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「桃山ー天下人の100年」

「桃山ー天下人の100年」
東京国立博物館



噂には聞いていたけど、パワー攻め展示だった。重文(重要文化財)→重文→重文→国宝→重文→重文…みたいな感じで、国の至宝がバチバチに並んでる。凄い、凄すぎた。膨大な良い作品群を見ていく中で間違いなく今日だけで私の目はめちゃくちゃ肥えたと思う。眼福とか、うっとり〜とかそういう甘ったるい芸術鑑賞レベルじゃなくて、まじパワーでボコボコに脳みそ殴られる感じ。「あたし桃山美術やけど何か!!??信長!秀吉!利休!土佐派!狩野派!琳派!ドーーン!!!」みたいなすごい洗礼を受けてきた。


しかもご丁寧に室町末期〜安土桃山にかけてと安土桃山〜江戸初期にかけても網羅されてて、結局室町〜江戸時代までの名品をバチボコに見せられて一大スペクタクルな歴史的背景を一気に駆け巡った感じがして、めちゃくちゃ疲れた。3時間半かかった。
これが前期というのがまた怖い。このあと後期という名の作品入れ替えが待っている。わたしはきっと後期を見終わったら現存する桃山の名品のほぼほぼを見終えたことになるのではないだろうか…(そんなことはない)。



というわけで、屏風絵、襖絵、甲冑、茶道具、刀、着物、書などバラエティ豊かな作品群のおかげで、当時の情景やドラマがありありと目に浮かぶ、そんな素晴らしい展示でした!私のお目あては「洛中洛外図屏風(上杉本)」でしたが、それ以外にも本当に素晴らしい出逢いがたくさんありました。



まず入ってすぐにバーン!と伊達政宗が秀吉からもらった兜と甲冑「銀伊予札白糸威胴丸具足」が展示されてるのですが、ほんまにかっこよすぎて唖然。え、ほんまにこんなん付けてたん?

今回の展示ですごい良かったのが意外と兜・甲冑だったかもしれないです。
放射線上に29枚の薄板がついてる秀吉の兜「一の谷馬蘭兜」や信長のビヨーンって1本だけ長い銀の板が付いた「白糸威一の谷型兜」なども見られるのですが、今まで結構いろんな兜や甲冑を見てきましたが全く興味なくてスルーしてたはずが、目に飛び込んでくるほどゴリゴリにかっこいいのが揃ってる。
ドヤ大好きの遠藤はドヤデザインのものを見るとむちゃくちゃ興奮するのですが、これはトップクラスのドヤでした。さすが戦国の世。戦いと文化が密接に繋がってておもしろい。そしてとても状態が良く残っていることにも感動しました。だって500年前ぐらいにほんまに身につけてたんやで…。

なんか総じてかっこよすぎて思わずひゅ〜!って口笛吹きそうでした(やめろ)


そしてお目当ての国宝「洛中洛外図屏風(上杉本)」ですが、想定外に入ってすぐの場所にあって、心の準備してなさすぎたので、その神々しく輝く金の光をダイレクトに浴びて召されそうになりましたが、冗談はさておき、本当に本当に本当に美しかったです。

ですが最初まだ桃山に頭と目が慣れていなかったのでちゃんと見れなかったなぁと思い、全ての展示を見終わった後にまた舞い戻ってこの作品をゆっくり30分かけて鑑賞しました。閉館時間近くは誰もお客さんがいないので一人占め。なんて贅沢…。

「洛中洛外図屏風」は京都の街並みを俯瞰で描いた屏風絵なのですが、色んな人がこのテーマで描いてるのでいろいろ残っています。

ですがこの上杉本は狩野永徳が描いたもので、信長が友好の印として上杉謙信に贈ったものなんです…!政治が絡みまくっているのですが、その背景を鑑みると「絵の力」ってやっぱり絶大だなと鳥肌が立ちます。

そして他と比べると圧倒的世界観&画力。金雲にアウトラインが無いからか夢のように幻想的でその虚ろさがとても上品。雲間から京都の街並みや生活が垣間見えるのですが、”見えない部分を想像させる”ということを促すような粋な魅せ方であったり、思った以上に金雲が大部分を占めているのですが、“空間を仕切る”という日本独特の美意識を大胆な構図で表現してて「本当に凄い…」と唸ってしまいました。しかも永徳、なんとこれを23歳の時に描いている。ぎゃー。

ところで私は京都の四条に実家があります。まさに祇園祭の地域ど真ん中なので、上京するまでは毎年山鉾巡行を見るのが普通のことで、ダイナミックさや華麗な装飾、そしてもちろんあのドヤ感が大好きでした。同級生とか知ってる人も山鉾に乗ってたので、祇園祭はとても身近な存在でしたが、今から思うとなんとありがたい環境…。

永徳の洛中洛外図屏風には右隻が下京、左隻が上京の様子が描かれているので、右隻に祇園祭の山鉾巡行の様子も描かれています。この屏風絵、近くで見ると人がたくさん細かく描き込まれているのですが、鉾や山をかつぐ人や長刀鉾に乗るお稚児さん、周りに見物している京都の人々も細かく描写されてて、500年前にも私と同じ気持ちで山鉾巡行を見てた人がいたということと、同じ姿で今も残っている文化の尊さに胸がいっぱいになりました。

この洛中洛外図屏風、たくさん人が描き込まれていると先ほど書きましたが、すっごい細かいのに棒人形とかじゃなくて、1人1人に命があるんです。畑仕事をしている人、遊んでいる子供、お寺を参拝している人、紅葉狩りをしている人、御所にお勤めの人など当時の生活が垣間見えるような等身大の人々がそこには丁寧に描かれてて、安土桃山時代の暮らしが感じられてとてもおもしろかったです。
永徳、めちゃくちゃいろんな人観察してたんやろうなぁ。狩野派は総じて観察眼が鍛えられてるし、細かいところまでぬかりなくて、絵師としてのプライドが感じられてかっこいい。

というわけで京都って不思議な場所だなぁと感じることが度々あるのですが、この「洛中洛外図屏風」は地図のような絵でありながら、全くのフィクションで、そんな不思議なオーラを放つ京都の感じまで表現できちゃう永徳、本当に凄すぎるなと思いました。

一生に一度は絶対に見たい作品だったので本当に嬉しい。



あとめっちゃ良かったのが本阿弥光悦が書を書いて、俵屋宗達が鶴の絵を挿絵的な感じで描いた「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」。
この2人のコラボ作品とかまじで胸熱でしかない!!!!!!!!琳派を代表する2人の腕の見せ所才能ぶつけ合い作品。しかも超絶良かった…。宗達の描くたくさんの鶴がぶわぁあぁあああ!!!と群で飛びたっていくのですが、光悦の書とのリズミカルなバランスよ…相手を尊重しつつ、各々の魅力が爆発してて、神々の遊び作品でした。たまらん。



あと今回うわぁ…って思ったのがポルトガルから渡来してきたカピタン・モールの一行などを描いた「南蛮人渡来図屏風」や「唐船・南蛮船図屏風」。船のマストを操作しているのも、白人に傘をさしているのも、荷物を持っているのも全員黒人奴隷。これが現実だったんだなということをこの目で見て、歴史を知ることの大切さを改めて感じました。

とはいえポルトガルの文化自体には罪はなくて、日本に伝来してきてお互いの文化がMIXした「花鳥蒔絵螺鈿聖龕」に泣きそうなぐらいの美しさを感じました。宗教画と螺鈿細工の組み合わせの妙さはあれど、芸術を愛する気持ちは人種を違えても同じものがあるというところにめちゃくちゃロマンを感じる。

日本の美が西洋に渡って生まれたジャポニスムも好きですが、西洋の美が日本に入ってきて生まれた桃山文化の美しさもめちゃくちゃ好きだなと今回気づきました。



あと京都国立博物館所蔵の出雲の阿国か北野社の能舞台で歌舞伎踊りをしている様子を描いた重要文化財「阿国歌舞伎図屏風」もあって、見た途端気持ちが秒でタイムスリップしてしまい、これが歌舞伎の原点…と想いを馳せるとかなり胸が熱くなりました。この屏風絵、音が聞こえてくるようで空気が優しくて、今文化が生まれる瞬間みたいな微かなキラメキも感じられて素晴らしかったです。



というわけで、1作品ずつの魅力が凄すぎて感想文が一生終わらなさそうなので、このへんでまとめます。




今回室町〜江戸にかけての作品を展示してくださいましたが、江戸時代になると華やかさは落ち着くという変遷を知ることができます。やっぱり世の中が戦乱で荒れてくると気持ちを奮い立たせていないとやってられないからか、芸術作品にもそれが色濃く反映されてるようです。
美術史を勉強していると時代の風潮と芸術の在り方って等しく呼応しているということを強く感じますが、安土桃山時代は豪華絢爛な芸術作品が多くて文化が一気に花開いた感じがありましたが、異常な精神状態だったからこそ生まれた文化なのかもしれないなと今回の展示を見て感じました。
芸術作品や美はいつの時代もなくてはならないものでありながら、ギリギリのところでその美しさは生まれ、本来の力を発揮するのかもしれません。「生まれるには理由がある。」を心に留めて今後も美に触れていこうと思いました。

後期も楽しみ!!!





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