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『盛夏』

「この世界を彩るもの」を【佐々木 青彩】の視点から描いていきます。
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。もしよければ、前作もご覧ください。

前作 「この世界を彩るもの」
1章−1 「青春」
1章−2 「青春」

2章

春は桜が咲き乱れ、夏は蝉が大音量で鳴き出し、秋は田んぼの稲穂が実り、冬は町全体が雪化粧をする。

私の周りの時間は常に動き続ける。

私は中学生となっていた。そして、私の世界も動き始めていた。


ダム、ダム、ダム

体育館で何かが弾む音が聞こえる。私は外から体育館を覗いて見た。

スパッ!

とボールが華麗に空中に舞い上がり、ゴールのど真ん中を射抜く。私は時が止まったように見惚れてしまっていた。

チャイムが鳴り

「では、席に着いて」

先生から私たちは、促されながら自分の席に着く。

「今日は部活動について、少し話したいと思う。うちの学校は、必ずどこかの部活に所属してもらいます。今日からそれぞれの部活動で仮入部の期間になるから、よく選んで決めて欲しい。」

いつもの私であれば、悩んで困ってしまっていたが、珍しく私は既に決めていた。

放課後になると、みんなはそれぞれどこの部活に行くか相談しながら決めている。私は、迷うことなく体育館に向かった。

そしたら、後ろから声をかけられた。

「もしかして、バスケ部に入る?」

同じクラスの夏美ちゃんだった。

「うん、そのつもり」
「あー、よかった!同じクラスの子がいてホッとしたよ。よろしくね」
「こっちこそ、よろしく」

夏美ちゃんとは違う学校だったから、あまりよく知らなかったけど中学で初めての友人になりそうだった。


そういえば、佐助くんはどこの部活に入ったんだろう?違うクラスで少し残念だなと思いにふけっていた。

「集合!」

大きな声が体育館に響いて部員の人たちが集まってくる。

「今日は新入生たちが仮入部で来てくれているから、まず自己紹介してもらいます」

朝、見惚れてしまった先輩だった。

「じゃあ、こっちから」

私が並んでいる逆から順番に自己紹介を始めた。よりによって最後になってしまいその時点でもう私の頭は真っ白だった。

隣の夏美ちゃんの番が終わり、私の番が来た。

「さっ、さ、佐々木青彩です。バスケは初めてです」

もう何が何だか分からなくなる。言葉が出ない。すると、先輩が

「大丈夫。ゆっくりでいいよ」

些細な一言であった。でも、私にとっては大きな支えになった。

「朝練習している先輩に見惚れてしまい入ろうと思いました!よろしくお願いします」

拍手が起こった。歓迎されているようで素直に嬉しかった。

「じゃあ、練習を始めるからハドルを組んで!」

円になってみんなの手を中心に置いている。みんなに着いて行き、見様見真似でやってみる。

「ワンツースリー」

「チーム!!!」

と大画面でアクション映画を観るような迫力で少しワクワクしながら練習が始まった。

練習は緊張感があって、ついていくので精一杯だった。走ったり、跳んだり普段やらないステップワークをしてこれでもか!と全力で動いた。でも、なぜかやっている最中は夢中だった。辛いけど、それを楽しんでいるような感じもあった。

佐助くんもこんな感じで走ってたのかな?

なんて途中に思ったりしてたら、自分でドリブルしたボールが床に跳ね返り、顔面に直撃していた。

練習が終わると、その緊張感は和らぎ、先輩後輩関係なく

「今日の練習もキツかったねぇ」
「もう少しで足がつるところだったよ」
「マジあの先輩は鬼!」

なんて笑いながら話をする。このなんでもない時間が私には心地よく感じた。

私にとって嫌いだった運動は、今では大好きになっていて、喘息なんか忘れてしまうぐらい健康的で、初めからやれないと決めつけて何もしなかった私が嘘のように自分に自信を持っている。

まるで、大きな葉を広げておもいっきり太陽を浴びて咲いているアサガオのように。

生きてる。

そんな当たり前のことを私の身体が感じとっていた。

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