急速なオンライン化の中で、本当のコミュニケーションを取り戻すときがきた
こんにちは。ホリスティックコーチの佐藤草(さとうそう)です。
オランダから、一人一人が持っている力を発揮するためのヒントをお届けしています。
今日はリアルな場で交わすコミュニケーションとオンラインでのコミュニケーションの違いや、「これからの時代」のコミュニケーションに必要なことについて考えてみたいと思います。
<こんな方に>
・オンラインではコミュニケーションが取りづらいと感じている方
・リアルな場で提供していたサービスや講座をオンラインに切り替えている方
・オンラインではサービスや講座などの満足度を上げたいと感じている方
・どんな場であっても他者とより良い関係性を築きたい方
・どんな場であっても持っている力を存分に発揮したい方
こんな人が書いています。
私はコーチ・エィというコーチング ファームでコーチとしてのキャリアをスタートさせたことから、当初はコミュニケーションや人と人との関係性がコーチとしての専門分野でした。
そこからさらに、他者との関係性の土台となる自分自身との関係性に関心がシフトし、今は意識の枠組みそのものの成長を専門とし、言語と非言語を組み合わせたアプローチのコーチング を提供しています。
10年近く主にオンラインでのコミュニケーションを専門としてきた経験から、急速なオンライン化によって何が起こっているのか・どう向き合えばいいのかを考え、記事にすることにしました。
1. 私たちが受け取っているのは言葉の意味だけではない
まずは、リアルな場でのコミュニケーションを想像してみてください。
相手がいて、何か話しています。
あなたは相手から何を受け取っているでしょうか。
「コミュニケーション」と聞くと、言葉のやりとりが浮かびやすいですが、私たちが交わしているのは言葉とその意味だけではありません。
たとえば、同僚に何かの仕事をお願いしたとき。
相手が「いいですよ」と言ってもそれが本当に心からのOKとは限りません。
そういうのって何となく分かりますよね?
私たちは無意識に、言葉と言葉以外のものを通じて周囲の人と様々なものをやりとりしているのです。
では私たちはどんなものをやりとりしているか。
インテグラル理論の4象限の考え方を使ってみてみましょう。
インテグラル理論はアメリカの思想家、ケン・ウィルバーの提唱する「世界の見方」についての理論です。
インテグラル理論では世界を内と外、個と集合の2つの軸を使った4つの象限から捉えることを提案しています。
内と外は、見えるもの・計測可能なものと、見えないもの・計測できないものとも言い換えることができます。
これを私たちが普段、視覚や聴覚などの様々な感覚を通じて相手から受け取っているものにあてはめてみます。
視覚や聴覚を通じて明確に認識できるのは右側(外)の領域ですが、そこから、私たちはそこからさらに左側(内)の領域のことも感じ取っています。
もしくは、声の調子や顔色から、体調やその人が身を置く環境についての情報を得ることもできます。
2. オンラインは「距離感」が掴めなくなる
それでは、リアルな場がオンラインに変わると何が起こるでしょうか。
普段は同じ場所で仕事をしている人たちが、それぞれの自宅から会議に参加をしている様子を想像してみてください。
言葉や表情、姿勢など、個人が発するものは基本的には変わりません。
しかし例えばオンライン(画面上)では人と人との物理的な位置関係というのは分からなくなってしまいます。
位置関係が分からなくなると、私たちが普段無意識に感じていた、人と人との関係性も分からなくなり、文字通り人と人との間にある「距離感」が掴みづらくなってしまいます。
その結果、そこにいる人たちの関係性や雰囲気と言った、普段無意識のうちに把握していたものも分からなくなってしまいます。
それに影響を受けて、個人が発している言葉や表情、姿勢なども変わってくるかもしれません。
人と人との関係性を判断する基準が減ると、その中で自分がどう立ち振る舞っていいのかというのが分からなくなり、コミュニケーションを取りづらいということが起こってしまいます。
3. 人は無意識に焦点を当てる情報を決めている
さらにオンラインでのコミュニケーションを難しくしているのが情報処理に関する脳の仕組みです。
私たちが普段「見ている」と思っているもののうち80%は、記憶からやってきていると言われています。つまり、実際に今この瞬間に見ているものは、全体の20%に過ぎないのです。
これは私たちが省エネをするための脳の仕組みでもあります。一瞬一瞬、目に入る全ての情報を更新していたら、脳の処理は大変なことになってしまいます。
だから「変化しているところ」や「重要なところ」に焦点を絞ってそこにある最新情報だけを取得するように処理を行なっているのです。(そのため同じ場面にいても人によって記憶が違うということが起こります)
どこに焦点を当てるのかについて、私たちはこれまでの経験や慣習の中から無意識に決めています。
ちょっとした人の気配や息づかいなどから、「次はここだ」という判断をしていることも多くあります。
そのため、リアルな場でのやりとりに慣れていると、例えばオンラインでの会議でたくさんの人の顔が並んでいるときにどこを重要な情報として扱えば良いかが分からずエネルギーを消耗してしまうということが起こるのです。
4. 本来持っている感覚をもっと発揮することができる
では、人と人との距離感が掴みづらいオンラインの場でも、他者とより良い関係を築いたり、サービスや講座の満足度を上げることができるのでしょうか?
それは私たちが本来持っている感覚や感性をもっと発揮することで実現することができます。
先ほど、「物理的な距離や位置関係が分からなくなると人と人との関係性も分かりづらくなる」と書きましたが、本当にそうでしょうか?
実は私たちは、人の声や表情など、ちょっとしたことを頼りに、4つの象限全ての情報を掴むという力があります。
例えば私はコーチングセッションを音声のみで提供していますが、聞こえてくるクライアントの声の質やトーン、間などから、クライアントの体調や環境、自分自身との関係性を聞き取ることができます。
打ち合わせの相手が複数人いてそれぞれ違う場所から打ち合わせに入っていて、かつ音声のみであっても、言葉の使い方や声の質感からそれぞれの人たちの関係性を想像することができます。
これは私が、聴くことに特化したトレーニングを積んでいるということもありますが、本来それぞれの人に、音だけで微細なものをキャッチしたり、ちょっとした表情の変化を捉える能力が備わっています。
それが普段、無意識のうちに身を置く環境が前提となっていることに気づいていなかったり、テキストのみのやりとりに慣れている中で持っている感覚が発揮されづらくなっているのです。
5. コミュニケーションを取り戻すときがきた
インターネットが発展・普及したのはここ20年ほどのことですが、急速に増えたテキストをベースとしたやりとりの中で、私たちは頭ばかりを使い本来持っていた聴覚や視覚、身体感覚を失いつつあったのではないでしょうか。
「言葉にすれば伝わる」と思い込んでいたのではないでしょうか。
お互いの距離感が目に見えて、「空気」が伝わりやすいリアルな場では、それでもまだ人とコミュニケーションを交わすことができたかもしれません。
しかし今、さらに急速に身体感覚を共有しない場でコミュニケーションを交わさざるを得なくなっている状況の中で、私たちは本来持っている繊細な感覚を取り戻すことが必要となっています。
コミュニケーションとは、文字情報や言葉そのものを伝えることではなく、目には見えないものも多く含んだ総合的な情報を交わすことです。
交わすだけでなく、交わしたものから新たな可能性をともにつくっていくプロセスでもあります。
相手に関心を向け続けること。そして、自分から伝えようとすること。
シンプルですが、そんなことが、オンラインの場でも他者と深いコミュニケーションを交わし、より良い関係を築いていくことにつながるのではと思っています。
そういう意味で、この「オンライン化せざるを得ない状況」というのは、私たちがコミュニケーションとは何かを見つめ直す機会なのかもしれません。
Illustrated by HISAKO ONO
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