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『黒猫の曲がり角』

その街で
曲がり角を曲がりかけた
黒猫の後ろ足と尻尾だけを
何度も見かけた

だが一向に
面と向かってその姿を
拝める気配はなかった

すぐに追いかけ
曲がり角を曲がってみても
毎度もぬけの殻

ある日
ひどく爛れた赤い夕陽が
西の空にもたれるようにしがみつき
その血で
最後の仕上げとばかりに
曲がり角を真っ赤に染め上げていたとき

ふいに
あるいはついに
あの黒猫と
出会い頭に鉢合わせした

猫は身じろぎもせず
ずっとこちらを待っていたかのように
落ち着きを払っていた

そうしてただ
こちらの瞳をじっと見て
一声だけ
低い声で鳴いた

翌朝
布団の中で
すっかり冷たくなった
私が発見された






水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。