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『盛夏 【後編】』

「この世界を彩るもの」を【佐々木 青彩】の視点から描いていきます。
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。もしよければ、前作もご覧ください。

前作 「この世界を彩るもの」
「この世界を彩るもの〜青彩編〜」
1章−1 「青春」
1章−2 「青春」
2章−1 「盛夏」
2章−2 「盛夏」

2章−3

「卒業おめでとう!」

教室で別れを惜しみ抱き合いながら涙ぐむ仲良したち
清々しい気持ちで窓を眺める窓際の人
先生と記念撮影をする人
寂しさを感じながらも笑顔でいる人
やっと卒業かとワクワクしている人
強がってふざけ合う人たち
楽しい思い出を友人と振り返って懐かしむ人たち
1人ひとりが違った【感情】で咲いている。

悲しい、辛い、可笑しい、嬉しい、楽しい、不安、興奮。

感情に善も悪もない。あるのは、生きた証拠だけだ。

同じ空間にみんなの感情がオードブルのように並べられ、これから盛大なパーティーをするように賑わっていた。

でも、これで中学校生活の幕切れである。

人は死を目の前にすると脳は生きるために最後の知恵を働かせる。それが走馬灯となって現れるように、私も中学校生活の終わりを迎えて、これまでの3年間の記憶や思い出が頭の中を駆け巡っていた。


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1年前の春休み前

私は独りになった。

バスケットボール部に入り、一生懸命にすることが自分にとっての喜びにもなっていて、少しずつ自分を信じれるようになってきていた。友達との関係も良好に思っていた。

でも、ある日の放課後、忘れ物を取りに行こうと思い教室に入ろうとしたら、教室で同じクラスメイトの人たちが話をしていた。

「青彩って最近、なんかむさ苦しいぐらい一生懸命だよね」
「そうだね、体育とか先生にアピールしすぎでしょ」
「小学校の時と別人だよね」
「本当に調子に乗りすぎ」

その言葉をきいた私は、教室に入ることを辞めた。私はそのまま部活に参加したが、その日は何も頑張れなかった。

次の日、学校に行くのが少し怖くなった。周りの人から私はどう思われているんだろう。いろんな人たちが私の悪口を言っているんじゃないか。そんな意識がどこか胸の中に潜み、私の心を蝕もうとしていた。

教室に入って、自分の席に座り、何かボーッと眺めていると夏美が心配そうに顔を覗き込んできた。

「どした?青彩」
「なんでもない」
「そう、ならいいんだけど」

夏美にも本当のことは言えなかった。友人に迷惑をかけたくなかった。

いつも通り部活動が終わって帰宅しようと下駄箱を開けた。

そこには可愛らしいマカロンと手紙が一通入っていた。そこには大きな文字で「ありがとう」という言葉が書いてある。その字は形やバランスは整ってるとは到底思えないが一文字、一文字を大事にしていると感じた。

そして、隅っこに遠慮しながら小さな文字で「佐助より」と書いてる。
私は、涙が止まらなかった。なにより、すごく暖かかった。

そして、その涙を流す姿を夏美にバッチリ見られていた。

「青彩、やっぱりなんか私に隠してるでしょ?」
「大丈夫‥」

声が震えていた。

「青彩、頼っていいんだよ。私ね、今のままの青彩を見てるのは嫌だよ」

私は夏美に泣きついてしまった。

「一緒にゆっくり帰りながらでも話そ」
「うん‥」

教室での出来事を夏美に話した。

「そっか、そうだったんだ」
「それまで私、目立たない存在だったから、そんなこと言われたことなくて」
「へぇ、青彩は地味なタイプだったんだ」

小学校は違っていたから、分からなくて当然だった。

「いいんだよ。言いたい人には言わせておけば。私は好きだよ。一生懸命な青彩が」
「ありがとう」

夏美の存在と、佐助くんからの手紙でそのとき私の心は満たされていた。

それから春休みが終わり、中学3年生になった。
私はもう周りの人の目は気にしなくなっていた。

でもそれは、私がメンタルが強いからとか、忍耐強いからではない。

むしろ弱い私だからこそ、大切な友人と大切な言葉に気づくことができた。
私は、独りではなかった。

私も大切な人を支えたい。そんな蕾が芽生えてきていた。

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校庭の桜は、まだ蕾だが準備をしている。

花は花だけでは成り立たない。目には見えない土台を固める根っこがあって、支柱となる幹が枝を支え、枝が花を咲かす舞台をつくる。花は独りで咲くことなんか到底できない。

私も私だけの花を咲かせていただろうか。

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