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「Instant T…/今この瞬間に」@エッフェル塔そばの2つ星レストラン「David Toutain」 フランスの週間フードニュース 2022.01.28

今週のひとこと

パリ7区自宅のそばにミシュラン2つ星を冠するレストラン「David Toutain」があります。
ダヴィッドがAgapé Substanceという店のシェフをしていたときからの知己なので、もう10年の付き合いに。Agapé Substanceは小さくて細長いスペースにカウンターだけの店で、まさに鰻の寝床のようでしたが、そのカウンターで才気走った小皿料理を15から20は出すという、神業のようなクリエーション力に、パリジャンならず世界中の人が注目したという時期がありました。2013年の年末に自身のレストランをオープンして、そろそろ10年目を迎えようとしているというのは、感慨深い。ミシュランの2つ星を獲得しています。
ダヴィッドの創作の個性は、なんといっても、自然の中から切り出してきたような、素材の味わいの素朴さと繊細さの調合がもたらすハーモニーです。丸ごと火を通した西洋ごぼう。それに添えられているのは、ホワイトチョコレートとパースニップのムース。牡蠣とフランボワーズ、エシャロットのボンボン。バターナッツとさまざまな柑橘類の前菜。帆立貝に芽キャベツの葉、カレー風味。Agapé Substanceでは小皿でしたが、今の店でも、突き出しからデザートまでを含め、完全なメニュー構成を頼めば、ざっと20種強はサービスします。
農家だった祖父母の薫陶を受けて、ノルマンディーで育ち、もともと自然の味わいへの感性が高かったのではないかと思います。Alain Passardにも愛され、Pierre Gagnaire、 Bernard Pacaudの下でも学び、サヴォワのMarc VeyratやMugaritzのラボでは、植物の味わいを徹底的に学んできました。
マリーゴールド、シコレの香りが湧き上がるような、かぼちゃのソルベ。炊いた菊芋に、アクセントを与えてくれるヘーゼルナッツ、くるみ。自然との出会いが、ピュアに表現される、どっしりとした技術と表現力に、改めて感激しました。


メニューには、どこどこの素材だとか、だれが育てた家畜、めったに手に入らない素材などのスペックは、まったく書かれていません。またそっけない素材名だけの羅列でもなく、ダヴィッドが紡ぐ糸だけがみえてくる。

頭は「Hivers 2022 Lierre Terrestre/現世の木蔦」
突き出しは「Au Bout des Doigts…/指先で」
メインの料理の前には「Au Fil du Temps…/時とともに」
デザートの始まりに「Instant T…/今この瞬間に」

そして「Tous les goût dans la nature/全ての味わいは自然の中にある」とも。頭でではなく、心で感じることのできるメニューでした。
ダヴィッドが駆け出しのころ、将来の夢はと聞くと、街角のレストランをもちたいな、妻がいて子供がいてね、日常の生活の喜びかな、と言っていたのを思い出しました。
壮大なことに手を出すのではなく、目の前の幸せを育み、分かち合うことが至上だからこそ、与えてくれる食卓の喜び。




食事の後、ダヴィッドとしばし歓談。気恥ずかしさからくるシニカルな冗談を飛ばす態度は変わらず。そして今回食事を共に分かち合ったチョコレートのスペシャリストでシェフたちの研修も始めているVictoire Finazもともに、感性やら自然との関わりについて飾らぬ歓談。本音で語らえ、お互いのプロジェクトを励ましあえる人々の友情の僥倖に改めて気付かされました。

店はオープン時から少しずつ進化しており、キッチンには窓を設けて、奥の部屋とのアイコンタクトも図れるように。また右の物件も買い足して、奥にはラボが設けられていました。パリにいながら、自然との対話を行える、静かなラボが店の奥に隠されていました。

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載させていただいております。食関係者に向けて、ヒントになるニュースをピックアップさせていただいております。【A】メトロ・フランス、1月から3月、天然シーバスの販売を全面停止。【B】アラン・デュカスとBMWフランスが「持続可能な開発」をテーマに提携。【C】CNNトラベル「世界のスープベスト20」を発表。【D】ヤニック・アレノ、「コルベール委員会」入り。【E】「Leclerc社」バゲット1本の価格29セント凍結の論争。

今週のトピックス

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