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あなたとコーヒーゼリーを
「今日の晩ご飯どうする?」
もう疲れたし、お家に帰ってお米が炊けるのを待ってられないくらい、お腹が空いている。
良さそうなお店が無いか食べログで調べたら、向こうの駅の近くにお手頃な定食屋さんがあるのを見つけた。
もう4年もこの周辺に住んでいるのに、まだ知らないお店があるんだなあなんて、少し驚きながらも、古びた昔ながらで年季の入ったドアを開ける。
カウンターに横並びで腰掛けて、注文したのは一番のオススメメニューの生姜焼き定食。彼は醤油味で、わたしはおろしポン酢。
手作りとオートメーション化のちょうど中間のような厨房で作られた680円の生姜焼き定食を、2人で無言で食べ進める。空腹時の食事に、会話を挟む必要が無いことは、お互い暗黙のルールみたいになっている。
いつも彼が先に食べ終わって、わたしが完食するのを待っていてくれる。食べきれない時は彼に少し食べてもらうのだけど、ここの生姜焼き定食はぺろっと平らげることができた。
コップの水を飲み干して、ごちそうさまと手を合わせると、同じタイミングで彼も横で手を合わせてくれる。
「おなかいっぱいになったなぁ」
そこでようやく会話が生まれる。
「ごちそうさまです」
店員さんにそれぞれ声をかけて、古びたドアを開けて外に出る。
薄手のコートじゃ寒く感じる夜に、すぐそこまで冬が迫っているのを感じた。
「デザート食べたい」
夜の道を2人で手をつなぎながら歩いているとき、彼がふとそう口にした。
目の前のコンビニよりも、角のスーパーの方がきっと安いから、帰り道とは1本違う道のスーパーへ寄り道。
彼が迷わず手にしたのは、3個で98円のコーヒーゼリー。
「帰ったらこれ食べよー」
そう言ってレジに向かう。
ここのスーパーは、レジ袋に2円かかるタイプだから、袋は入りませんと店員さんに伝え、手に持って帰ることにした。
もうすぐ冬が始まりそうな寒くなってきた秋の夜。右手には暖かい彼の手をつなぎながら、左手にはさっきスーパーで買った98円のコーヒーゼリー。
生姜焼き定食を食べて、スーパーでコーヒーゼリー買って、歩いて家に帰るなんて、なんだかこういうの大学生みたいだねって笑いながら歩いた帰り道は、なんだかとっても幸せだった。
お家に帰ってリビングで2人で食べたコーヒーゼリーは、とってもおいしかった。
*
そんな昨日の夜を思い出した。
彼が帰ってしまって今日は1人。
余った1つのコーヒーゼリーを食べながら、昨日みたいな日常が、当たり前になる日が来ればいいなと思う。
そんな、遠距離恋愛9年目の秋の夜。
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