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13冊目『氷菓』/米澤穂信

 過去の記事でも書いたかもしれない。或いは記事をいくつか読んで下さった人は察しているかもしれないが、私は“原作小説を読みたがる人間”である。

 というのも、映像を観ても理解しきれない部分が多すぎるのだ。
 いや、この表現の仕方は誤解を招きかねない。訂正し、正確に表記します。
 たとえば表現が過剰であるとか、美を意識しすぎた演出が施されている映像作品を観ていると、脳内の『情報を読みとる機能』が「何を言いたいのかさっぱり分からん」となって仕事を放棄。どんなに集中して観ても内容が理解しきれず終わってしまうのだ。この現象は特に、アニメ作品で発生する。

 なので『氷菓』がテレビアニメ化された時、一話目で挫折した。

 作画は美しいし植物みたいなのがキラキラふわふわ広がっていく演出も綺麗だし中村悠一さんのお声も完璧なのに、ストーリーが頭に入ってこない。……最近、全く同じ文章書いたな? と思って振り返ったら『小説 言の葉の庭』で書いていた。どんだけ頭にストーリーが入ってこないんだ私。
 しかも「新海誠作品は映像めっちゃ綺麗」のような前情報を、アニメ『氷菓』の時には得ていなかった。アニメに関する組織は【スタジオジブリ】しか存じ上げてなかった愚か者は【京都アニメーション】がどんな作風で魅せてくるのか知らず。一話視聴後の感想は

「何で植物がキラキラふわふわ広がったんだ……? わけ分からん……」

 という、ファンの御手でブン殴られても文句の言えないものだったのである。


 そんなこんなで手にした本書──『氷菓』

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 実のところ著者を初めて知り、初めて読んだ記念すべき一冊だったりする。

 ストーリーの内容は極めて単純明快だ。
 まず本書は、学園青春ミステリー小説である。といっても学園内で誰かが殺されたりはしない。名探偵の孫や、現代のシャーロック・ホームズが生徒として通っていることもない。人によっては「えっ、それ気になります?」と首を傾げる程度の謎を取り扱っている。
 そして、探偵役とも言えるだろう主人公・折木奉太郎くん(神山高校一年生)はヤル気がない。一応『古典部』なる部活に所属しているが、別に好きで所属している訳ではなく、姉に申し付けられたから入っているだけである。そんな彼のモットーは「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」
 省エネ主義を掲げ、謎を解くどころか謎に近寄る気配もない奉太郎を動かすのが、同じく神山高校一年生でありヒロイン・千反田えるの一言。

「わたし、気になります!」

 もしかしたら本書を読んでおらず、アニメ『氷菓』を観ていなくても、このフレーズだけは知ってるって人も居るのでは。そういえばこの記事を書きながら思い出しましたが、実写映画化もされましたね。私は観ていませんけども。
 この千反田える、誠によきヒロインです。お嬢様であり、好奇心の権化。アニメのキャラクターデザインを見て分かる通り、可愛い。淑やかで天然な部分も持ち合わせた彼女の「わたし、気になります!」だけが、奉太郎のヤル気スイッチに触れられるのだ(スイッチが入るとは言っていない)。

 そう。本書は青春ミステリー小説でありながら、恋愛小説要素も含まれているのです!
 余談だが、私は「青春」「恋愛」と付くものが苦手である。特に後者。

 じゃあ本書はお嫌いか? と問われると、そうでもない。
 総ての学生にとって必ずしも青春が薔薇色ではないように、本書も青春を謳う割には、爽やかさや甘酸っぱさが無い。寧ろ、結構後味が悪い。探偵は難事件をズバッと華麗に解決してくれないし、解決しても大団円とは言い難い。本書のタイトルにして、古典部が文化祭で出していた文集のタイトル『氷菓』の所以が明かされる回でも、読み終えた後は「うわあ……(引き気味)」となる。無論、植物みたいなのがキラキラふわふわ広がっていく表現も皆無。
 公式の紹介文に『ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ』とあるが、この文言に偽りありません。
 それどころか、ややネガティブ。
 奉太郎と同じ中学出身である福部里志や伊原摩耶花によると、奉太郎の中学時代に何事かあったみたいだし。省エネ主義を掲げるキッカケも、どうやら闇がありそうだし……。
 そういう「みんな過去に何かしらあって、ドロッとしたもん抱えてるよね!」みたいな雰囲気が、とーっても好きです。
 アニメは挫折したけども、小説は読んで良かった。やっぱり原作小説最高。情報めっちゃ入ってくる。

 ちなみに本書は<古典部>シリーズとして第二段、三段と続いていくわけだが、奉太郎、える、里志、摩耶花の成長を見守る過程で、各々の過去が少しずつ明らかになってゆく。後半になれば成る程に面白くなるので、一歩足を踏み入れたら突き進んで欲しいのがファン心。
 そうでなくても個人的にはライトノベル以上、小難しい推理小説以下。正に「ライト文芸」と呼ぶに相応しい。ラノベや児童書を卒業した人達向けの本だと思っている。

(了)


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