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ショートショート集

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ショートショートをまとめました( ´ ▽ ` )ノ
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2021年6月の記事一覧

ショートショート『時そばのように』

ショートショート『時そばのように』

「先輩、そろそろお金返して貰えませんかね……?」

後輩は恐る恐る先輩に聞く。

どうしてもお金がないから、このままだと俺はもうダメだと言われ数年前に貸したお金は30万円程。

「わかったよ。返すよ。で、俺が金借りたのは何年前だったっけ?」

後輩はチラリとカレンダーを見る。

今は2020年11月か……。

「一応金銭貸借契約の内容覚えてますか?」

「わかってるよ。年利10%だろ」

「そうで

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ショートコメディ『サークル勧誘』

ショートコメディ『サークル勧誘』

「あの、すいません。うちのサークルに入りませんか?」
大学内をうろうろしていると、声をかけられる。
「楽なサークルなんですか?」
どのサークルに入ろうか悩んでいたところではあるので、勧誘してもらえればありがたいと言えばありがたい。ただ、週7日毎日活動をしていたり、上下関係や規律の厳しい、意識の高いサークルに勧誘されても困る。せっかくの大学生活なのだから、ゆるっと活動しているサークルに入りたかった。

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ショートストーリー『美味しいキャンプ飯』

ショートストーリー『美味しいキャンプ飯』

「ねえ、これってキャンプ飯って言っていいの?」

私は彼氏の慎司と共にキャンプに来ていた。慎司が、美味しいキャンプ飯を作るから楽しみにしとけよと言ってたから結構期待していたのだけど……。

「キャンプ場で食べたらなんでもキャンプ飯だろ」

慎司はそう言ってズルズルと豪快に、汁を飛ばしながら、スーパーで売っているカップ麺を頬張っている。

慎司が作ってくれたキャンプ飯というのは、なんの変哲も無いカッ

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ショートコメディ『昼下がりの不審者』

ショートコメディ『昼下がりの不審者』

「せっかく有給取ったのに全然使い道思いつかねえな……」

公園のベンチに座り苦笑する。

年間の有給休暇が規定の数行かないからと無理矢理有給を取らされたものの、休み慣れていない俺はまったく使い道を思いつかなかった。平日の真昼間に公園のベンチで珈琲を持って佇むことが俺の思いつく最大の有給休暇の有効活用だ。

最近は些細なことで不審者扱いされるがさすがにこれだけで不審者扱いされることはないよな……?

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ショートショート『ダイニングメッセージ』

ショートショート『ダイニングメッセージ』

家に帰るとダイニングの机の上に妻からのメモが残されていた。

『たらこスパゲッティと
 ステーキが冷蔵庫にあるので温めてください。
 ケチャップは切らせてますが、あなたの好きな
 にんにくチップがあります。
 きたくするのが遅くなると思うので、
 てきとうに食べておいてください』

なんとも読みにくいメモを読んだ後、冷蔵庫を開けたが、ケチャップどころか何も入っていなかった。

「よくわからないメモ

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ショートショート『届かぬ注意』

ショートショート『届かぬ注意』

とある高校で全校集会があった。

もうすぐ夏休みを迎えるというその高校の体育館には全校生徒が集まっていた。先生方が順番に体育館の壇上に立って夏休み前にいろいろな話をしていくのだが、浮かれている生徒たちは当然そんな言葉に聞く耳なんて持たない。

どの先生が話してもお構いなしにざわざわと私語が続いていた。それは生徒指導の先生が壇上に上がっても変わらず、依然として好き勝手話続けていた。

そんな中、私は

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ショートショート『役職名』

ショートショート『役職名』

昼休みに社内でとある部署の先輩社員の大先と後輩社員の後谷が談笑していた。

「俺ももうこの会社で7年も働いてるしそろそろ昇進したいんだよな」
「そうですよね。こんなに会社に貢献してる先輩がまだ平社員だなんておかしいですよ」
後谷のその言葉は嘘でもなんでもない。本心から大先が全然昇進できないことを不思議に思っていた。

「名刺交換のときに役職のついた名刺を交換するのが夢なんだよ」
「役職付きの名刺っ

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ショートショート『手品師の転機』

ショートショート『手品師の転機』

とある手品師の男が銀行に来ていた。

彼は腕はいいのだが商売に不向きなのか、お金が一向に貯まらない。いよいよ貯金が尽き、これからどうやって生活をしていこうか悩んでいるところだった。

そんなとき突然銀行内に大きな声が響く。

「おい、強盗だ。金を出せ」

強盗は偶然近くにいた手品師の彼を捕まえた。

「いいかお前ら、騒いだらこいつの命はないと思え」

まさか自分が人質に選ばれるなんて思っていなかっ

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ショートコメディ『雪まつりの影響?』

ショートコメディ『雪まつりの影響?』

家に帰ると北海道にいる遠距離恋愛中の彼女から余寒見舞いのハガキとともに小包が送られてきていた。

「余寒見舞いか、随分風流だな」
余寒見舞いをもらったことは人生で初めてだった。雪まつりの大きな雪像の写真と共に余寒見舞いの文面が書いてある。

『余寒見舞い申し上げます。
 まだまだ寒い日が続くけど元気にしてる?
 もうすぐバレンタインだからチョコレート送るね(*´▽`*)
 それでは体調に気を付けて

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ショートショート『スランプ克服』

ショートショート『スランプ克服』

「今日の先発の北本投手について一言お願いします」

インタビュアーが敗戦チームの監督である山崎に質問を投げかけていた。プロ野球チームの監督というのはどんな試合展開でもインタビューを受けなければならないから大変である。とくに今日みたいに先発投手が1回を持たず8失点KOなんてされてしまった日には。

もちろん何も答えずに報道陣に背を向けるということもできるが、報道陣も何か記事にするためのコメントが必要

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ショートショート『母の日の花』

ショートショート『母の日の花』

「姉ちゃんは母の日に何かあげるの?」
「ちゃんとカーネーション用意してるよ」
そう言ってカーネーションの花束を弟に見せてあげる。

「姉ちゃん毎年黄色のカーネーション渡してるけど母の日のカーネーションって普通赤色じゃねぇの?」

私は毎年黄色のカーネーションを用意する。

「こっちの方がオシャレじゃないかなと思って」
「そんなもんかな」
「あんたにもついでに1本あげる」

そう言って花束から1本黄

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ショートコメディ『どういう話の流れ?』

ショートコメディ『どういう話の流れ?』

「あのねえ、俺の言いたいことわかる? わかってないよね? 今から言いたいことわかってないよね?」
「え、ええ……」

僕は困惑する。目の前で語気を荒げて怒るおじさんの扱いに困っていた。

例えばこのおじさんが僕の親戚であったり、恩師であったり、上司であったりするのならば状況はなんとなく推察できるであろう。

また、例えば僕がお店の店員でこのおじさんがお客さんとかなら、なんらかのクレームを入れに来た

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ショートショート『そういう仕事』

ショートショート『そういう仕事』

「うわ、雨か……」

突然降ってきた雨に青年は空を見上げる。悲しいことに彼は傘を持ってきていない。

どうしたものかと悩んでいると初老くらいの男性が「傘持っていないのかね?」と尋ねてくる。

初老の男性は身なりはあまり良くないのになぜか気品を感じる見た目をしていた。まるで意図的に汚れた衣服を着ているかのようにも青年は感じた。

しかし青年はその違和感よりもなぜか彼が背中にカゴを背負ってその中に傘を

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ショートショート『ここはどこ?  私は誰?』

ショートショート『ここはどこ? 私は誰?』

気付けば、なぜか僕は突然どこかの倉庫のようなところに連れていかれ、縛られ、口をガムテープで封じられている。

ここはどこだ?

「どうですか、今の気持ちは?」

目の前の女の子が不敵に笑っている。

お前は誰だ、と聞きたいのだが口を封じられているせいでまったく話せない。

「私が誰か知りたいですか?」

頷く。

懸命に頷く。

「私に覚えがないですか?」

グッと顔を近づけ、こちらの顔を覗き込む

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