15冊目『クドリャフカの順番』/米澤穂信
トラブル無しでは終われない。順調に進むこともあれば、不測の事態にてんやわんやすることもある。小さな出来事も大きな出来事も、良くも悪くも青春の一ページとして記憶に残るだろう。それが文化祭だ。
『氷菓』『愚者のエンドロール』を経て、本書『クドリャフカの順番』で遂に迎えた神山高校文化祭──通称『カンヤ祭』も、大小様々なトラブルに見舞われている。
我らが古典部は、発注ミスにより文字通り「山のような文集」を抱える事態となる。ある程度売らねば部費が無駄になってしまう。何より折角作った文集が、誰にも読まれずゴミと化す。そんな哀しすぎる結果は回避したい! と、える達はあの手この手で宣伝したり販売してみたりする。が、売り上げは決して「好調」とは言い難かった。
一方、校内では連続窃盗事件が発生。犯行後に残される書名入りのカードから『十文字』事件と名付けられたその事件に、えると里志と摩耶花は、参加したイベントで偶然にも被害に遭ってしまう。
自分たちが必死に文集を売ろうと躍起になっている裏で、そんな重大かつ凶悪な事件が発生していたとは! 驚き、古典部に被害が及んでないことに安堵しつつも、
「この『十文字』事件を上手く利用すれば、古典部の知名度が爆上げされて、文集もガンガン売れるのでは?」
と読んだ奉太郎達。「山のような文集」を売り捌く為、窃盗事件を解決する為、『十文字』との対決に挑む!!
──と、いうのが粗筋。
前二作は主人公・折木奉太郎の視点で描かれていました。しかし、今回は初めて、古典部四名(奉太郎・える・里志・摩耶花)の視点で物語が進んでいる。
この“四つの視点”が“トラブル無しには終われない文化祭”を、上手く演出しています。大量の文集問題に『十文字』事件。更には、店番と称して部室である地学講義室に残った奉太郎を襲う『わらしべプロトコル』、摩耶花が兼部している漫画研究部での問題──と、トラブルは実に多種多様。
けれど、バラバラに思えていた問題が、終盤に近付くにつれて一本に纏まっていく展開は、読んでいてゾクゾクしました。シンプルに愉しい。ページを捲れば捲るほど引き込まれていく。
文化祭三部作とも言えるだろう『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』の中で、本書が最も青春学園ミステリーっぽいです。後味も一番軽やか。愉快で華々しい数日間だけの非日常が終わってしまう独特の切なさに、十代特有の不器用さと複雑な心境(嫉妬や絶望、諦念と期待)が、好いスパイスとなって練り込まれている。
それなりに文化祭を謳歌した経験を持つ人であれば「ああ、文化祭ってこんなんだったよねえ」と懐旧の念が、きっと心に沸々と湧いてくるのではなかろうか。
加えて、これまで描かれていなかった奉太郎以外のキャラクターの心情や、個々の活動もまた見所ならぬ読み所の一つ。それぞれの個性に改めて魅せられる。
個人的にはデータベースを自称する里志の心情と、漫研問題に巻き込まれる摩耶花の心境が、結構好きです。読んでいて胸を打たれました。
前二作にも登場した壁新聞部部長や“女帝”入須先輩たちもちゃっかり登場して、しっかり絡んでるの、ポイント高い。『シリーズもの』『×部作』は、過去キャラが出てくる瞬間が一番好きだったりする。あ〜忘れられてなくて良かった〜! ってなる。
勿論、<古典部>シリーズは未だ続く。過去キャラもちょこちょこ出てくるし、奉太郎たちも成長する。
ここまで書きながら、文化祭三部作って実はプロローグに過ぎないのでは? と思いました。やーっと古典部員のステータス的なものが見えてきたな、みたいな。
なので《取り敢えず》文化祭篇、これにて終演です。お疲れさまでした。
(了)