『盛夏 【中編】』
「この世界を彩るもの」を【佐々木 青彩】の視点から描いていきます。
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。もしよければ、前作もご覧ください。
前作 「この世界を彩るもの」
1章−1 「青春」
1章−2 「青春」
2章−1 「盛夏」
2章−2
学校の校門に人影が見える。気にせずに近づいてみると佐助くんだった。私は思わず驚き、引き返そうと思ったが、それはそれで可笑しいと思い、そのまま何もなかったように通りすぎた。
佐助くんも一度こちらを見たような気がしたが、他人のようにすれ違った。
何もできなかった…
隣に佐助くんがいて、一緒に話しながら帰れたら、どんな景色が見えるだろう。妄想ばかりが膨らんだ。
月の明かりとポツン、ポツンと頼りなく光る街頭が薄っすらと雪道を照らし、悴んだ手を暖めようと白い息をかけてもなかなか暖まらない。帰り道の途中にある自販機で暖かい紅茶花伝を買って手を温めて、集合場所で待っていた。待っているの母親だ。買い出しの手伝いをして欲しいと連絡があった。
車で迎えに来た母が、そそくさと私を乗せて、スーパーへ買い物に行った。
様々なチョコレートがたくさん売り出している。お店の中にもバレンタインの文字が大きなポスターで貼り出されていた。もうバレンタインか。
恥ずかしながら、これまでバレンタインで親以外の人にあげたことがなかった。ポスターを見上げていると
「青彩、今年は誰かにあげるの?」
と母が質問してきた。
「えっ!?」
不意打ちをくらって、少し驚いたうえに、わかりやすいリアクション。
「へぇ、誰だれ?」
興味津々に母が聞いてくる。
「佐助くんってわかる?」
「うーん、ごめん、知らない…」
そこから、佐助くんについて少しだけ話をした。
「そうだったんだ、それはお礼しなきゃね」
母はなんだか嬉しそうだった。
そして、バレンタイン当日
学校はいつも通り登校日だ。母が協力してくれたおかげで見た目は、だいぶ整っている。あとは、味だが少し心配だが。学校に行くと他の女子も先生にバレないように隠しながらバレンタインのチョコを持ってきている。
「青彩、今日バレンタイン作ってきた?」
夏美が私の耳のそばでコソコソと言ってきた。
「うん…」
「えっ!本命?誰に渡すの?」
大袈裟なリアクションに私は慌てて教室を夏美と出た。
「実は佐助くんに渡すつもり」
「佐助くん?あぁ、2組のね」
なんとか知っていた。ぐらいの反応だった。
「確かサッカー部だっけ?」
「あっ、そうなんだ」
私も今更ながら、佐助くんがサッカー部だと知ることになった。
「実は私もサッカー部の海斗くんに渡す予定なんだよね」
クラスの人気者だ。
「夏美もやるなぁ、じゃあ一緒に渡しに行かない?」
「しょうがないなぁ、じゃあ、部活終わったら一緒に行こうか」
「うん!」
心強い仲間が加わって私は少しほっとしていた。
バスケの部活が終わり、サッカー部の人たちも同じぐらいに終わっていた。私は夏美と共に校門を出て、少し先に進んだコンビ二の手前で待っていることにした。
こんなにも人って緊張するんだぁ、と心臓がいつもより早く波打つのを感じている。今すぐにでも逃げ出せるなら、この場から逃げ去りたかった。
「来たよ!行くよ」
夏美が覚悟を決めて私の腕を引っ張りながら半ば強制的に連れていかれた。だけど、そこに佐助くんの姿はなかった。
「どした?2人して」
海斗くんが少し驚いた表情をしている。
「おつかれ。今ちょっと時間ある?」
「おう、いいけど」
「今日バレンタインでしょ。これ良かったら食べて」
行動を起こした夏美に私も行動しよう!と心動かされた。
「俺に?ありがとう」
海斗くんも少し照れくさそうに受け取る。意外な一面だった。
次は私の番だ。と覚悟を決めた。
「佐助くんは今日いる?」
「あぁ、佐助は今日、部活中にチームメイトとぶつかって、足首折れたかもしれないんだよ。だから、途中で病院に行ったよ」
「えっ!大丈夫なの?」
「佐助なら大丈夫!あいつはつえーからさ」
何を根拠に言ってるんだこの人は。と思いながらも
「佐助に渡しものだった?」
「うん」
「明日、病院に行こうと思ってたとこだから渡しておこうか?おそらく少しの間、入院かもしれないから」
「いや、、、うん、お願いしてもいいかな?」
「オッケー、任せて」
私は海斗くんにチョコを託した。海斗くんと夏美はそのまま一緒の方向で帰っていった。別方面の私は1人で帰る。また1人か。でも、少し景色が違った。
月は透き通った空気で鮮明に映え、街頭は道を示してくれている。手の冷たさは火照った頬を冷ますのに丁度よかった。
この短い時間に、今まで味わったことのない濃縮された想いが混ざり合っていた。
行動できた嬉しさと
大丈夫かな、という心配と
少しホッとした安心感と
直接渡せなかった後悔と
夏美と海斗くんへの感謝と勇気を出せた自分と。
これが初めての佐助くんに何かできた行動だった。直接じゃないけど、見えない何かで繋がったような今までに感じたことのない嬉しさが私の心に込み上げていた。
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