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怒りより重たい感情

ずいぶん昔の事だけれど、心地よさに惹かれて色々なサロンにマッサージを受けに行っていたことがあった。
趣味の一つみたいな感じだったけれど、気にいるとリピートすることも多く、その日もリピートだった。

サロンとの相性というよりは、施術者との相性がとても大きくて、指名制の場合は指名料を支払ってでも、相性の良い人にお願いするようにしていた。

その日は指名制ではないサロンに行き、たまたま担当してくれた方に施術してもらったが、マッサージを受けているうちにどんどん身体が詰まっていくような感覚になっていった。

わざわざマッサージに来てこれはなんぞ?!?!

担当の女性は大人しくて黙々と一生懸命マッサージをしてくれているような雰囲気で、特に投げやりにされてるとか手を抜かれているという感じでもない。
思い過ごしなのかなと思って少しそのままにしていたけれど、肩周りを触られているとき、もうどうしようもなく耐えられなくなり、

「済みません、他の方と変わってもらえませんか?」

とお願いした。

担当してくれていた方は、泣きそうな感じで謝りながら、他のスタッフを呼びに行った。
新たに出てきたスタッフは、明らかに怒っていた。

「え、なにか問題がありましたか?」

遠い昔の事で、細かい言い回しは覚えてないけれど、腹立たしさを抑えたような表情と声だった。やっと休憩時間に入って、食事でもしていたところだったのかもしれないが、私にとっては預かり知らないこと。

「してくださっている事には問題はありませんでしたが、相性が合わないようなので、別の方にお願いしたいです。」

と、有り体に話し、その怒っている人が引き続き担当してくれる事になる。
なんでだよ、といったような怒りのオーラを含んだマッサージだったけれど、先ほどあった重さは消えて、身体はとても楽になった。


物理的に見たら、この出来事は一生懸命にマッサージをしているスタッフに対して、明確な理由もなく急にチェンジを申し出てきた迷惑な客だっただろうと思う。

だけどあの、身体をどんどん重く詰まらせていくようなマッサージを受け続けようとは、とても思えなかった。
目に見えないものも含めて考えれば、明らかにエネルギー的な干渉があったとしか思えない。

シンプルに考えれば、後から出てきた怒りのエネルギーをにじませたスタッフの方がヤバそうな気がするけれど、その怒りのエネルギーは私になんの干渉もしていなかった。身体は撫でられた分だけ楽になっていた。

とすると、最初のスタッフのエネルギーの正体はなんだったのか。
単に相性が合わなかっただけだろうとあの時は思っていたけれど、ふと推測が浮かぶ。

あれは、悲しみのエネルギーだったのではないか。

雰囲気的には、大人しくて可愛らしいスタッフだった。恋人との間でなにかトラブルがあったのかもしれない。悲しい、寂しい、そんなエネルギーをまともに食らったら、そりゃ私の身体は重く苦しく詰まっていくだろう。


施術が終わり、

「これでいいですか?」

とスタッフが怒りを滲ませながら言った。

「はい、ありがとうございます。」

私の先ほど感じた詰まりは取れていた。


怒りは二次感情だと良く言うが、怒りの下にあったのはきっと
「あの子が可哀想」
「飯食い損なった」
のような気持ちだったのだろう。

最初のスタッフがもし、
「私なんか誰にも愛されない」
「私なんて消えてしまいたい」
みたいな傷心の気持ちを抱えて私の身体を触っていたのだとしたら、そりゃあ苦しいし重くなるだろう。飯食い損なったと比べたら、その重さは歴然としている。


そんなこんなで、色んなサロンに行っていた私は次第に、

マッサージはこの人にしてもらう。

と、人を決めるようになった。


後にも先にも、マッサージを受けてる途中あんなに身体に異変が出たことはないけれど、触れると言うことは、身体の問題だけではなく精神状態も触れ合うのだということを、理解した体験だった。

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