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キリング・ミー・ソフトリー【小説】70_ラフファントム
儚く散った恋と夏休みが終わる。
あと僅かな命を削って鳴き喚く蝉の音、この世に溢れる浮かれたラブソングが恨めしい。
今に始まったことではないが、両親が睦まじく接しているだけで無性に腹が立つ。
部屋の壁に掛けたカレンダーは何となく破るタイミングを見失って8月のまま変えられずにいた。
机の上には莉里さんと行ったライブの半券、或いはフェスのリストバンドが未練がましく置かれる。まるで時が止まったようだった。
彼女が放った言葉を忘れたくともそう簡単にはいかなかった。
〈恋に恋してる〉?全くもってその通り。
独りでに想いを寄せ、創られた彼女の姿を知った気になって、衝動的に突っ走り、焦って滑稽な形でなけなしの愛を届けてしまうなど、評価出来る点も見当たらないお手上げ状態。
『はじまりどころかおしまいでした』
仲間に報告すれば知成が家まですっ飛んでくる。かつての少年時代が過ぎる一コマだ。
「ちー、今日はどっかでサボろ。」
「ありがと。でも俺はちゃんと大学行くわ、フラれんの分かってたから。」
派手なファッションに身を包む親友に慰められ、キャンパス内にてこちらを見つけ出すなり間髪入れずに真司が駆け寄る。
普段の落ち着き払った彼とはだいぶ様子が違う。
「千暁!頑張ったな。」
「いや、潔く正面からぶつかったっつーか、そんなんじゃねえんだ。ぶっちゃけ俺が見てたのは幻だったっぽい。」
淳は呆れ顔でトドメを刺した。
「はあ。もう言っちゃった訳?明らかに時期尚早だと思ったけど。」
「耐え切れなくなったの!だって、人の気持ちってどうしようもなくね?」
わざといつだか彼が宣った発言を掘り返すとそりゃそうだ、ごめんと黙り込む。
腹の中でどのように考えていても彼らは莉里さんを扱き下ろしたりはせず、ただこちらの話を聞いてくれる。それがいかにありがたかったか。
フラれた憂さ晴らしに相手の悪口を連ね愚痴を吐き満足するという風潮があるが個人の自由なので結構。一方、そもそも自分が惚れた人なのだ。
勿論あれ以来、彼女からの連絡はぱったり途絶えた。幸い、つぶやきSNSもメッセージアプリもブロックはされていないようで緊張の糸が切れる。たかがフォロワーの1人に逆戻りした。
今はまだ拭い去れそうもない莉里さんのこと。
時間の流れに伴って、そのうち踏ん切りがつくんだろう。