思っていたのです。何しろ、インターネッ

          あなたは二階堂奥歯をご存じですか

          村上春樹

           タイトルはそのままに、村上春樹のことを書こう。  私は村上春樹の書く文章が・物語が好きだ。とはいえ、ハルキストとは言いたくない。自分の中では「彼の小説に深く感銘を受け、物語の中に入り込めるほど好きな作家」というくらいだ。いや、つまりそれをハルキストというのでは? と思われるかもしれないが、そういう簡単なものではない。(過激派)  好きだが、そこまで深く彼の小説を追及しない。あれはメタファー(村上春樹が大好きな暗喩のことだ)である、だとかこれはあれにつながりこれはどうとかああ

          村上春樹

          虚構の匙加減

           私は隠し事が苦手なタイプだ。  顔に出てしまうし、結局我慢できなくてつい言ってしまう。隠しておこう・秘密にしておこうと意気込んでいても、胸の奥の底からそわそわとしてきて、口がむずむずしてくる。  昨日、夫に「ねえ、noteってやってる?」とつい聞いてしまった。 『私ね、noteでエッセイをかきはじめたの。これがなかなか面白くて』  ……言いたい。言ってしまいたいぞ。日頃ぼんやりと生きている妻がまさかこのようなエッセイを書いているとは思うまい。 「note?書いてないけど、見

          虚構の匙加減

          小川洋子/密やかな結晶

           小川洋子さんの小説「密やかな結晶」を読み終えました。  何作か彼女の本は読んでいるのですが、じっとりと纏う悲しさと喪失感は変わらず、私の心をぎゅうと締め付けます。  彼女の本は作中にどうしようもない「喪失」が描かれます。喪失されたものはとても大切なもので、私たちの生活には欠かせないものです。  それをいともたやすく、さっくりと失くしていきます。それらは家であったり、体の一部であったり、肉親であったりします。  これ以上に大切なものがあるだろうか? 失ったら悲しみが深くなるも

          小川洋子/密やかな結晶

          【創作】

          / / / / / /  33歳・男性 「浮気したら、絶対に死んでね」  これは彼女からの強烈な愛の言葉だと感じました。  言っちゃなんですが、彼女は特別感情が強いわけじゃないんです。何事も、淡々とすべてを済ますといいますか……例えばですけどね、僕は結構横着ものなんですよ。脱いだ靴下は脱ぎっぱなしで適当に洗濯籠に突っ込むものだから裏返ったり、半分だけ丸まったりしてね、今までの彼女にはよく怒られてました。  そう、そうなんです。僕は家事はからきしで、今まで付き合ってきた女

          【創作】

          きっともう、三日坊主

           エッセイを書くにあたり、とりあえず毎日書いてみようかなんて思っていたがこんなにもわかりやすく三日坊主になるとは思わなかった。  何か書こうと思いつつ主題がないんだよなとぼんやり思っていたら一日が過ぎた。  文章を書くのは簡単で面白いが、書いている途中で「今はつまらない展開とつまらない文章だな」と自分で思う時がある。それはしょっちゅう起こる。  昔、二次創作をしていたときは原作とキャラクターを借りていたので書くのは実に容易で、原作人気に乗っかる形でまあまあの支持と膨大な作品

          きっともう、三日坊主

          髪の毛のワルツ/下

           の、続き。  私は服装もがらっと変えてしまおうと思った。  いわゆるモテっぽいやつにしようと思った。だってA.P.Cのプチニュースタンダード(デニム)だって「これね、リジットから育てたんですよ、ひげが出来てるでしょう。最初はきつくってね、ボタンもしめられませんでしたけどね……等々」と言ったところでモテないし、「コンバースの日本製をわざわざ選んで買ったんですよ、小さなこだわりがあるんです」と言ったところで、モテはしない。  いや、ある意味そういうのが好きな人には好感が高いか

          髪の毛のワルツ/下