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『秋声 【後編】』

「この世界を彩るもの」を【佐々木 青彩】の視点から描いていきます。
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。もしよければ、前作もご覧ください。

前作 「この世界を彩るもの」
「この世界を彩るもの〜青彩編〜」
1章−1 「青春」
1章−2 「青春」
2章−1 「盛夏」
2章−2 「盛夏」
2章−3 「盛夏」
3章−1 「秋声」
3章−2 「秋声」

3章−3

私はLINEに送られてきた地図を頼りに、最寄駅に到着し、お店をようやく見つけた。

チェーン店のようなわかりやすい看板ではなく、こじんまりとしたお店でどこか懐かしさを感じさせてくれる優しさがあった。

中に入ると

「いらっしゃい!」

と元気のいい挨拶が私を迎えてくれた。

「こんばんは」
「おっ、青彩こっち」

佐助くんが手を振りながら呼んでくれていた。

「こんばんは。いきなりごめんね」
「大丈夫、こっちはヒッキー」
「ヒッキー?面白い名前だね。よろしくね」
「あっ、よろしくです」

穏やかな雰囲気がある人だなと感じた。

「青彩は何飲む?」
「やっぱり、1杯目は生かな」
「おっけ、マスター、生1つください」

すぐに店員さんが持ってきてくれて、飲み物が揃ったところで3人で乾杯をした。カウンターで3人で横並びになって、手前から私、佐助くん、ヒッキーの順番だった。初対面の私とヒッキーは互いに自己紹介しながら、同じ田舎町で育ったことからもすぐに打ち解けあった。

「ヒッキーはなんで東京の大学にきたの?」
「そうだな、東京っていう世界を知ってみたかったんだよね」
「いつも以上に語るじゃん!」

青彩の質問から、流暢に話すヒッキーに対して、佐助くんがツッコミを入れていくシステムが出来上がった。

酔いがまわってきたところで、恋愛のトークになった。私はヒッキーから何気なく質問された。

「青彩ちゃんは、中学のとき好きな人とかいたの?」
「うーん、内緒」

私は濁しながらもすぐに質問を振った。

「ヒッキーはいたの?」
「僕はいたね」
「どんな人だったの?」
「自分に素直な子だったかな。必要以上に誰かと仲良しではないんだけど、クラスメイトからは慕われていて、運動もそこそこできて、よく図書館で本を読んでた人だったな。そこから僕もよく図書館でよく本を読むようになったかな」
「俺のときはいつも一言で会話終わるよね?」

また佐助くんがツッコむ。3人で笑いながらも昔からの友人のように、ただ楽しい時間を過ごしていた。

「そろそろ終電だから帰るよ」

ヒッキーが少し慌てながらも帰り支度を始める。気づいたらもう23時30分を過ぎていた。

「私も明日朝から授業だし、帰ろうかな」
「そっか」
「マスターお会計願いします!」
「あいよ」

私とヒッキーは帰る方面が一緒だったので、見送る佐助くんに手を振りながら改札に入った。帰りの電車は空いていて余裕を持って座れた。ヒッキーから話を振ってきた。

「明日の授業は何とってるの?」
「明日は教育心理学だったかな」
「一緒だよ!同じ教室にいたんだね」
「そうだったんだ!あの教室広いし、人も多いもんね」
「気づかなかったね」
「そうだね、ちょっとわからないところ沢山あるから一緒に受けようよ」
「そうしようか」

私はひとりで心細かったし、わからないところが不安でヒッキーがいてくれると心強かった。すると、不意にヒッキーから質問された。

「青彩ちゃん、佐助のこと好きでしょ?」
「えっ!‥」
「やっぱりか」

嘘をつけない性格なのか、私のリアクションで毎回バレる。

「佐助くんには言わないでね!」
「うん、大丈夫」

私は急な質問に戸惑いながらも、赤面していた。

「佐助はいいやつだからな」
「そうだね」
「そして、あきらめないというか、しつこいというか」

私は思わず笑ってしまった。

「ほんとそうだよね。小学生の頃からだったよ」

私は思い返していた。
アサガオ育てるときの願い続けること。最後までのゴールまで走り切るところ。
怪我しても復帰して部活を引退まで続けること。

「できるようでなかなかできないことだよね」
「そうだね」

2人でいつの間にか、佐助くんのことを尊重し合っていた。

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