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【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.11】ジョン・エヴァレット・ミレイ「マリアナ」

今日の1枚はジョン・エヴァレット・ミレイの「マリアナ」
ロンドンのテート・ブリテンにあります。


ミレイは19世紀ラファエル前派を代表する画家です。

わたしがいちばん好きな画家ですね~にたにた。



ミレイのことはまたいつか紹介するとして(推しの話し始めると終わらないから)、今日はラファエル前派についておはなしします!


カバネルの時にも説明しましたが、当時のヨーロッパでは「アカデミー」が絵画界の権威でした。ラファエロ先生を規範とする古典的で保守的な絵画が最高峰!理想美!とされていた美術教育に対して、ラファエロ予定調和過ぎてつまらへん!わざと感もすごいし人工的やし、なんかもう時代遅れやでこれ!新しい芸術やっていかへん?!アカデミー壊そ!とイギリスの若者たち(ミレイ、ハント、ロセッティなど)が結成したチームがラファエル前派のはじまりです。



彼らの言う新しい芸術とはラファエロより前の初期ルネサンスや15世紀のフランドル美術、中世の時代の単純な絵画のいいところをもっと取り入れていこうという感じで、宗教画を描くにしても伝統的な図像やアトリビュートなんて無視してOK!遠近法も正解に描く必要なくない?!もっと明るくて鮮やかな色彩使ってこ!自然はきちんと観察してありのままに描いてこ!あと、僕らが最高に美しいと思ってる詩とか文学をモチーフにするのいいんちゃう?(ダンテ、シェイクスピア、中世のロマンティック文学など)


ってな感じのことを言ってはいますが、実際にはラファエロ以降の絵画にもめちゃくちゃ影響されてるし、メンバー内でも人によって意見が違ったりで、決まった理念みたいなのは実はありません!


なので各々が自分のやり方を見つけて別方向に向かっていくので、ラファエル前派はあっという間に自然消滅してしまいます。

とまぁなんだかぶれぶれなわけですが(笑)、わたしはこのインテリ集団が芸術界を変えるのはぼくらや~!ぶっ壊していくぞ~!みたいな初動がどうも好きみたいで(笑)、しかも美的な信条を共にする集団として秘密結社のごとく活動し始めた様子などが(最初はみんな素性を隠していた)、中二っぽくて愛しくて大好きです(笑)




と、長くなりましたが、絵の解説をしていきましょう。

シェイクスピアの戯曲「尺には尺を」に出てくるマリアナというキャラクターをもとにヴィクトリア朝最大の詩人テニスンが書いた詩をモチーフしています。


こちらがその詩の一節。


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乙女は言った、「わたしはとても侘しいわ。

あの人はもう来ないでしょうから」と言った。

乙女は泣いた、「わたしは寂しい、寂しい。

ああ、神様、いっそ死んでしまいたい!」


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婚約者アンジェロに捨てられてしまったマリアナ。彼女はまだ婚約者への想いを断ち切ることができず、いつかまた彼が会いに来てくれるんじゃないかと孤独に耐えながら、塀で囲まれた館にこもり、今日も来るはずのない婚約者を待ち続けています。


詩を全文読むと、毎日孤独のせいでヒステリックになってるマリアナの様子が見てとれるのですが、部屋から見える自然、時間、部屋の中、夢の中の描写がマリアナの心境と重なっていてとても美しい詩です。


この絵はマリアナが刺繍の作業の途中で、腰に手をあてて背筋をのばしている様子が描かれています。
テーブルにおかれている刺繍の布が巻かれている量を見るに、随分長い間この館にいることがわかりますね。



また、床やテーブルに散らばっている枯れ葉がマリアナの孤独を際立たせています。

右端に小さなネズミも描かれているのわかりますか?う、うまい…。詩の中ではホコリのたまった部屋で壊れそうな床板の裂け目からネズミが顔をのぞかせていると書かれています。



そして一際目立つ正面のステンドグラスの窓。左に天使、右に聖母という図像はおそらく受胎告知でしょうか。マリアナの元に懐妊を告げる天使が訪れる日は来ないでしょう…。彼女の欲求不満な気持ち、つまり乙女として満たされたい思いからくる葛藤と憧れを表していると言われています。

一番右側のステンドグラスの紋章図にはマツユキソウが描かれています。この白い花の花言葉は「慰め」です。そしてその上に書かれた言葉。「天国に休息が」



マリアナの仕草や表情だけ見ると、穏やかな生活の1シーンのように見えますが、胸の内では深い傷が彼女を苦しめている絵なのです。

私はこの絵をテートブリテンなどで何回か見ているのですが、毎回胸が張り裂けそうになるのと同時に、その色彩の鮮やかさ、特にマリアナのブルーのドレスの美しさに衝撃を受けます。こんなに美しい色がこの世にあるのか…と。本当に信じられないほど美しいです。うっとりの極み。

それからミレイの緻密な細密描写の技術たるや。右端の暗闇に描かれた祭壇画までしっかり描かれています。

もう大好き。



さて、というわけで今までギリシャ神話をモチーフにした絵はストーリーでいくつか紹介してきましたが、シェイクスピアの戯曲モチーフの絵もめちゃくちゃおもしろいですね!ちなみに書いてるうちに、孤独と退屈…まさに今では…!って感じもしてきましたが、みんなが退屈死しないようにアート投稿をバシバシお届けしていくので安心してください♡(誰)


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